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第58話 家の形
数日後の夜。
旧市街の工房のテーブルには、王都の地図と、何枚もの建物の間取り図が広げられていた。
ランプの火が揺れる中、インクと古い紙の匂いが漂っている。
リュシアンがペンを取り、クララと同じ目線になるようにしゃがみ込んだ。
「クララ。新しいお家は、どんなお部屋がいいですか?」
大人の都合で決めるのではない。娘の意思を最優先し、彼女が一番安心できる形を選ぶ。
クララは地図を不思議そうに覗き込みながら、小さな指をあごに当てて一生懸命に考えた。
「あのね、お庭があるところがいい! パパがきたとき、お庭でおはなしするの。……それから、ママのガチャンガチャンが見えるところ」
「織り機が見える場所ですね。わかりました」
リュシアンは微笑みながら、間取り図にさらさらと書き込みをしていく。
ロルフが面会に来た時、クララが家の中へ入れずに庭で対応できる導線。
そして、エリシアが仕事をしていても、クララから常に母の姿が見える広い作業場。
初等学校にも近く、治安の良い大通り沿いの物件が、二人の手によって絞り込まれていく。
かつては、辺境伯家の巨大な屋敷の片隅で、自分の居場所すら与えられずに息を潜めていた。
だが今は、自分たちの手で未来を選び、生活の形を作り上げることができる。
この「選べる幸福」こそが、エリシアにとって何よりの宝物だった。
そして一ヶ月後。
新しい家への引っ越し作業が落ち着き、真新しい木の匂いが漂うリビングで、三人での温かい夕食を囲んでいた時のこと。
初等学校に通い始めたクララが、鞄の中から一枚のプリントを取り出した。
「ママ、らいしゅう、がっこうではっぴょうかいがあるの」
クララの声は弾んでいたが、少しだけ迷うように視線を泳がせた。
「あのね……パパも、きてもいい?」
娘のその言葉に、エリシアはリュシアンと目を合わせた。
リュシアンは静かに頷き、エリシアもまた、迷うことなくクララの頭を撫でた。
「ええ、もちろんよ。パパにも、クララの頑張っている姿を見てもらいましょうね」
♦︎♦︎♦︎
旧市街の工房のテーブルには、王都の地図と、何枚もの建物の間取り図が広げられていた。
ランプの火が揺れる中、インクと古い紙の匂いが漂っている。
リュシアンがペンを取り、クララと同じ目線になるようにしゃがみ込んだ。
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大人の都合で決めるのではない。娘の意思を最優先し、彼女が一番安心できる形を選ぶ。
クララは地図を不思議そうに覗き込みながら、小さな指をあごに当てて一生懸命に考えた。
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そして、エリシアが仕事をしていても、クララから常に母の姿が見える広い作業場。
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かつては、辺境伯家の巨大な屋敷の片隅で、自分の居場所すら与えられずに息を潜めていた。
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そして一ヶ月後。
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「ママ、らいしゅう、がっこうではっぴょうかいがあるの」
クララの声は弾んでいたが、少しだけ迷うように視線を泳がせた。
「あのね……パパも、きてもいい?」
娘のその言葉に、エリシアはリュシアンと目を合わせた。
リュシアンは静かに頷き、エリシアもまた、迷うことなくクララの頭を撫でた。
「ええ、もちろんよ。パパにも、クララの頑張っている姿を見てもらいましょうね」
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