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第十四話『愚かな男の独白と、最後の決別』
「会うべきかどうか……」
フレデリック様からの手紙を握りしめ私は迷っていた。
もう関わりたくないという気持ちが強い。でもこのまま無視をして後々何か言われるのも面倒だった。
私の葛藤を見透かしたようにアレクシオス陛下が言った。
「会ってやればいい。君の気持ちにはっきりと区切りをつける良い機会だろう」
「でも……」
「心配するな」
陛下は私の頭を優しく撫でた。
「もちろん私も同席する。君に指一本触れさせはしないさ」
その言葉に背中を押され私はフレデリック様に会うことを決めた。
場所はリンドール城の一室。
約束の時間に現れたフレデリック様は私の記憶にある姿とはまるで別人だった。
自信に満ち溢れていた覇気は消え失せ頬はこけ目には暗い影が落ちている。
彼は私の姿を見るなりその場に崩れ落ちるようにして土下座した。
「イリス……! すまなかった……! 本当に申し訳ない……!」
床に額をこすりつけ彼は嗚咽交じりに謝罪の言葉を繰り返す。
「私はセレーナの嘘に完全に騙されていたんだ! 彼女の可憐な姿の裏にあんな悪魔のような心が隠されているとは思いもしなかった……!」
「そして君がどれほど誠実で優しい心の持ち主だったか……。君を失って全てを失って私は初めてそのことに気づいたんだ! 私は世界で一番の愚か者だ!」
彼の独白は聞いていて痛々しいほどだった。
隣に座るアレクシオス陛下は腕を組んだまま無表情でその様子を眺めている。
フレデリック様は涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を上げた。
「イリス、どうか……。どうかもう一度私にチャンスをくれないだろうか。これからの人生全てをかけて君に償う。だからもう一度……」
「もう一度やり直したいんだ!」
その言葉が出た瞬間、それまで黙っていたアレクシオス陛下が静かに口を開いた。
「ほう? 君の今後の人生は彼女への償いに費やされると。つまり君自身の人生はもう無いも同然ということだな。実に分かりやすい」
「なっ……!?」
あまりに冷静で的確なツッコミにフレデリック様は言葉を失う。
「君はイリスが私の婚約者になったと知って惜しくなった。ただそれだけだろう? 君が愛しているのはイリス本人ではない。『リンドール国王の婚約者』という彼女の肩書だ」
図星を突かれフレデリック様はぐっと唇を噛む。
私は彼の姿を静かに見つめていた。
もう怒りも悲しみも湧いてこない。
ただ空っぽの感情があるだけだった。
私はゆっくりと立ち上がった。
そして床にひれ伏す彼に向かって最後の言葉を告げるために口を開いた。
「フレデリック様」
その声は自分でも驚くほど冷たく響いた。
「あなたの謝罪は受け取りません」
「そしてもう二度と私の前に現れないでください」
私のきっぱりとした拒絶。
それにアレクシオス陛下は満足げに微笑んだ。
しかしフレデリック様は信じられないという顔で私を見上げた。
「な……ぜだ……? イリス……。まだ私のことを……。あんな酷い仕打ちをした私のことを許せないのか……?」
その問いに私は静かに首を横に振った。
フレデリック様からの手紙を握りしめ私は迷っていた。
もう関わりたくないという気持ちが強い。でもこのまま無視をして後々何か言われるのも面倒だった。
私の葛藤を見透かしたようにアレクシオス陛下が言った。
「会ってやればいい。君の気持ちにはっきりと区切りをつける良い機会だろう」
「でも……」
「心配するな」
陛下は私の頭を優しく撫でた。
「もちろん私も同席する。君に指一本触れさせはしないさ」
その言葉に背中を押され私はフレデリック様に会うことを決めた。
場所はリンドール城の一室。
約束の時間に現れたフレデリック様は私の記憶にある姿とはまるで別人だった。
自信に満ち溢れていた覇気は消え失せ頬はこけ目には暗い影が落ちている。
彼は私の姿を見るなりその場に崩れ落ちるようにして土下座した。
「イリス……! すまなかった……! 本当に申し訳ない……!」
床に額をこすりつけ彼は嗚咽交じりに謝罪の言葉を繰り返す。
「私はセレーナの嘘に完全に騙されていたんだ! 彼女の可憐な姿の裏にあんな悪魔のような心が隠されているとは思いもしなかった……!」
「そして君がどれほど誠実で優しい心の持ち主だったか……。君を失って全てを失って私は初めてそのことに気づいたんだ! 私は世界で一番の愚か者だ!」
彼の独白は聞いていて痛々しいほどだった。
隣に座るアレクシオス陛下は腕を組んだまま無表情でその様子を眺めている。
フレデリック様は涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を上げた。
「イリス、どうか……。どうかもう一度私にチャンスをくれないだろうか。これからの人生全てをかけて君に償う。だからもう一度……」
「もう一度やり直したいんだ!」
その言葉が出た瞬間、それまで黙っていたアレクシオス陛下が静かに口を開いた。
「ほう? 君の今後の人生は彼女への償いに費やされると。つまり君自身の人生はもう無いも同然ということだな。実に分かりやすい」
「なっ……!?」
あまりに冷静で的確なツッコミにフレデリック様は言葉を失う。
「君はイリスが私の婚約者になったと知って惜しくなった。ただそれだけだろう? 君が愛しているのはイリス本人ではない。『リンドール国王の婚約者』という彼女の肩書だ」
図星を突かれフレデリック様はぐっと唇を噛む。
私は彼の姿を静かに見つめていた。
もう怒りも悲しみも湧いてこない。
ただ空っぽの感情があるだけだった。
私はゆっくりと立ち上がった。
そして床にひれ伏す彼に向かって最後の言葉を告げるために口を開いた。
「フレデリック様」
その声は自分でも驚くほど冷たく響いた。
「あなたの謝罪は受け取りません」
「そしてもう二度と私の前に現れないでください」
私のきっぱりとした拒絶。
それにアレクシオス陛下は満足げに微笑んだ。
しかしフレデリック様は信じられないという顔で私を見上げた。
「な……ぜだ……? イリス……。まだ私のことを……。あんな酷い仕打ちをした私のことを許せないのか……?」
その問いに私は静かに首を横に振った。
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