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第二十二話『妹の処遇と、王家の聖剣』
父の待つ破滅した実家。
セレーナにとってそこはもはや地獄でしかないだろう。
彼女の瞳に浮かぶ純粋な恐怖の色を見て私の心は決まった。
「……陛下」
私はアレクシオス陛下に向き直りはっきりと告げた。
「セレーナはしばらく私の離宮で預かります。ここで様子を見させてください」
「なに!?」
私の言葉に陛下は心底驚いた顔をした。
セレーナ自身もそして側にいたアンナやライオス団長までもが目を丸くしている。
「本気かイリス? あんなに君を苦しめた女だぞ? 側に置いてまた何をされるか……」
「大丈夫です」
私は陛下の言葉を遮ってにっこりと微笑んだ。
「今の私ならもう彼女に何をされても揺らぐことはありませんから。それに……」
私は俯くセレーナに視線を落とした。
「彼女には自分の犯した罪ときちんと向き合ってもらう必要があります。そのためには破滅した実家で自暴自棄にならせるより私の目の届く場所に置いた方が良いとそう判断しました」
私の揺るぎない瞳。
それを見たアレクシオス陛下はやれやれと肩をすくめた。
「……君がそう言うのなら。分かった、君の判断を尊重しよう。ただし何かあればすぐに言うんだぞ」
「はい陛下。ありがとうございます」
こうしてセレーナは囚人としてではなく私の『預かり人』としてリンドール城の月の離宮で暮らすことになった。
もちろん彼女に与えられたのは豪華な客室ではない。
離宮の隅にある物置を改造しただけの簡素な小さな一室だった。
「さあこちらがあなたの部屋ですわ。贅沢は言わせませんからね」
アンナはセレーナに対してあからさまに冷たい態度を取った。
食事を運ぶ時もわざと音を立ててトレイを置いたりする。
「アンナ、あまり意地悪をしてはだめよ」
「ですがお嬢様!」
「いいの。今はそっとしておいてあげて」
私の言葉にアンナは不満そうにしながらも渋々引き下がった。
その日の午後から私はアレクシオス陛下と共に城の地下にある巨大な書庫に籠っていた。
自分の『聖女の力』についてもっと詳しく知るためだ。
「うーん、古い文献が多すぎてどこから手をつけていいか……」
埃っぽい本をめくりながら陛下がぼやく。
私も慣れない古代語で書かれた書物を読み解くのに四苦八苦していた。
そして数時間が経った頃。
一冊のひときわ古い革張りの本の中に私たちはある記述を見つけた。
「これだ……! 『聖女の魂は対となる王家の聖剣に呼応しその力を最大限に発揮する』……?」
私がその一文を読み上げるとアレクシオス陛下がポンと手を打った。
「王家の聖剣……? あああれか! 城の宝物庫に飾られているあのバカでかい剣のことだな!」
「ご存じなのですか?」
「ああ。我がリンドール王家の建国の神器とされているが初代国王以来誰一人として鞘から抜くことができた者がいないんだ。今ではただの縁起の良い飾り物さ」
聖女の力と王家の聖剣。
二つが揃う時何かが起きる。
新たな謎が私たちの前に現れた。
その夜。
私は離宮の廊下を歩いていてふとセレーナの部屋の前で足を止めた。
部屋の中からくぐもった苦しそうな声が聞こえてきたからだ。
扉にそっと耳を当てる。
それは悪夢にうなされる妹の寝言だった。
「……いや……やめて……ごめんなさい……」
「……お姉様……ごめんなさい……」
そのか細い謝罪の言葉。
それを聞いてしまった私の胸はチクリとでも確かに痛んだ。
セレーナにとってそこはもはや地獄でしかないだろう。
彼女の瞳に浮かぶ純粋な恐怖の色を見て私の心は決まった。
「……陛下」
私はアレクシオス陛下に向き直りはっきりと告げた。
「セレーナはしばらく私の離宮で預かります。ここで様子を見させてください」
「なに!?」
私の言葉に陛下は心底驚いた顔をした。
セレーナ自身もそして側にいたアンナやライオス団長までもが目を丸くしている。
「本気かイリス? あんなに君を苦しめた女だぞ? 側に置いてまた何をされるか……」
「大丈夫です」
私は陛下の言葉を遮ってにっこりと微笑んだ。
「今の私ならもう彼女に何をされても揺らぐことはありませんから。それに……」
私は俯くセレーナに視線を落とした。
「彼女には自分の犯した罪ときちんと向き合ってもらう必要があります。そのためには破滅した実家で自暴自棄にならせるより私の目の届く場所に置いた方が良いとそう判断しました」
私の揺るぎない瞳。
それを見たアレクシオス陛下はやれやれと肩をすくめた。
「……君がそう言うのなら。分かった、君の判断を尊重しよう。ただし何かあればすぐに言うんだぞ」
「はい陛下。ありがとうございます」
こうしてセレーナは囚人としてではなく私の『預かり人』としてリンドール城の月の離宮で暮らすことになった。
もちろん彼女に与えられたのは豪華な客室ではない。
離宮の隅にある物置を改造しただけの簡素な小さな一室だった。
「さあこちらがあなたの部屋ですわ。贅沢は言わせませんからね」
アンナはセレーナに対してあからさまに冷たい態度を取った。
食事を運ぶ時もわざと音を立ててトレイを置いたりする。
「アンナ、あまり意地悪をしてはだめよ」
「ですがお嬢様!」
「いいの。今はそっとしておいてあげて」
私の言葉にアンナは不満そうにしながらも渋々引き下がった。
その日の午後から私はアレクシオス陛下と共に城の地下にある巨大な書庫に籠っていた。
自分の『聖女の力』についてもっと詳しく知るためだ。
「うーん、古い文献が多すぎてどこから手をつけていいか……」
埃っぽい本をめくりながら陛下がぼやく。
私も慣れない古代語で書かれた書物を読み解くのに四苦八苦していた。
そして数時間が経った頃。
一冊のひときわ古い革張りの本の中に私たちはある記述を見つけた。
「これだ……! 『聖女の魂は対となる王家の聖剣に呼応しその力を最大限に発揮する』……?」
私がその一文を読み上げるとアレクシオス陛下がポンと手を打った。
「王家の聖剣……? あああれか! 城の宝物庫に飾られているあのバカでかい剣のことだな!」
「ご存じなのですか?」
「ああ。我がリンドール王家の建国の神器とされているが初代国王以来誰一人として鞘から抜くことができた者がいないんだ。今ではただの縁起の良い飾り物さ」
聖女の力と王家の聖剣。
二つが揃う時何かが起きる。
新たな謎が私たちの前に現れた。
その夜。
私は離宮の廊下を歩いていてふとセレーナの部屋の前で足を止めた。
部屋の中からくぐもった苦しそうな声が聞こえてきたからだ。
扉にそっと耳を当てる。
それは悪夢にうなされる妹の寝言だった。
「……いや……やめて……ごめんなさい……」
「……お姉様……ごめんなさい……」
そのか細い謝罪の言葉。
それを聞いてしまった私の胸はチクリとでも確かに痛んだ。
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