妹が私の全てを奪いました。婚約者も家族も。でも、隣国の国王陛下が私を選んでくれました

放浪人

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第三十七話『新しい力と、ざまぁの後日談』

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私の力はなくなってなどいなかった。
むしろペンダントという枷から解き放たれより自然により優しく私の魂と一つになっていたのだ。

それはおばあ様から与えられた力ではなく私自身が生まれながらに持っていた本来の力。
そのことに気づいた時私の心は晴れやかな青空のように澄み渡っていった。

「すごいぞイリス! 君は歩く聖樹になったのだな!」
「まさに生命の女神だ!」

私の新しい力を知ったアレクシオス陛下は大喜びでまた少しズレた賛辞を贈ってくれる。

「ではイリス、試しにこの私の心の中に君への愛という名の大輪の花を咲かせてみてはくれないだろうか!」
「陛下、それは私の力ではどうにも……」
「なんと! 聖女の力をもってしても不可能なことがあるとは……!」

本気でがっかりしている陛下に私は苦笑するしかない。

「これからはお姉様のことをこうお呼びしますわ! 『緑の手を持つ聖女(グリーン・ハンド・セイント)』!」
セレーナがキラキラした目で私に勝手な二つ名をつけようとする。

「却下ですわセレーナさん。安直すぎます」
しかしその提案は即座にアンナによってバッサリと切り捨てられた。

そんな風に穏やかで笑いの絶えない日々が月の離宮に戻ってきた。
戦いの緊張から解放され誰もが心からの平穏を楽しんでいた。

そんなある日。
一通の手紙が私の元に届けられた。
差出人はアルメリア侯爵家。
私の父からの手紙だった。

封を開ける前からその内容はおおよそ想像がついた。
私はアレクシオス陛下の前で静かにその手紙を読み始める。

そこにはやはり予想通りの悲惨な現状が弱々しい文字で綴られていた。

――領地は王家からの沙汰により没収寸前であること。
――先代から続いていた事業はことごとく破綻し莫大な借金だけが残ったこと。
――その心労から父自身が病に倒れ母も後を追うように寝込んでしまったこと。

手紙の最後には私への見苦しいまでの命乞いの言葉が書き連ねてあった。
『どうかお前の力で我らを救ってはくれまいか』と。

さらに追伸としてこんな一文も添えられていた。

『追伸:先日街の酒場でフレデリック殿を見かけた。彼はバーンシュタイン公爵家から勘当され全ての身分を剥奪されたそうだ。今は日銭を稼いでは安酒を煽るだけの荒んだ生活を送っている。見る影もなかった』

かつての婚約者の哀れな末路。
私から全てを奪った家族の自業自得の報い。

私はその手紙を読み終えると何の感情も見せず静かに暖炉の火の中へと投げ入れた。
燃え上がる炎が私の過去を完全に灰に変えていく。

「……よかったのかい?」
陛下が心配そうに尋ねる。

「はい。もう私には関係のない人たちですから」

これで全てが終わった。
そう思った時。
父からの手紙が入っていた封筒の中に、もう一つ別の封筒が同封されていることに私は気づいた。

そこには気品のある美しい紋章が刻印されている。
バーンシュタイン公爵家の紋章だ。

『イリス妃殿下に内密にお会いしお渡ししたい儀あり。バーンシュタイン公爵』

フレデリック様の、お父上から……?
一体何の用だろうか。
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