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第十六話:氷の覚醒、迫る刃
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「フハハハハ! 死ね、カシウス! そしてスパイ女!」
バルザック卿の、狂気に満ちた叫び。
血に濡れた剣が、雨風と共に天幕に吹き込む。
その刃は、まっすぐ私と、ベッドで動けないカシウス様を捉えていた。
「「危ない!」」
ゼノン様が、私を突き飛ばすようにして前に出た。
ガギィィン!
甲高い金属音が、天幕の中に響き渡る。
「くっ……!」
ゼノン様が、バルザック卿の重い一撃を受け止める。
でも、彼はさっきの魔獣との戦いで、すでに深手を負っていた。
足元が、ふらついている。
「どけ! 忠犬が!」
「ぐっ……! 閣下を、傷つけさせるものか!」
「その閣下が、俺の公爵位を奪ったのだ! 兄上の忘れ形見などと、持て囃されて!」
バルザック卿が、獣のように吠える。
(悪役の正義……。歪んでいるわ!)
(この人、カシウス様に、嫉妬して……)
「ゼノン様! ダメ、その傷では……!」
「アリア殿! 早く閣下を!」
無理だ。
カシウス様は、高熱で、動けない。
バルザック卿が、ゼノン様を蹴り飛ばした。
ドサッ!
ゼノン様が、天幕の支柱に叩きつけられる。
「まずは、お前からだ、スパイ女!」
バルザック卿の、濁った目が、私を捉えた。
剣が、振り上げられる。
(あ……)
(私、ここで……)
(ルナ……ごめん……)
恐怖で、体が動かない。
私は、カシウス様のお守り袋を握りしめたまま、ギュッと目を閉じた。
その時。
「……触るな」
地を這うような、低い声。
でも、それは、ゼノン様の声じゃない。
私が、目を開けると。
信じられない光景が、そこにあった。
ベッドで死んだように横たわっていたはずの、カシウス様が。
その、鍛え上げられた上半身を、起こしていた。
高熱で、肌は真っ赤だ。
左胸の呪いの文様が、不気味に脈打っている。
でも。
その青い瞳だけが、五年前の、あの冷酷な「氷の公爵」よりも、さらに冷たい光を宿していた。
「……カシウス、様……?」
私の、解毒薬が、効いた?
いや、それだけじゃない。
彼の、この怒りは……。
「……まだ、生きていたか、出来損ないが!」
バルザック卿が、一瞬怯んだ。
だが、すぐに、怒りで顔を歪め、カシウス様に剣を突き立てた。
「死ね!」
(ダメ!)
カシウス様は、病人なのに!
私は、彼を庇おうと、前に飛び出した。
だが。
カシウス様の動きは、それよりも速かった。
彼は、ベッドから転がり落ちるように立ち上がると、ゼノン様が落とした剣を、拾った。
そして。
ガギィィィン!
バルザック卿の剣を、真正面から、受け止めていた。
さっきのゼノン様とは、比べ物にならない、重い音。
「な……!?」
バルザック卿が、目を見開く。
カシウス様は、呪いと高熱で、立っているのもやっとのはずだ。
足が、ガクガクと震えている。
汗が、滝のように流れている。
でも、その腕は、微動だにしなかった。
「……叔父上」
カシウス様の、唇が動く。
「……貴様だけは」
彼は、氷の瞳で、バルザック卿を睨み据えた。
「……貴様だけは、俺が斬る」
バルザック卿の、狂気に満ちた叫び。
血に濡れた剣が、雨風と共に天幕に吹き込む。
その刃は、まっすぐ私と、ベッドで動けないカシウス様を捉えていた。
「「危ない!」」
ゼノン様が、私を突き飛ばすようにして前に出た。
ガギィィン!
甲高い金属音が、天幕の中に響き渡る。
「くっ……!」
ゼノン様が、バルザック卿の重い一撃を受け止める。
でも、彼はさっきの魔獣との戦いで、すでに深手を負っていた。
足元が、ふらついている。
「どけ! 忠犬が!」
「ぐっ……! 閣下を、傷つけさせるものか!」
「その閣下が、俺の公爵位を奪ったのだ! 兄上の忘れ形見などと、持て囃されて!」
バルザック卿が、獣のように吠える。
(悪役の正義……。歪んでいるわ!)
(この人、カシウス様に、嫉妬して……)
「ゼノン様! ダメ、その傷では……!」
「アリア殿! 早く閣下を!」
無理だ。
カシウス様は、高熱で、動けない。
バルザック卿が、ゼノン様を蹴り飛ばした。
ドサッ!
ゼノン様が、天幕の支柱に叩きつけられる。
「まずは、お前からだ、スパイ女!」
バルザック卿の、濁った目が、私を捉えた。
剣が、振り上げられる。
(あ……)
(私、ここで……)
(ルナ……ごめん……)
恐怖で、体が動かない。
私は、カシウス様のお守り袋を握りしめたまま、ギュッと目を閉じた。
その時。
「……触るな」
地を這うような、低い声。
でも、それは、ゼノン様の声じゃない。
私が、目を開けると。
信じられない光景が、そこにあった。
ベッドで死んだように横たわっていたはずの、カシウス様が。
その、鍛え上げられた上半身を、起こしていた。
高熱で、肌は真っ赤だ。
左胸の呪いの文様が、不気味に脈打っている。
でも。
その青い瞳だけが、五年前の、あの冷酷な「氷の公爵」よりも、さらに冷たい光を宿していた。
「……カシウス、様……?」
私の、解毒薬が、効いた?
いや、それだけじゃない。
彼の、この怒りは……。
「……まだ、生きていたか、出来損ないが!」
バルザック卿が、一瞬怯んだ。
だが、すぐに、怒りで顔を歪め、カシウス様に剣を突き立てた。
「死ね!」
(ダメ!)
カシウス様は、病人なのに!
私は、彼を庇おうと、前に飛び出した。
だが。
カシウス様の動きは、それよりも速かった。
彼は、ベッドから転がり落ちるように立ち上がると、ゼノン様が落とした剣を、拾った。
そして。
ガギィィィン!
バルザック卿の剣を、真正面から、受け止めていた。
さっきのゼノン様とは、比べ物にならない、重い音。
「な……!?」
バルザック卿が、目を見開く。
カシウス様は、呪いと高熱で、立っているのもやっとのはずだ。
足が、ガクガクと震えている。
汗が、滝のように流れている。
でも、その腕は、微動だにしなかった。
「……叔父上」
カシウス様の、唇が動く。
「……貴様だけは」
彼は、氷の瞳で、バルザック卿を睨み据えた。
「……貴様だけは、俺が斬る」
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