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第四十八話:黒幕の、歪んだ正義
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(......マルコム公爵が私を指名?)
キッチンの温かい空気とは裏腹に。
私の心は急速に冷えていく。
ゼノン様の報告は続いた。
「......カシウス様は当然激怒されました」
「『妻を危険な場所に行かせるものか』と」
「......でしょうね」
(......あの溺愛夫)
(......目に浮かぶわ)
「......ですがマルコム公爵は頑として譲らず」
「『アリアを連れてこねば何も話さん』と」
「......国王陛下もお困りになって......」
(......そう)
(......あの悪役の正義)
(......マルコム公爵の目的は)
(......エルグランド公爵家の弱体化)
(......私に会って何をするつもり?)
(......私を嘲笑うため?)
(......それとも)
「......ゼノン様」
「......はい」
「......カシウス様は今どちらに?」
「......カシウス様は王宮の執務室で......」
「......分かりました」
私はエプロンを外した。
「......料理長」
「......は はい! 奥様!」
「......スープの火加減お願いね」
「......私ちょっと出かけてくるわ」
「......え?」
「......奥様! どこへ!?」
「......王宮よ」
「......黒幕(ラスボス)が私を呼んでるから」
「「「「......ええええええ!?」」」」
◇
王宮の地下牢。
ひんやりとした石造りの部屋。
そこはバルザック卿がいた牢獄とは違う。
公爵様専用の立派な客間(牢屋)だった。
(......すごい皮肉)
「......アリア様」
「......本当によろしいのですか?」
護衛の騎士が心配そうに私を見る。
「......ええ。大丈夫よ」
「......カシウス様には内緒でお願いね」
(......クスッ......)
(......帰ったら怒られるわね)
重い鉄の扉が開かれた。
中には一人の老人が座っていた。
豪華な椅子にふんぞり返り。
上質なワインを飲んでいる。
(......あれがマルコム公爵)
(......王妃の父親)
「......ほう」
マルコム公爵は私を見ると目を細めた。
「......カシウスの奴が許したか」
「......あの女(王妃)を退けた薬師女」
「......カシウス様はご存じありません」
「......私が勝手に来ただけですわ」
「......ククク」
マルコム公爵は喉を鳴らして笑った。
「......面白い」
「......五年前辺境に追放されて」
「......ずいぶんと肝が据わったようだな」
「......何のご用です?」
「......私を呼び出すなんて」
私は彼の目を真っ直ぐに見た。
薬師の目だ。
(......この老人)
(......死期が近い)
「......!」
私は息を飲んだ。
「......おや」
「......気づいたか薬師」
マルコム公爵は自分の手の甲を見せた。
そこには黒いシミが浮かんでいた。
「......慢性の毒」
「......もう長くはない」
(......だからあんな無茶な計画を?)
「......公爵」
「......あなたの正義は何です?」
私は彼に尋ねた。
「......エルグランド公爵家を陥れて」
「......王国を混乱させて」
「......あなたに何の得が?」
「......得だと?」
マルコム公爵は鼻で笑った。
「......娘(アリア)よ」
「......わしの正義は『均衡』だ」
(......均衡?)
「......強すぎる力は腐敗する」
「......カシウスの父親もそうだった」
「......そしてカシウスもそうだ」
「......あの『氷』の力はいつか王国を滅ぼす」
(......この人)
(......本気で国を憂いていたの?)
「......だからわしは楔を打った」
「......カシウスの心を折るために」
「......一番脆い部分」
「......お前を利用させてもらった」
「......!」
(......私を利用した......)
「......どうだ薬師」
「......わしに礼を言え」
「......わしがお前を追放したおかげで」
「......カシウスは記憶を失い」
「......お前は強くなった」
「......そして二人は結ばれた」
「......全てわしの手のひらの上だ」
「......フハハハハハ!」
マルコム公爵が高笑いする。
(......この悪役......!)
(......どこまで歪んでるの!)
「......一つ忘れてませんか?」
私は冷たく言った。
「......忘れている?」
「......ええ」
「......あなたの手のひらの上で」
「......私たちがただ踊っていただけなら」
私は懐から小瓶を取り出した。
「......この薬は何かしら?」
「......!」
マルコム公爵の笑いがピタリと止まった。
「......カシウス様があなたの部屋から見つけたそうよ」
「......あなたの『持病』の薬じゃないわよね?」
「......これは」
「......『王家』にしか伝わらない秘伝の毒」
「......あなたが国王陛下を暗殺しようとしていた証拠よ」
(......カシウス様のカマかけよ)
(......クスッ......)
「......き 貴様......!」
「......いつからそれを......!」
マルコム公爵の顔から血の気が引いた。
「......さあ?」
「......ゲームは終わりよ公爵」
「......あなたの『正義』ごっこもここまでね」
マルコム公爵はワイングラスを握りしめたまま震えていた。
私の完全勝利だった。
キッチンの温かい空気とは裏腹に。
私の心は急速に冷えていく。
ゼノン様の報告は続いた。
「......カシウス様は当然激怒されました」
「『妻を危険な場所に行かせるものか』と」
「......でしょうね」
(......あの溺愛夫)
(......目に浮かぶわ)
「......ですがマルコム公爵は頑として譲らず」
「『アリアを連れてこねば何も話さん』と」
「......国王陛下もお困りになって......」
(......そう)
(......あの悪役の正義)
(......マルコム公爵の目的は)
(......エルグランド公爵家の弱体化)
(......私に会って何をするつもり?)
(......私を嘲笑うため?)
(......それとも)
「......ゼノン様」
「......はい」
「......カシウス様は今どちらに?」
「......カシウス様は王宮の執務室で......」
「......分かりました」
私はエプロンを外した。
「......料理長」
「......は はい! 奥様!」
「......スープの火加減お願いね」
「......私ちょっと出かけてくるわ」
「......え?」
「......奥様! どこへ!?」
「......王宮よ」
「......黒幕(ラスボス)が私を呼んでるから」
「「「「......ええええええ!?」」」」
◇
王宮の地下牢。
ひんやりとした石造りの部屋。
そこはバルザック卿がいた牢獄とは違う。
公爵様専用の立派な客間(牢屋)だった。
(......すごい皮肉)
「......アリア様」
「......本当によろしいのですか?」
護衛の騎士が心配そうに私を見る。
「......ええ。大丈夫よ」
「......カシウス様には内緒でお願いね」
(......クスッ......)
(......帰ったら怒られるわね)
重い鉄の扉が開かれた。
中には一人の老人が座っていた。
豪華な椅子にふんぞり返り。
上質なワインを飲んでいる。
(......あれがマルコム公爵)
(......王妃の父親)
「......ほう」
マルコム公爵は私を見ると目を細めた。
「......カシウスの奴が許したか」
「......あの女(王妃)を退けた薬師女」
「......カシウス様はご存じありません」
「......私が勝手に来ただけですわ」
「......ククク」
マルコム公爵は喉を鳴らして笑った。
「......面白い」
「......五年前辺境に追放されて」
「......ずいぶんと肝が据わったようだな」
「......何のご用です?」
「......私を呼び出すなんて」
私は彼の目を真っ直ぐに見た。
薬師の目だ。
(......この老人)
(......死期が近い)
「......!」
私は息を飲んだ。
「......おや」
「......気づいたか薬師」
マルコム公爵は自分の手の甲を見せた。
そこには黒いシミが浮かんでいた。
「......慢性の毒」
「......もう長くはない」
(......だからあんな無茶な計画を?)
「......公爵」
「......あなたの正義は何です?」
私は彼に尋ねた。
「......エルグランド公爵家を陥れて」
「......王国を混乱させて」
「......あなたに何の得が?」
「......得だと?」
マルコム公爵は鼻で笑った。
「......娘(アリア)よ」
「......わしの正義は『均衡』だ」
(......均衡?)
「......強すぎる力は腐敗する」
「......カシウスの父親もそうだった」
「......そしてカシウスもそうだ」
「......あの『氷』の力はいつか王国を滅ぼす」
(......この人)
(......本気で国を憂いていたの?)
「......だからわしは楔を打った」
「......カシウスの心を折るために」
「......一番脆い部分」
「......お前を利用させてもらった」
「......!」
(......私を利用した......)
「......どうだ薬師」
「......わしに礼を言え」
「......わしがお前を追放したおかげで」
「......カシウスは記憶を失い」
「......お前は強くなった」
「......そして二人は結ばれた」
「......全てわしの手のひらの上だ」
「......フハハハハハ!」
マルコム公爵が高笑いする。
(......この悪役......!)
(......どこまで歪んでるの!)
「......一つ忘れてませんか?」
私は冷たく言った。
「......忘れている?」
「......ええ」
「......あなたの手のひらの上で」
「......私たちがただ踊っていただけなら」
私は懐から小瓶を取り出した。
「......この薬は何かしら?」
「......!」
マルコム公爵の笑いがピタリと止まった。
「......カシウス様があなたの部屋から見つけたそうよ」
「......あなたの『持病』の薬じゃないわよね?」
「......これは」
「......『王家』にしか伝わらない秘伝の毒」
「......あなたが国王陛下を暗殺しようとしていた証拠よ」
(......カシウス様のカマかけよ)
(......クスッ......)
「......き 貴様......!」
「......いつからそれを......!」
マルコム公爵の顔から血の気が引いた。
「......さあ?」
「......ゲームは終わりよ公爵」
「......あなたの『正義』ごっこもここまでね」
マルコム公爵はワイングラスを握りしめたまま震えていた。
私の完全勝利だった。
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