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第九話 社交界、噂の更新が早すぎる
「……えーと、レティシア? 部屋、間違えてないわよね?」
私の「城」――すなわち、クロード様によってピンク色に埋め尽くされた自室に、親友のセシリアが立ち尽くしていた。 彼女の手から、お土産の焼き菓子が滑り落ちそうになっている。
「合っているわよ、セシリア。ようこそ、私の……新しい部屋へ」
私は白猫のぬいぐるみ(特大)を膝に乗せたまま、努めて優雅に微笑んだ。 背景にはレースの天蓋、壁には恋愛小説全集、テーブルにはイチゴ柄のティーセット。 誰がどう見ても「悪役令嬢」の部屋ではない。「夢見る乙女のサンクチュアリ」だ。
「……信じられない。貴女、王宮ではあんなに『鉄の女』みたいな顔をして働いていたのに。中身はこんなに……メルヘンだったの?」
セシリアは情報通で知られる伯爵令嬢だ。 私の数少ない友人で、王太子との婚約破棄後、真っ先に連絡をくれたのも彼女だった。 今日は「心配だから様子を見に行く」と押しかけてきたのだが、心配の方向性が斜め上に飛んでいってしまったようだ。
「隠していたのよ。王太子妃候補に、こんな趣味は許されなかったもの」
「で、それを『氷の公爵』ことクロード様が許したと?」
「許すどころか……これ全部、彼が買い揃えてくれたの」
私が部屋中のグッズを指し示すと、セシリアは目を丸くし、それから口元を押さえて震え出した。
「……ぶっ、あはははは! 何それ! 最高じゃない!」
「わ、笑わないでよ!」
「笑うわよ! だってあのクロード様が、真顔でピンクの雑貨を買い漁っている姿を想像してみてよ! それに、この部屋……貴女のこと、甘やかす気満々じゃない!」
セシリアは涙を拭いながらソファに座り、身を乗り出してきた。
「ねえ、正直に言いなさい。レティシア、今、幸せ?」
直球の質問に、私は言葉に詰まった。 幸せか。 好きなものに囲まれ、美味しいものを食べ、何かにつけて「可愛い」「守る」と言ってくれる婚約者がいる。
「……うん。悔しいけど、すごく幸せ」
私が認めると、セシリアは満足げに頷いた。
「よかった。安心したわ。……じゃあ、次は外の話をしましょうか」
彼女の声のトーンが、すっと低くなる。 情報通モードへの切り替えだ。
「レティシア。今、王都で貴女がどう噂されているか知ってる?」
「ええ、だいたい想像はつくわ。『悪役令嬢が捨てられて、公爵家に拾われた』とかでしょう?」
「甘いわね。もっと酷いのが流れてる」
セシリアは扇子を広げ、声を潜めた。
「『レティシア・ヴァルモンは、王太子の機密文書を盗んで逃亡した』。さらに『アルヴァレス公爵を色仕掛けでたぶらかし、洗脳している』……なんて話まで出ているわよ」
「はぁ!?」
私は思わず立ち上がった。 機密文書? 洗脳? あまりにも荒唐無稽だ。
「誰がそんな嘘を……まさか、殿下?」
「王太子派の側近たちでしょうね。殿下の失態を隠すために、貴女を『稀代の悪女』に仕立て上げて、自分たちの正当性を保とうとしているのよ」
怒りで手が震えた。 私が泥を被るのは慣れている。でも、クロード様まで巻き込むなんて。 「洗脳」だなんて、あの人が聞いたら「私の精神防御は鉄壁だ」と真顔で怒るに違いない。
「許せない……」
「でしょうね。でも、安心して。私にいい考えがあるわ」
セシリアは悪戯っぽく笑い、ピンク色のマカロンを一つ摘んだ。
「噂っていうのはね、否定しても消えないの。『もっと面白い噂』で上書きするしかないのよ」
「上書き?」
「そう。貴女が『可哀想な悪役令嬢』でも『稀代の悪女』でもなく……『世界一愛されて困っちゃう幸福な女性』だという事実を、ばら撒いてやるの」
◇
その日の午後。 王都のメインストリートにある、貴族御用達のカフェテラス。 そこは社交界の噂の発信地として知られる場所だ。
セシリアは一番目立つ席に陣取り、友人たちとお茶を楽しんでいた。 もちろん、周囲の耳がダンボになっていることを計算に入れた上で。
「ねえ、聞いた? レティシア様のこと」
友人の一人が恐る恐る切り出すと、セシリアはわざとらしく大きなため息をついた。
「ええ、聞いてきたわよ。さっき公爵邸にお邪魔してきたんだから」
「えっ! あそこに入れたの!? 『氷の公爵』に門前払いされなかった?」
「門前払いどころか、大歓迎されたわよ。……正直、見ていられなかったわ」
セシリアは肩をすくめる。 周囲の客たちの会話が止まり、静まり返る。 誰もが「悪女の悪事の証言」を期待して聞き耳を立てているのだ。
「レティシア様ったら、やつれて泣いているかと思いきや……クロード様に溺愛されて、お部屋から出る暇もないんですって」
「は、はい?」
「クロード様がね、『彼女が歩くと疲れるから』って、屋敷の中では抱っこして移動させているらしいの。それに、毎日違うドレスと宝石が届くから、着替えるだけで一日が終わっちゃうって嘆いていたわ」
セシリアは私の部屋で見た(一部誇張された)事実を、面白おかしく語り始めた。
「それに、あの冷徹な公爵様が『君の笑顔は国の宝だ』って真顔で仰るんですって。レティシア様、恥ずかしすぎて顔から火が出そうだったわ」
「う、嘘でしょう? あのアルヴァレス公爵が?」
「本当よ。証拠に、これを見て」
セシリアが取り出したのは、私がクロード様との「視察デート」の時に買ってもらった、限定品のブローチだった(借りてきたのだ)。 そこには、アルヴァレス家の紋章と共に、最上級の魔力石が嵌め込まれている。
「これ、クロード様が自らデザインして贈ったものなんですって。『彼女を守る結界石』付きよ。洗脳された男が、ここまで手の込んだ贈り物をするかしら?」
「まあ……素敵……」
女性客たちの間から、感嘆のため息が漏れる。 「悪女」のイメージが、「シンデレラ」へと揺らぎ始めた瞬間だった。
時を同じくして、街の広場。 そこには、王国の社交評価を可視化する魔導掲示板『レピュテーション・ボード』が設置されている。 貴族たちの信用度や人気が数値化されて表示される、この国特有のシステムだ。
普段、トップに君臨していたのは「リオネル王太子」。 しかし、ここ数日でその数値はじわじわと下がり始めていたのだが……。
カシャ、カシャ、カシャッ。 数字のパネルが激しく回転し始めた。
【レティシア・ヴァルモン】 信用ランク:C(悪役) → 急上昇 → B+(注目)
【トレンドワード】 #溺愛 #ギャップ萌え #氷の公爵がデレた #実は被害者?
「おい見ろ! レティシア様の数値が上がってるぞ!」 「『洗脳』じゃなくて『溺愛』だったのか?」 「だとしたら、捨てた王太子の方が……見る目なかったんじゃないか?」
街の人々が掲示板を見上げてざわめく。 セシリアが撒いた種は、噂好きの貴族から庶民へと、風に乗って瞬く間に広がっていった。 「悪女」という暗いレッテルよりも、「冷徹公爵がメロメロ」というゴシップの方が、エンターテインメントとして遥かに面白かったからだ。
◇
夕方。 公爵邸に戻ってきたセシリアから報告を受けた私は、呆れつつも感心していた。
「すごい……本当に空気が変わったわ」
窓から見える王都の空には、私の信用回復を示す魔法の光(薄い金色のオーラ)が微かに漂っている。
「でしょう? これで『機密文書を盗んだ』なんてデマは、誰も信じなくなるわ。『そんな暇があるなら公爵といちゃついている』って思われるもの」
「……それはそれで、不名誉な気がするんだけど」
「いいのよ。今は『幸せな被害者』のポジションを固めるのが先決。そうすれば、王太子側が何を言っても『嫉妬による嫌がらせ』にしか見えなくなるから」
セシリアは紅茶を飲み干し、にやりと笑った。
「さあ、これで第一ラウンドは私たちの勝ちよ。向こうはどう出てくるかしらね」
◇
一方、王城。 リオネル王太子は、報告書を握り潰していた。
「な、なんだこれはぁぁぁ!!」
執務室に怒声が響く。 目の前の魔導端末には、急上昇するレティシアの支持率と、急落する自分の支持率が表示されている。
「な、なぜだ! なぜ『悪役令嬢』が称賛されている! 『クロードに溺愛されている』だと!? ふざけるな!」
「で、殿下、落ち着いてください……」
「落ち着いていられるか! 私は今、公務の失敗続きでただでさえ立場が悪いんだぞ! このままでは、父上に廃嫡を言い渡されかねん!」
リオネルは爪を噛んだ。 焦りが判断力を奪っていく。 元々、彼は追い詰められると短絡的な行動に出る悪癖があった。 そして、今の彼の周りには、それを諫めるレティシアはいない。代わりにいるのは、保身しか考えない側近たちだけだ。
「殿下……こうなれば、もっと決定的な『罪』をでっち上げるしかありません」
側近の一人が、悪魔の囁きをした。
「噂レベルではありません。法的に問える罪を。たとえば……『聖女候補ミレイユ様への危害』を具体的に捏造するのです」
「……ミレイユへの危害?」
「はい。ミレイユ様は民衆の人気が高い。彼女がレティシア様に傷つけられたとなれば、世論は一気に反転します。クロード公爵といえど、傷害事件の犯人を庇うことはできません」
リオネルの目が、怪しく光った。 それは最低の策だった。 かつての婚約者を犯罪者に仕立て上げる、外道の所業。 しかし、プライドを守ることに必死な彼には、それが起死回生の一手にしか見えなかった。
「……いいだろう。やれ」
リオネルは低い声で命じた。
「ミレイユには適当に言い含めておけ。……レティシア、お前が悪いんだぞ。素直に戻ってこないから、こうなるんだ」
歪んだ正義感を振りかざし、王太子は破滅へのボタンを押してしまった。 その選択が、レティシアだけでなく、クロードという「眠れる獅子」を完全に本気で怒らせることになるとも知らずに。
私の「城」――すなわち、クロード様によってピンク色に埋め尽くされた自室に、親友のセシリアが立ち尽くしていた。 彼女の手から、お土産の焼き菓子が滑り落ちそうになっている。
「合っているわよ、セシリア。ようこそ、私の……新しい部屋へ」
私は白猫のぬいぐるみ(特大)を膝に乗せたまま、努めて優雅に微笑んだ。 背景にはレースの天蓋、壁には恋愛小説全集、テーブルにはイチゴ柄のティーセット。 誰がどう見ても「悪役令嬢」の部屋ではない。「夢見る乙女のサンクチュアリ」だ。
「……信じられない。貴女、王宮ではあんなに『鉄の女』みたいな顔をして働いていたのに。中身はこんなに……メルヘンだったの?」
セシリアは情報通で知られる伯爵令嬢だ。 私の数少ない友人で、王太子との婚約破棄後、真っ先に連絡をくれたのも彼女だった。 今日は「心配だから様子を見に行く」と押しかけてきたのだが、心配の方向性が斜め上に飛んでいってしまったようだ。
「隠していたのよ。王太子妃候補に、こんな趣味は許されなかったもの」
「で、それを『氷の公爵』ことクロード様が許したと?」
「許すどころか……これ全部、彼が買い揃えてくれたの」
私が部屋中のグッズを指し示すと、セシリアは目を丸くし、それから口元を押さえて震え出した。
「……ぶっ、あはははは! 何それ! 最高じゃない!」
「わ、笑わないでよ!」
「笑うわよ! だってあのクロード様が、真顔でピンクの雑貨を買い漁っている姿を想像してみてよ! それに、この部屋……貴女のこと、甘やかす気満々じゃない!」
セシリアは涙を拭いながらソファに座り、身を乗り出してきた。
「ねえ、正直に言いなさい。レティシア、今、幸せ?」
直球の質問に、私は言葉に詰まった。 幸せか。 好きなものに囲まれ、美味しいものを食べ、何かにつけて「可愛い」「守る」と言ってくれる婚約者がいる。
「……うん。悔しいけど、すごく幸せ」
私が認めると、セシリアは満足げに頷いた。
「よかった。安心したわ。……じゃあ、次は外の話をしましょうか」
彼女の声のトーンが、すっと低くなる。 情報通モードへの切り替えだ。
「レティシア。今、王都で貴女がどう噂されているか知ってる?」
「ええ、だいたい想像はつくわ。『悪役令嬢が捨てられて、公爵家に拾われた』とかでしょう?」
「甘いわね。もっと酷いのが流れてる」
セシリアは扇子を広げ、声を潜めた。
「『レティシア・ヴァルモンは、王太子の機密文書を盗んで逃亡した』。さらに『アルヴァレス公爵を色仕掛けでたぶらかし、洗脳している』……なんて話まで出ているわよ」
「はぁ!?」
私は思わず立ち上がった。 機密文書? 洗脳? あまりにも荒唐無稽だ。
「誰がそんな嘘を……まさか、殿下?」
「王太子派の側近たちでしょうね。殿下の失態を隠すために、貴女を『稀代の悪女』に仕立て上げて、自分たちの正当性を保とうとしているのよ」
怒りで手が震えた。 私が泥を被るのは慣れている。でも、クロード様まで巻き込むなんて。 「洗脳」だなんて、あの人が聞いたら「私の精神防御は鉄壁だ」と真顔で怒るに違いない。
「許せない……」
「でしょうね。でも、安心して。私にいい考えがあるわ」
セシリアは悪戯っぽく笑い、ピンク色のマカロンを一つ摘んだ。
「噂っていうのはね、否定しても消えないの。『もっと面白い噂』で上書きするしかないのよ」
「上書き?」
「そう。貴女が『可哀想な悪役令嬢』でも『稀代の悪女』でもなく……『世界一愛されて困っちゃう幸福な女性』だという事実を、ばら撒いてやるの」
◇
その日の午後。 王都のメインストリートにある、貴族御用達のカフェテラス。 そこは社交界の噂の発信地として知られる場所だ。
セシリアは一番目立つ席に陣取り、友人たちとお茶を楽しんでいた。 もちろん、周囲の耳がダンボになっていることを計算に入れた上で。
「ねえ、聞いた? レティシア様のこと」
友人の一人が恐る恐る切り出すと、セシリアはわざとらしく大きなため息をついた。
「ええ、聞いてきたわよ。さっき公爵邸にお邪魔してきたんだから」
「えっ! あそこに入れたの!? 『氷の公爵』に門前払いされなかった?」
「門前払いどころか、大歓迎されたわよ。……正直、見ていられなかったわ」
セシリアは肩をすくめる。 周囲の客たちの会話が止まり、静まり返る。 誰もが「悪女の悪事の証言」を期待して聞き耳を立てているのだ。
「レティシア様ったら、やつれて泣いているかと思いきや……クロード様に溺愛されて、お部屋から出る暇もないんですって」
「は、はい?」
「クロード様がね、『彼女が歩くと疲れるから』って、屋敷の中では抱っこして移動させているらしいの。それに、毎日違うドレスと宝石が届くから、着替えるだけで一日が終わっちゃうって嘆いていたわ」
セシリアは私の部屋で見た(一部誇張された)事実を、面白おかしく語り始めた。
「それに、あの冷徹な公爵様が『君の笑顔は国の宝だ』って真顔で仰るんですって。レティシア様、恥ずかしすぎて顔から火が出そうだったわ」
「う、嘘でしょう? あのアルヴァレス公爵が?」
「本当よ。証拠に、これを見て」
セシリアが取り出したのは、私がクロード様との「視察デート」の時に買ってもらった、限定品のブローチだった(借りてきたのだ)。 そこには、アルヴァレス家の紋章と共に、最上級の魔力石が嵌め込まれている。
「これ、クロード様が自らデザインして贈ったものなんですって。『彼女を守る結界石』付きよ。洗脳された男が、ここまで手の込んだ贈り物をするかしら?」
「まあ……素敵……」
女性客たちの間から、感嘆のため息が漏れる。 「悪女」のイメージが、「シンデレラ」へと揺らぎ始めた瞬間だった。
時を同じくして、街の広場。 そこには、王国の社交評価を可視化する魔導掲示板『レピュテーション・ボード』が設置されている。 貴族たちの信用度や人気が数値化されて表示される、この国特有のシステムだ。
普段、トップに君臨していたのは「リオネル王太子」。 しかし、ここ数日でその数値はじわじわと下がり始めていたのだが……。
カシャ、カシャ、カシャッ。 数字のパネルが激しく回転し始めた。
【レティシア・ヴァルモン】 信用ランク:C(悪役) → 急上昇 → B+(注目)
【トレンドワード】 #溺愛 #ギャップ萌え #氷の公爵がデレた #実は被害者?
「おい見ろ! レティシア様の数値が上がってるぞ!」 「『洗脳』じゃなくて『溺愛』だったのか?」 「だとしたら、捨てた王太子の方が……見る目なかったんじゃないか?」
街の人々が掲示板を見上げてざわめく。 セシリアが撒いた種は、噂好きの貴族から庶民へと、風に乗って瞬く間に広がっていった。 「悪女」という暗いレッテルよりも、「冷徹公爵がメロメロ」というゴシップの方が、エンターテインメントとして遥かに面白かったからだ。
◇
夕方。 公爵邸に戻ってきたセシリアから報告を受けた私は、呆れつつも感心していた。
「すごい……本当に空気が変わったわ」
窓から見える王都の空には、私の信用回復を示す魔法の光(薄い金色のオーラ)が微かに漂っている。
「でしょう? これで『機密文書を盗んだ』なんてデマは、誰も信じなくなるわ。『そんな暇があるなら公爵といちゃついている』って思われるもの」
「……それはそれで、不名誉な気がするんだけど」
「いいのよ。今は『幸せな被害者』のポジションを固めるのが先決。そうすれば、王太子側が何を言っても『嫉妬による嫌がらせ』にしか見えなくなるから」
セシリアは紅茶を飲み干し、にやりと笑った。
「さあ、これで第一ラウンドは私たちの勝ちよ。向こうはどう出てくるかしらね」
◇
一方、王城。 リオネル王太子は、報告書を握り潰していた。
「な、なんだこれはぁぁぁ!!」
執務室に怒声が響く。 目の前の魔導端末には、急上昇するレティシアの支持率と、急落する自分の支持率が表示されている。
「な、なぜだ! なぜ『悪役令嬢』が称賛されている! 『クロードに溺愛されている』だと!? ふざけるな!」
「で、殿下、落ち着いてください……」
「落ち着いていられるか! 私は今、公務の失敗続きでただでさえ立場が悪いんだぞ! このままでは、父上に廃嫡を言い渡されかねん!」
リオネルは爪を噛んだ。 焦りが判断力を奪っていく。 元々、彼は追い詰められると短絡的な行動に出る悪癖があった。 そして、今の彼の周りには、それを諫めるレティシアはいない。代わりにいるのは、保身しか考えない側近たちだけだ。
「殿下……こうなれば、もっと決定的な『罪』をでっち上げるしかありません」
側近の一人が、悪魔の囁きをした。
「噂レベルではありません。法的に問える罪を。たとえば……『聖女候補ミレイユ様への危害』を具体的に捏造するのです」
「……ミレイユへの危害?」
「はい。ミレイユ様は民衆の人気が高い。彼女がレティシア様に傷つけられたとなれば、世論は一気に反転します。クロード公爵といえど、傷害事件の犯人を庇うことはできません」
リオネルの目が、怪しく光った。 それは最低の策だった。 かつての婚約者を犯罪者に仕立て上げる、外道の所業。 しかし、プライドを守ることに必死な彼には、それが起死回生の一手にしか見えなかった。
「……いいだろう。やれ」
リオネルは低い声で命じた。
「ミレイユには適当に言い含めておけ。……レティシア、お前が悪いんだぞ。素直に戻ってこないから、こうなるんだ」
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