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42.妖菓子鬼茶天タイム

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 殿様気分カフェと言うだけあって、その内装は特徴的だよ。
 上から順番に紹介すると。
 
1.円形折上縁金格天井
 天井の縁で角材を曲げ、1段たかくした天井のことを、折上縁天井(おりあげごうてんじょう)と言うの。
 ここでは円形の屋根に合わせて作ってある。
 釘を使わず、きれいな正方形を並べて組合わさった格子は、漆塗りな黒。
 しかも縁は金箔が施されてる。
 格子なかには、花や昆虫、海などの景色をカラフルに描いた日本画。
 花鳥風月、春夏秋冬といったイメージを自然に沸かせてくれる。
 
2.赤い二俣和紙と加賀の青しっくいの壁
 和紙ならではの繊細な赤。
 青しっくいの鮮やかな青を、それぞれ1メートル幅の右あがりストライプとしてはった。
 ところどころにある繊細な飾り棚には、地域の紹介本が並んでる。
 
3.寄せ木の市松模様の床。
 一緒に刻まれた花のモチーフも、寄せ木細工で作られてるの。
 マーケットリーというの。
 使われるイスやテーブルも、アンティーク。

4.ステージ
 ここは外せない!
 店の奥の、今はカーテンの下りた空間が、ここをシャイニー★シャウツのコンセプトカフェにしてくれる。
 そのカーテンは、デジタル緞帳。
 天井に仕込まれたプロジェクターが、天井の日本画と同じタッチで描かれた能登半島をアニメにして映しだす。
 デフォルメした能登を背景に、多くの人が行き交っている。
 その姿は、漁師、会社員、農家、そしてハンターキラーとさまざま。
 全体が暗いのは、いまが夜だからだよ。
 天候によっても、自動で演出を変えてくれる。
 そしてさっきまで、私たちの最新動画、『何が忘れられたのか』が映されていた。

 そのステージのすぐ前に、アーリンくんはいた。
 向かい合って座るのは、メガネをかけた赤い作務衣の男の子。
 鷲矢 武志さん。
 今はスマホ画面を見せながら、アーリンくんに何か説明していたみたい。
 そのアーリンくんが食い入るように見つめてるのをみると、多分機械系の説明なんだろう。
 武志さんは、達美さんの彼氏であり、メインエンジニアなんだ。
 そして隣のテーブルには、有村さんの言う通り、デザートやお菓子が並んでいる。
「やあ、来たね」
 こんばんは。
 アーリンくんも、こっちを見た。
 私に怯えているようだ。
 かまうもんか!
 私も絶対言いたいことがあるんだ。
「無事に帰れてよかったー」
 
 武志さんは私に気づくと、アーリンくんにむきなおった。
「じゃあ、始めようか」
「・・・はい、丸い角砂糖をください」
 お菓子の並んだテーブルから、武志さんはボンボニエールを持ってきた。
 ロボットじゃない。
 お砂糖をいれるものだ。
 ふたを開けると、そこにあったのはまさしく丸い角砂糖。
 アーリンくんの前においたカップに、新しい暖かいお茶を注ぐと、丸い角砂糖をいれた。
スプーンでかき混ぜながら。
「願いを言って、これを飲めば、契約成立だよ」
 達美さんにいわれて、アーリンくんはカップに手をつけた。
「僕は、九尾 朱墨にあいたい!」
 そういって、カップをグビグビ飲みほした。
 彼の口のなかが心配になるよ。
 だけど、達美さんは満足そう。
 そのくらいの度胸がないと、朱墨ちゃんにあってもムダ、ってことかな。
「じゃあ、始めるよ」
 そういって、両手を空に大きく広げた。
「Welcome to 妖菓子鬼茶天 time!」

 あやかしきっさてんたいむ。
 この店のなかでのみ使える、この人に許された最大の力。
 色つやのよい皮膚や髪の毛が、液体金属のボルケーニウムの形質を戻す。
 その波にのって、機械式の骨格から、様々な機能が解放される。
 背中にはジェットエンジンと、鳥のような羽が。
 さらに2本の新しい腕が生える。
 全身は大ぶりな装甲で、服ごとおおわれる。
 顔は、あのかわいい顔が銀色のガイコツじみた機械を見せる。
 そこに、胴体からとびだしたヘルメットがおおう。
 すべての機械が定まると、ボルケーニウムが赤い表面塗料としておおう。
 自分の手で、ひたいに円錐形のツノを取り付ける。
 最後はライオンの口に鞘に入った短刀をくわえさせた。
 一見、横笛みたいに見えるけど、つばも握りもしっかり作られた、脇差しともいう日本風の短刀だよ。
 メスライオンを思わせる凛々しい狩人の姿。
 レイドリフト・ドラゴンメイド。
 レイドリフト1号から連なる、ヒーローの一人。
「じゃあ、始めるよ」
 自信にあふれた、その声。
 アーリンくんがうなづいた。
 ドラゴンメイドのかざした両手に光が宿る。
 あの技は何度も見たよ。
 あの光は大きくなると、ポルタになる。
 遠くの空間と繋がる道ができて、中から朱墨ちゃんがたぶん、
「あれ? 私ご飯を食べてたはずなのに」とか?とまどいながら現れると思う。
 だけど・・・・・・。
「あれ?」
 ドラゴンメイドの体が、かたむいた。
 そのままかたむいた方向に、歩いていく。
 まるで、なにかに引っ張られるように。
 そっちは、空港の滑走路がある。
 今は、誰もいないただっ広い舗装された空き地。
 それを見下ろす窓に向かって、ドラゴンメイドの光がほとばしった!
 え、ええ!
「一体何をしたんだ?!」
 武志さんが聴いてる。
「私知らない!」
 ドラゴンメイドが、あの何百人もいるレイドリフト全体からいっても上位の強さを誇るドラゴンメイドが、怯えている。
 窓は?!
 よかった。
 光は窓を割ることなく、すり抜けたようだ。
 そして、その先は・・・・・・。
 その場にいた全員の目が、滑走路のハシにくぎづけになった。
 夜を、太陽のように照らしながら、光はそこにとどまっていた。
 そのむこうから、光とは違う音が聞こえてきた。
 あれは機械?
 タイヤで走る音?
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