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これは彼にしかできない不可能
しおりを挟む千増県立赤松学園高等学校は、近畿地方の東部では最上位に位置する超進学校で、
地元では、そこの卒業生というだけで、高卒でも、どこの企業であろうと楽勝で就職できるほど、
全国に名が轟いている超名門。
だが、野球に関しては、ハナクソ以下で通っている弱小高校である。
千増県は、皆さんご存じ、ほぼ毎回甲子園優勝校を排出する高校野球のために存在するような県。
上位三校(西教高校・字石高校・三国高校)はどこが出場してもほぼ優勝確実、
地方大会の決勝戦が事実上の決勝戦などと謳われ、
事実、この百年間で、春夏合わせ、七十九回の優勝経験を誇っている。
「まあ、でも、強いんは、上位三校だけや。ほかは目クソ鼻くそ。才能あるヤツが、その三校に全部持っていかれるから当たり前の話やけど」
「つまり、その三校を相手にどういう試合をするか、という問題になるわけですね」
「そんな簡単な話やないんが、赤高の実情や。例の三つの高校以外は目クソ鼻クソいうたが、ウチの高校だけは別。今年で創立五十六年目を迎える歴史ある高校やけど、初戦突破回数は二回だけ。大会出場率は二十三パーセント。……改めてデータ見直すとすごいな。こんな高校、他にないで」
「勉強ではぶっちぎりなんですけどねぇ」
「東大・京大に年何人ブチ込めるかぁしか考えてへん高校やからな。そんな高校が五連覇せなあかんねん。無茶ぶりにもほどがあるやろ。甲子園最多優勝の記録を持つ西教でも五連覇はやってへんねんで」
「ぴよぴよ(ただ、今の西教は五連覇どころか、六連覇を達成するかもしれないといわれているわ。それも大きな問題)」
「どういうことですか?」
「なんで知らへんねん。夏と春、アホみたいにニュースになってたやろ。西教の、桑宮と清崎。去年、一年生でエースと四番になって、夏と春に優勝。そいつらが入る前の春にも優勝しとるから、現在、三連覇中。五連覇どころか六連覇も夢やない……ツカム、おまえ、ほんまに聞いたことないんか? ほんの一か月前の話やで。テレビでも新聞でも、バンバン、六連覇、六連覇いうてたやないか」
「野球には、本当に、一切興味がなかったので」
「甲子園すらマジで知らんかったくらいやからな。おまえ、生まれてから最近まで地下室にでも閉じ込められてたんか?」
「まあ、そうですね」
「はぁ?」
「似たような環境ではありました。親の方針で、中学までの僕は、家だと勉強以外、したことがありませんでしたし、友達も、一流しか選んではいけませんでした。まあ、おかげで豊かな人生ではありましたけれど」
「一流の友達ってなんやねん」
「俗に勉強系一軍と呼ばれる人種ですね」
「ああ……てか、ニュース見るんも禁止やったとは、またごっつい話やなぁ、おい。時事ネタは無視するスタイルか。まあ、高校受験一本に絞っとるんなら、有りな選択肢の一つではあるけれども」
「アカコーに入れたあとは好きに生きていいと言われているので、これからは何もかもがフリーダムです。といっても、さほど変わりはありませんけどね。一流の友人とともに、一流の人生を生きていくのです」
「スキにせぇ。話を戻すで。とにかく、つまりは、出場率が三割切っとるワシらの高校が、そんな、ノリに乗っ取る高校も含めた全国の野球名門高校を全部倒して、歴史的快挙の五連覇達成せなあかんいうわけや。頭おかしいやろ」
「お二人の話を聞いていて、だんだん、本当に状況が呑み込めてきました。……ヤバいですね、僕ら消されちゃいますよ」
「ぴよぴよ(トウシくん、本当にできるの? 一般常識レベルでしか野球を知らない私には不可能としか思えないのだけれど)」
「やり方はいろいろある。ワシなら不可能やない」
「ぴよぴよ(悪魔に拉致られてからの三日間、小さな部屋に押し込まれて寝食を共にし、いろいろと話をしたから、あなたの野球に関する知識が尋常でない事は、それなりに把握できているわ。そして、あなたは頭がいい。私は、今までの人生で自分より賢い人間を見たことがなかったけれど、あなたは間違いなく私より上。あなたの頭の中で、どんな計算が行われているか、私には見当もつかない。おそらく、凄まじい速さで、精密な計算結果がはじき出されているのだろうとは思う……けれど、しかし……)」
「不可能は不可能、か? はん。常識の枠の中にワシを押し込めんなや。ワシは、悪魔に選ばれ、神と戦ったほどの男やぞ」
「それは僕らもそうですよ。それに、僕らが選ばれたのは偶然でしかないそうですし、神との試合はフルボッコにされただけですが」
「士気下げんなや。ワシかて、ほんまは、結構ビビってんねん。達成できるかどうか不安でしゃーない。けど、脅迫してきた相手は悪魔と神やで。逃げられへん。やらなしゃーない」
「ぴよぴよ(結構ビビっているのね……)」
「当たり前やろ、アホか。このふざけた状況で威風堂々としとったら、ワシ、何者やねんいう話やろ。けどなぁ、実際、達成できる算段はついてんねん。かなり厳しいけどなぁ」
「どうするんですか?」
「全部の説明はできへん。こまかい話の積み重ねになるからな」
「ぴよぴよ(不可能ではないのね?)」
「ああ。百パーやないけど、0パーでもない。ワシに任せとけ。これは、他の奴にはできんけど、ワシにならできる不可能や」
「ぴよぴよ(わかったわ。あなたについていく。どんな命令にも黙って従うと誓うわ)」
「……仕方ないですね。他人に従える性格ではないのですが、この案件は、僕にはどうしようもないですから、今回に関してはトウシくんに全権をゆだねます。指示をください」
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