異世界帰りの彼は、1500キロのストレートが投げられるようになった野球魔人。どうやら甲子園5連覇をめざすようです。

閃幽零

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不可能は不可能

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 家に帰った田中東志は、自室のベッドにダイブし、頭を抱えて身を丸くしながら、


「なに、かっこつけてんねん。アホちゃうか、ワシ。なにが細かい話の積み重ねや。なにが、ワシにしかできん不可能や。不可能は不可能やろ、あほんだら。あー、どうしよう……できる気がせぇへん……なにしたって、絶対、おかしいもん、ウチの高校が五連覇とか。あー、もー、どないせぇいうねん……あー、あー、ウっザいわぁ」



 溜息をつく。
 寝がえりをうつ。
 また溜息をつく。

 泣きそうになる。

 実は、あの長考、実ってなどいなかった。ただ、人前だったから、かっこつけただけ。


「できんかったら、存在を消される……なんで、この年で死ななあかんねん。ふざけんな、ボケ。あー……あー……もぉお、なんやねん、ワシの人生……」

 溜息が止まらない。

 延々と泣きごとを垂れ流す。


「こうだったらぁ言うプランみたいなもんは、なくもないけど、そんなもん、まさに絵に描いた餅でしかない。さすがに駒が無さすぎんねん。どんな凄い名人でも、飛車角だけで全勝なんかできん。はぁ……なんで、ワシがこんな目に……」


 涙を必死に我慢する。

 つまりは、気を抜けば泣きそうになる。


「はぁああああああああああああああ」


 深いため息が、部屋の中を埋め尽くした。





 ★




 二週間もすれば、クラス内の序列はハッキリと決まってくる。

 誰が『一軍』で、誰が『ゴミ』か。

 佐藤ツカムは、デブのメガネで、見た目的にはカスだが、
 しかし、周囲の環境や空気を的確に把握する力に長けていた。


「ナベくん、サイコー。芸人になれそうですね」

「マジで? いけちゃう? 俺、いけちゃう?」

「まあ、本当に芸人を志したら、二年後くらいに路上で死んでそうですけど」

「死ぬのかよ! てめぇ、佐藤、このやろ!」

「くはは! 渡辺、だせー! 佐藤に手玉にとられてんじゃん!」

「佐藤くんって、デブでバカだけど、なんか嫌いじゃないかもー」

「美和子、毒舌だな、おい!」

「そうですよ、美和子さん、『なんか嫌いじゃないかも』は余計です」

「そっち?! なんの性癖披露してんだよ、佐藤!」

「「「あはははは!」」」



 すでに、クラス内の力関係は完璧に把握しており、
 誰に対してどんな態度をとれば優位に立てるかの計算は終わっていた。

 野球に関しての知識はゼロに等しいが、対人関係におけるスキルは生まれつき非常にすぐれており、
 幼稚園のころから、常に一軍中位のポジションをキープしてきた。

 時には博士系。
 時にはお調子者系。
 時にはニヒル系と上手に自分を使い分け、自分のランクを保ってきた。



 それとは対照的に、


(ツカムのやつ、ハンパやないな。勉強しかせんかったぁいうとったくせに、歴戦のチャラ男なみに、クソ共の中で完璧にたちまわっとる。あんなゴミみたいな会話、ワシには絶対できへん)


 田中東志は、孤立していた。

 教室の隅で、一日中、誰とも話さず、ひたすら本を読んで過ごす。


 ーー頭はいいのか知らんけど、根暗で無表情で性格が悪そう。


 それが、常に、田中東志という人間に張られてきたレッテル。

 園児の時から一貫している彼のポジション。

 友達がいたことなど一度もない。

(ツカムやホウマとも、別に心から仲良くなったわけやない。下の名前で呼び合っとるんも、むりやり植えつけられたクセでしかない。特殊な状況下におかれたがゆえに結束するしかなかった……それだけ。あいつら二人もそうおもっとる)

 それは被害妄想ではない。


 二日ほど前、佐藤からハッキリと宣言された。



『あまり言いたくはありませんが、トウシくんのクラス内における立ち位置は最悪です。トウシくんの性能は評価しています。あなたは非常に賢い。野球に関する知識も素晴らしい。しかし、申し訳ありませんが、僕は、今のポジションをキープしたいので、クラス内では話しかけないでください』

 その発言そのものに傷ついたりなどはしない。

 そういう性格ではない。


(こっちから願い下げや。何が悲しゅうて、アホなガキに目線を合わせなあかんねん。あいつらに媚びへつらうぐらいやったら、地獄の業火に焼かれて死んだ方がまだマシや)

 と、そこで、

「えと、あの……た……中くん?」

 見知らぬ女子に声をかけられ、

「あん?」

「担任からの呼び出し。第二多目的室だって、じゃ」




「……は? なんやねん」



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