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許せない
しおりを挟むだから、許せない。
古宮麗華の行動は、ジュリアにとって、許容できない行為だった。
毎日、お弁当を用意する。それは、ジュリアも、何度も試そうとした事。
もちろん、毒を盛って殺すためだ。それ以外の理由などない。
だが、なかなか、そこまでの勇気は出せなかった。
他者を毒殺するのはかなりの勇気がいる。トウシのために毎日弁当をつくるという行為そのものは、正直なところ、造作もない所業なのだが、しかし、勇気が出なかった。
毒殺するのが目的なら、『弁当をつくるのは一日分だけでいい』のではないか、なぜ『毎日つくることを想定する』のか、だと?
バカが。
まずは信用させることが肝心だ。相手が躊躇せずに箸を進めるほどの信頼を勝ち取るには、かなりの時間がかかる。そう。つまりはそういうことだ。
常日頃から、その口で殺すと明言しているのだから、そもそも、信頼を勝ち取るのは無理?
ははっ。愚かな。
それは、その、つまりは、しかして……だから……その……まあ、それゆえに、うん、つまり、そういうことなのである。
すべては、深遠な理由の積み重ねの果てにある、と、まあ、そういうことだ。とにかく、そういうことなのだ。
(カロリーバランス……3・3・4。完璧。タンパク質の量……千分の体重×1・08×2……よりちょっと多いくらい。ワシの身長が足りん事からの配慮……動物性・植物性のバランスも、ほぼ完ぺき。一流栄養士並の知識ね……なるほど……口だけやないな。味は……たいしてうまない。こいつ、料理の才能はないな……けど、関係あらへん。重要なんは、摂取した栄養がどう血と肉になるか。味は、精神面で多少の効果を発揮したりもするけど、そもそも食に興味のないワシには関係ない。こいつ、使える……それに……)
「おい! いつまで黙っていればいい? つーか、なに、人を待たせておいて、無邪気に弁当たべてんだ。こんな女がつくった弁当を! こんな! 女が!」
「ん……ああ、そうやったな。……とりあえず、えっと……そっちのお前、古宮やったっけ?」
「ええ。古宮麗華よ」
「おまえ、使える。合格。明日以降もよろしく」
「ふふ、当然ね」
「はぁ? トウシ、あんた、なにを――」
「古宮、今日はもう帰れ。樹理亜、ちょっとこっち来い」
そう言って、ともに教室を後にする。
クラスから離れ、人通りの少ない踊り場まで歩くと、
「今の女のヤバさ、わかるな?」
「……ヤバ……あ、ああ、まあ、変な女だとは思ったけど」
「あいつは狂っとる。放っといたら、いつか、ワシを刺しにきよるやろうな」
「……」
「おまえ、ワシを殺したいんやろ? あいつを放置しとったら、ワシ、あいつに殺されんで? ええんか?」
「よくない。あんたを殺すのはあたしだ。その役目だけは、誰にも譲らない」
「ふむ。じゃあ、取引や。あいつの見張り頼むわ」
「……あぁ?」
「あの女、狂っとるけど、知識はバカにできんっぽい。利用価値はありそうや。有効活用させてもらう。けど、なにがきっかけで殺意の波動に目覚めるか分からん。ワシが他のヤツに殺されたら困るんやろ? 監視したほうがええんとちゃうか?」
「……ちっ……………クソが」
ジュリアは、渋い顔で吐き捨てるようにそう言うと、トウシに背を向けて歩き出した。
彼女の背中を見ながら、
(鬱陶しい面倒事が二つある時は、まず、相殺させることを考える。兵法の基本や。んー、やっぱ、ワシ、頭ええわー)
自分に酔いながら教室に戻ると、
「ん?」
好奇の視線にさらされた。
クラス中から注がれる気分の悪いヤジウマ的視線。
ゲスな視線を無視して一人飯ができるという圧倒的精神力を持つトウシでも、さすがに耐えきれず、気づけば、その場から逃げ出していた。
彼が去った後のクラスでは、無責任な憶測が飛び交う。
「どういうこと?」
「学年一・二を争う美少女二人ともが、なんで、あんなゴミを?」
「わかりませんよ。僕に聞かれても」
「なんだよ、あいつ――」
「どういう―――」
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