JKが小説に書いた転生者は、売国政府を断罪する怪物で――世界が大発狂

閃幽零

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第25話 水面下の策謀。

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 第25話 水面下の策謀。

 ――ワシントン・ホワイトハウス地下。

 未明の会議室は、時間が止まったようだった。
 重たいテーブルの上に広げられたのは、ドル決済網の構造図、主要港から工場へと続く原油の供給ライン、品目別の関税表、保険会社のリスク評価報告書。
 アメリカの経済閣僚、欧州委員会の代表、産油国の特使ら。
 彼らは声を潜め、しかし一語一語を確かめるように言葉を重ねていた。

「経済制裁は銃口に見える。センエースにそう判断されれば、我々は終わりだ。だから――『センエースに対する攻撃ではない』と証明できる理屈が必要なんだ」

 年嵩の財務官が机を軽く指で叩き、冷静に切り出す。
 声には計算と恐怖が混じっていた。

「ならば資本の流れを操作するんだ。銀行の決済アクセスを断ち、保険の適用を止め、貿易信用を引き上げて流動性を締め上げる。これは害意ではなく経済政策の延長だ」

 欧州の代表が資料を示しながら続ける。
 法的根拠、既存の先例、手続きの枠組み――理路が積み重なるほど、会議室の参加者たちは幾分安心しているように見えた。

「具体的にはSWIFT等の決済ネットワークへのアクセス制限、ドルのクリアリングバンクからの排除、再保険の引き上げ、船舶保険の停止、それに二次制裁の適用だ。企業が支払いを受けられなければサプライチェーンはたちまち破綻する。だがこれらは国際規範や金融制裁の枠内で行える」

「我々は日本を撃つのではない。経済的な扉を一時的に閉じるだけだ。条件を満たせば扉はまた開く。相互依存の下で交渉の余地を残すのがポイントだ」

 言葉は丁寧だが含意は厳しい。
 合理性の衣で暴力性を正当化しようとする音が、会議室の空気に混じる。


 ※やっていることは、結局、第二次世界大戦での締め上げに似ている。金と物流の通り道を順番に塞いで、日本をゆっくり締め上げて『言うことを聞かせる』つもり。だが、それを直接的にやっては、センエースに『害意だ』と捉えられるから、色々と屁理屈をこねている。

 ★

 ――ブリュッセル・欧州理事会。

 欧州の代表たちは別の言い回しを選んだ。
 彼らにとって重要なのは『正当化の形式』である。
 法廷の手続きを踏むように公の場で議題化し、理を立てる。

「人権や民主主義、国際規範の名で公式に問題提起をしよう。外交の場での糾弾がまずあり、その後に制裁という選択肢が残る。実際に制裁を行うのではなく選択肢を提示するのだ」

 言葉は慎重だが意図は明瞭。
 公的文書、記録、委員会決議があれば、対象国に対する金融・貿易制限を手続き的に正当化できる。
 欧州は法制度的正当性を武器にすることを選んだ。

 ★

 ――リヤド・産油国首脳会議。

 油の道に生きる人びとには、言葉の調子がさらに現実的。
 原油は即物的な力を持つ。
 供給の絞りは文字どおり国の息を詰まらせ得る。

「石油の供給調整は我々にとって外交手段だ。その扱いに悪意も害意も存在しない。単なる商売だよ。誰に何を売るか……そこに多少の私情が加わったとしても、それは自由経済の延長に過ぎない」

 老王は合理を騙る。
 市場圧力、備蓄限界、産業の脆弱性。
 彼らは戦争という語を避けつつ、実効的な痛みを与える手段を冷徹に議論する。

「ただしセンが介入する可能性は常にある。奴の思想の根底はいまだに不明。ただし、われわれが正当な手続きを踏んで行動する限りにおいて、『かの者の物理的報復』は『癇癪』として世界にうつるだろう」

 誰もがリスクを承知で、政治的説明を用意して自らの行為を守ろうとする。
 安全弁は法と外向きの合理性である。

 ★

 ――渋谷・夜。

 封鎖されたスクランブル。
 夜風にネオンが揺れるなか、センは一人で立っていた。
 ビルのガラスに映る自分の影を淡々と見下ろす。

(……最善ってのは……難易度が高いよなぁ……)

 論を空(くう)にして自問自答。

(やっぱ、俺は頭が悪い……)

 センは肩をすくめ自嘲した。
 内面の声だけに注視すれば、とても全知全能の神には見えない。
 そこに立つのは、一人の人間。
 怪物の皮をかぶった、一匹の狼。

(そもそもにして、善なんて存在しねぇ。だからこそ、善であろうとする想いには価値がある)

 彼は夜空へと浮かび、街を俯瞰した。

 ★

 ――ワシントン・秘密会議室。

 会議は最終詰めに入っていた。
 誰かが強い口調で結語を促す。
 踊る会議に舞うアホウ。
 揺れる狸の皮算用。

 ――ゲスな企みに白熱しすぎたあまり、
 ……『音もなく背後に立った侵入者』に誰も気づかなかった。

 侵入者は、長羽織の男。
 その表情には、明確な怒りのようなものが浮かんでいる。

 ――ざわりと空気が揺れて、ようやく、みなが彼に気づく。
 同時に言葉をなくした。
 書類が床へ滑り落ち、紙片が薄く散る。
 積み上げられた『合法性の塔』は、
 その黙した存在の前で脆く崩れ始めた。

 ……センは会議室をゆっくり見渡すと、低くはっきりと言った。

「経済的な圧力は戦争ではない。まっとうな意見だな。確かに銃も核も使わない」

 センエースの声は静かだが部屋の温度を無闇に引き下げる。

「バカな俺に、一つご教授願いたい。銀行口座が凍結され、収入が断たれ、薬や食料を買えなくなった人間はどうなる?」

 沈黙。
 誰も答えられない。
 理論は『家庭の苦しみ』を説明できない。

 センは僅かに笑い、肩をすくめる。

「どうした? ただの質問だよ。そのよく回る頭と舌で、俺を論破してみせろ。俺は頭が悪いから、簡単に丸め込めると思うぜ」

 誰も何も言わない。
 当然。
 センエースが、猛獣の瞳をしていたから。

「何もないのか? では相談だ。これから二つの道を提示する。好きな方を選んでくれ」

「……道……とは?」

 誰かが勇気をもって質問をした。
 センは嗤う。


「――今死ぬか、あとで死ぬか。どっちがいい?」


 その問いは会議室の理知的な面々の背筋を凍らせた。
 理屈で固めた『外交』は、実際に生じる被害を免責しない。
 どれだけ手続きを踏み、どれだけ正当化しても、
 負担を強いられるのは生身の人間であり、社会の脆弱な側面である。

 テーブルの上の書類がひとつ、またひとつと床に落ちる。
 合理の言葉はここでは盾にならない。
 会議室に広がるのは冷や汗の匂いと、決断の重さだけだった。
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