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22話 細かい調整。
しおりを挟む22話 細かい調整。
水を飲み、呼吸を整え、魔導書に戻る。
付箋を増やし、式の重みづけを見直し、
出力・持続・反応の三値を別々に滑らせる感覚を刻む。
今度は最小出力で点灯、最小厚で膜、解除は一拍早く。
小刻みに成功を積み、失敗はすぐに原因メモへ落とす。
夕刻、窓の格子が赤く縁どられはじめるころ、ヒッキエスはふと本を閉じ、天井を見た。
「このまま、俺が、とんでもない魔法使いになってしまったら……妻はどう思うだろうか……」
指先に残る熱を握りしめる。
彼女の横顔、笑うときのシワの寄り方、朝の弱さ。
「まあ、彼女なら、それでも、変わらず愛してくれるだろうな。彼女はそういう女だ」
軽く笑って、再び姿勢を正す。
出力を0,05刻みで落とし、
反応速度を0,02上げ、
式の末尾に解除の合図を追加――地味な調律を続ける。
房の隅で、青白い光が何度も生まれては、静かに消えた。
★
センは、自分の房のベッドで仰向けになり、
天井の染みをぼんやり数えながら、
視線だけを動かし、内側の思考盤面で、
――『手持ちの駒』を並べていく。
(ヒッキエスの力があれば、ヴァルハラ軍団の総合戦力を一気に底上げできる。俺のMPをヒッキエスに預けて増やさせ、それを兵に再分配――それだけでも魔力系統のスペックが爆上がり。……ありがたいぜ。思わぬ拾いものだ)
小さく笑い、目を閉じる。
意識の奥底……マブタの内側で、別の空が立ち上がった。
鍛練世界ヴァルハラ。
黒ずんだ大地は炭化したウロコのように割れ、裂け目の底で鈍い赤が呼吸する。
空気は鉛の粒子を混ぜて肺を擦り、遠い稲妻が血のような光を滲ませる。
――元首相・闇川はボロボロのスーツのまま泥を噛み、額を地につけて膝で這っていた。
グジュグジュに泣いているが、知ったこっちゃない。
迷彩の男たちはノドを焼く呼気で詠唱をちぎる。
誰かが使った『闇獄炎ランク73』の残滓が黒い硝子片のように風へ流れた。
別列では警盾を構えた者らが『障壁ランク60』を重ね張りにして突撃する。
誰もが汗に濡れ、血の味を噛み、倒れては立ち、立っては倒れる。
それを見たセンは、うんうんと頷いた。
(全員、徹底的に鍛えたから、だいぶ強くなってきたな。存在値的には、現時点で平均10000前後。……もちろん、この程度じゃ話にならないが、ここまでは『下地を積んだだけ』だから、ここから一気に伸びるヤツも出てくるだろう。いい感じだ。この調子なら、『ラストラグナロク』には間に合いそうか……)
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