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こいつには危機感なんてものがないのだろうか。
いや、たぶんただのお子様だ。
地下街に戻って来た俺たちは、セシリアを見送るために空気穴のほうへと向かった。
だがセシリアは壁際にいくとそのままごろんと転がって寝ようとする。
まぁそれでもいいか。だけどせめて何か敷こうな。
そう思って俺の寝床からシーツを取って来ようとしたんだけど、セシリアも一緒に付いてきて──。
で、今俺の横で寝ている。
俺の寝床でだ。
僅か畳二帖分ほどしかないスペースに寝ているんだ。すぐ横だよ。
恥ずかしいとかそういうのないのかよ。まぁ十四のお子様だし、気にしない……のか。
「はぁ……俺も寝よう」
こいつがここに泊るっていうなら、明日は早くから狩りに行ける。
──あっは。ごめんね隆二《リュウジ》。赤ちゃんがいるなんて、嘘なのよ。
隆二……誰のことだ?
お前は、誰なんだ?
──隆二くん。私……あなたのこと、好き。愛してる。
す……き?
あぁ、そうか。隆二って俺の事だ。
「俺もだよ、愛奈」
愛奈……愛奈。そうだ、妻だ。
人生で初めて出来た恋人である、妻の名前だ。
交際を始めて半年で、彼女が妊娠した。
デキ婚だったけど、俺は幸せだった。
いや、だったんだ。
──隆二の事愛してるって言ったけど、あれも嘘ぉー。
そうだよな。
──ぜーんぶ、隆二からお金を貰うためだったの。ほんと、ごめんねぇ。
許すわけねえじゃん。
だってお前──俺を──
──あ、大丈夫よ。可愛そうな未亡人は、亡き夫の親友に支えられて幸せに暮らすからぁ。
殺したんだから。
スタンピードの時に甦った記憶は、俺の都合のいいようにフィルターがされていたみたいだ。
愛奈のことをすっかり忘れていたあたり、嫌なことだけすっぽり抜けていたのだろう。
事故死──の方も、愛奈がいなければそう思えても仕方がないものだった。
車で旅行に行った帰りに、やたら眠気に襲われて峠の休憩所でひと眠りしていた時だ──あいつが……サイドブレーキを解除して俺は車と一緒に崖の下に真っ逆さま。
シートベルトに細工がしてあって、外すことも出来なかった。
じりじりと崖に迫る中、愛奈が言った言葉が──
「死んでね、隆二くん」
笑っていた。醜く笑っていたんだ、あの女。
赤ちゃんが出来たってのも嘘。好きだの愛してるだのも嘘。
あいつの目的は、交際前に俺が当てた宝くじの金だ。
人生で初めて買った宝くじが、まさかの一等賞。
その金額──十億円。
それが目当てだったんだよ。
しかも最後の口ぶりだと、同期で入社した杉浦も一枚噛んでいそうだ。
俺が親友と呼べるのは、あいつぐらいしかいないし。
宝くじだって飲み会の後で一緒に買おうぜーって……それで買ったものだ。
俺が選んだ数字も知っていただろうし、当選したことも……。
そうだよ。
だって愛奈の奴、俺と付き合う前は杉浦と付き合ってたじゃん。
その杉浦に振られたって、杉浦と仲のいい俺を呼び出して愚痴酒に付き合ってくれって。
それがきっかけだったんだよ。
俺たちが付き合い始めたのは。
全部──
全部最初から仕組まれていたのか?
最初から俺を殺す目的で近づいたのか?
友達だと思っていたのに。
金のために平気で裏切るのか。
崖から転落しながら、車内から愛奈の姿を見ていた。
何度も何度も願った。
今この瞬間よ止まれって──
落下する車よ止まれって──
歪んだ顔で笑う愛奈を見て、こいつの全てを奪ってやるって。
そう、叫んだ。
なるほど。
俺の力が一時停止と強奪ってのは、前世の最後に起因しているのか。
いや、たぶんただのお子様だ。
地下街に戻って来た俺たちは、セシリアを見送るために空気穴のほうへと向かった。
だがセシリアは壁際にいくとそのままごろんと転がって寝ようとする。
まぁそれでもいいか。だけどせめて何か敷こうな。
そう思って俺の寝床からシーツを取って来ようとしたんだけど、セシリアも一緒に付いてきて──。
で、今俺の横で寝ている。
俺の寝床でだ。
僅か畳二帖分ほどしかないスペースに寝ているんだ。すぐ横だよ。
恥ずかしいとかそういうのないのかよ。まぁ十四のお子様だし、気にしない……のか。
「はぁ……俺も寝よう」
こいつがここに泊るっていうなら、明日は早くから狩りに行ける。
──あっは。ごめんね隆二《リュウジ》。赤ちゃんがいるなんて、嘘なのよ。
隆二……誰のことだ?
お前は、誰なんだ?
──隆二くん。私……あなたのこと、好き。愛してる。
す……き?
あぁ、そうか。隆二って俺の事だ。
「俺もだよ、愛奈」
愛奈……愛奈。そうだ、妻だ。
人生で初めて出来た恋人である、妻の名前だ。
交際を始めて半年で、彼女が妊娠した。
デキ婚だったけど、俺は幸せだった。
いや、だったんだ。
──隆二の事愛してるって言ったけど、あれも嘘ぉー。
そうだよな。
──ぜーんぶ、隆二からお金を貰うためだったの。ほんと、ごめんねぇ。
許すわけねえじゃん。
だってお前──俺を──
──あ、大丈夫よ。可愛そうな未亡人は、亡き夫の親友に支えられて幸せに暮らすからぁ。
殺したんだから。
スタンピードの時に甦った記憶は、俺の都合のいいようにフィルターがされていたみたいだ。
愛奈のことをすっかり忘れていたあたり、嫌なことだけすっぽり抜けていたのだろう。
事故死──の方も、愛奈がいなければそう思えても仕方がないものだった。
車で旅行に行った帰りに、やたら眠気に襲われて峠の休憩所でひと眠りしていた時だ──あいつが……サイドブレーキを解除して俺は車と一緒に崖の下に真っ逆さま。
シートベルトに細工がしてあって、外すことも出来なかった。
じりじりと崖に迫る中、愛奈が言った言葉が──
「死んでね、隆二くん」
笑っていた。醜く笑っていたんだ、あの女。
赤ちゃんが出来たってのも嘘。好きだの愛してるだのも嘘。
あいつの目的は、交際前に俺が当てた宝くじの金だ。
人生で初めて買った宝くじが、まさかの一等賞。
その金額──十億円。
それが目当てだったんだよ。
しかも最後の口ぶりだと、同期で入社した杉浦も一枚噛んでいそうだ。
俺が親友と呼べるのは、あいつぐらいしかいないし。
宝くじだって飲み会の後で一緒に買おうぜーって……それで買ったものだ。
俺が選んだ数字も知っていただろうし、当選したことも……。
そうだよ。
だって愛奈の奴、俺と付き合う前は杉浦と付き合ってたじゃん。
その杉浦に振られたって、杉浦と仲のいい俺を呼び出して愚痴酒に付き合ってくれって。
それがきっかけだったんだよ。
俺たちが付き合い始めたのは。
全部──
全部最初から仕組まれていたのか?
最初から俺を殺す目的で近づいたのか?
友達だと思っていたのに。
金のために平気で裏切るのか。
崖から転落しながら、車内から愛奈の姿を見ていた。
何度も何度も願った。
今この瞬間よ止まれって──
落下する車よ止まれって──
歪んだ顔で笑う愛奈を見て、こいつの全てを奪ってやるって。
そう、叫んだ。
なるほど。
俺の力が一時停止と強奪ってのは、前世の最後に起因しているのか。
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