異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔

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 落ちている。
 どこまで落ちるんだよ、チクショウ!
 
「セシリア、お前は飛べ!」
「と──うん、はい!」

 バサァっと翼を広げた彼女は、右手を俺に差し出した。

「セシリア、君は……有翼人だったのか!?」
「それはあと。リヴァ、アレス、私に捕まって!」
「断る」
「リヴァ!?」

 別に彼女にしがみついて助かるために飛べと言ったわけじゃない。
 飛べる彼女が俺たちと一緒に落ちる必要はない。だから飛べと言ったんだ。

「リヴァ! 捕まってっ」
「ダメだ。お前まで落ちる必要はないだろう。だがこのまま上に行っても、奴らが……」

 スティアン。あいつに有翼人であることがバレれば、何をされるか分かったもんじゃない。

「いやっ。私ひとり助かるなんてヤダ!」
「何か考える。だからっ」
「ヤ! ぁ……きゃあぁぁっ」
「セシリア!?」

 なんだ。どうしたんだいったい。急にセシリアが羽ばたかなくなった?
 いや、羽ばたけないのか!?

『ふむ。空間が歪んでおる』
「デン!? 歪んでるって、どういうことだよっ」
『言葉の意味のままだ。この穴は、別のダンジョンに繋がっておるようだ。今は空間と空間の狭間におる。繋がったら落下を再開するから、対策を考えるなら今の内だ』
「わ、分かった。何か……何か……」
「リ、リヴァ。その生き物は?」

 アレスの質問は後回しだ。
 落下が再開するまでに何か──せめてパラシュートでもあればいいが、そんなものこの世界にそもそも存在しない。

「いや、でも……代わりになりそうなものなら!」
『急げリヴァ。じき繋がるぞ』

 慌てて服の内ポケットから巾着を取り出す。空間収納袋だ。
 手を突っ込み取り出したのは、三角形の物体。ついさっきまで体を休めるために使っていた、テントだ!

 紐は二段階目まで引く。

「アレス、そっちの端を掴め!」
「テントなんてどうする気だい!?」
「いいから掴め! くっ、なんか空気の流れが変わったぞ」
『繋がったぞ! よし、娘。羽ばたけ!』
「リヴァは!?」
「これで落下速度を緩める。セシリア、飛ぶんだ!」

 テントの入口側を下に向け、アレスと俺とで広げるようにして掴んだ。
 簡易パラシュートだが、流石に本物のようにはいかない。
 それでも落下速度は確かに緩まった。

「けどこれじゃあまだダメか……他に手はっ」
『娘、魔法は使えるな!? シルフを召喚し、下から風を送りこめ』
「わ、わかった」
「その手があったか! アレス、テントを離すなよっ」
「言われなくても!」

 セシリアが翼を折りたたみ加速する。
 俺たちの下に回り込んだ彼女が呪文を唱えると、一気に風が吹きあがった。

 更に減速。
 それでもまだスピードはあるが……。

「アレス、多少の怪我は覚悟してくれよ」
「あぁ、分かっているよ」
「リヴァ、リヴァッ。地面が!」
「セシリア、斜めに落下できるよう横からの風も頼む!」

 テレビでも目にしたが、パラシュート降下だって真っ直ぐ落ちる訳じゃない。
 落下の衝撃を和らげるために斜め角度で地面に侵入する。

「アレス、地面に足が着いたら駆け足だ!」
「駆け足? 走るのかい?」
「まぁそんな感じ。行くぞ!」

 横風が吹く。
 テントごと流され、かなり低い角度で地面へと落下することが出来た。
 それでも勢いは完全に殺すことは出来ず、結局最後はテントに引きずられて打撲と擦り傷を作った。

「リヴァ大丈夫!? アレスは? ねぇ二人とも大丈夫!?」

 駆け付けたセシリアの目には涙が浮かんでいた。
 その顔を見てやっと……やっと助かったんだと実感。

 そしたら急に、
 急に、

「ぷはっ。くはははははははっ」
「リ、リヴァ?」
「ふっ。はは、あははははははは」
「な、なに? どうして二人とも笑うの? ねぇ、何がおかしいの?」

 何がおかしいって、テントだぜ?
 俺たちテント広げてここまで落ちて来たんだ。おかしいに決まってるだろ。

 それに、緊張の糸が切れたからかもしれない。
 とにかく笑った。
 
 ようやく助かったんだ──と安堵する暇はなかった。

「二人とも走れ! あんなもの、相手出来るわけがない!」
「クソッ。一難去ってまた一難かよ! セシリア、こっちだっ」

 落下した先は森の迷宮とは別のダンジョン。
 そう、ここはダンジョンの中なんだ。

 俺たちの匂いを嗅ぎつけて、あっという間にモンスターが集まって来た。
 しかもデカい奴らばかりだ。
 逃げた先の通路もやたらと広い。こんだけ広いってことは、像みてえなサイズがデフォルトのダンジョンなんだろう。

 そしてデカいモンスターってのは、往々にして強い!

『坊主、右に行け。小さな横穴がある。そこなら奴らも入ってはこれん』
「分かった、右だな!」

 デンの言う通りに右へと曲がると、五〇メートルほど先で行き止まりになっていた。

「おいデン!?」
「こっちだリヴァ、セシリア!」

 突き当りの手前の壁に穴があった。俺たちですら立ったままでは通れないような穴だ。
 ひとまずそこに駆け込み、奥へと進む。
 通路へと入って来たモンスターが手を伸ばしてくるが、なんとかギリギリ届かない所まで逃げ込めた。

「アレス、先はどうなってる?」
「待ってくれ、ここまで来ると通路の明かりも届かなくて真っ暗なんだ」
『我が明かり代わりになってるから、さっさと光る魔石を出すが好い』
「す、すまない。……よしあった」

 コツンっと音がして辺りがぽぉっと明るくなる。

「天井、高くなってんだな。これなら屈まなくても歩けそうだ」
「そうだね。少し先が広くなっているようだ。モンスターのいる通路に出なければいいが」
「慎重に進もう。もし別の通路に出るようなら、いったんここに戻ってこれからの事を考えないとな」

 だがその心配はなかった。
 穴の先は正方形の小部屋のようになっていて、四方の壁にここと同じような穴があるだけ。

「この穴も人ひとりが通れる程度の狭い通路だね」
「一時避難所みたいなところかな? ダンジョン内にそんな場所が本当にあるのか?」
「ある。と聞いたことがある。ただし地下五〇階にもなる、巨大ダンジョンの下層エリアにだけ……ともね」

 つまりここは、その地下五〇階以上もある、巨大ダンジョンの下層ってことだな。
 はは、はははは。
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