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8:キャンプファイア
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「タクミさん、こちらの準備は出来ました」
「ほ、本当にひとりで行くの? 無茶じゃないっ」
サンドワーム・亜種こと毛虫退治の準備が整った。
今回は無敵テントは使わない。左手にスーパーの袋を持ってアキレス腱を伸ばす。
「サソリの毒針だって突き刺さらない、超頑丈なのは見ただろ? 大丈夫。それにひとりでやらないと、他の人を巻き込んでしまうからね」
「でもっ」
「アイラ、心配してくれてありがとう。君には最後にしっかり働いて貰わなきゃいけないんだ。だからあの場所で待っててくれ。な?」
近くに他の人にいられちゃ、上手くこの作戦は成功しない。
俺ひとりじゃないとダメなんだ。
「じゃ、行ってくる」
アイラの返事はなく、だが彼女は決意に満ちた表情で頷いてくれた。
「お気を付けください、タクミさん」
「うん、ありがとうレイラ」
「では我も行くとするか。はぁー……なんで我がこんなことを」
「ドラゴン様もお気をつけてっ」
ドラゴンは今回、結構大きくなって貰っている。その手には半透明のゴミ袋が、左右それぞれ四つずつ握られていた。
ふわりと浮いて、ドラゴンは鼻を鳴らす。
「ふんっ。サンドワームなど、我が本来の力があればただの雑魚だ雑魚」
「それがないから戦えないんだろ? ほら、早く行ったいった」
ブツブツ文句を言いながら、奴は舞い上がった。
サンドパールの言い出しっぺなんだから、しっかり手伝って貰わなきゃな。
俺は買い物袋を持ってオアシスへと向かった。
うえぇー、やっぱ近くで見ると気持ち悪さが倍増だな。なんかこう、背中がぞわぞわする。
長さ、五〇メートルぐらいあるんじゃないか。
「おいっ毛虫!」
大声で怒鳴ると、毛虫がむくりと体を動かした。
あ、こっちはお尻のほうだったのか。って、わかんねーよ!
俺から遠い方の先端がこちらに向いて、更に動き出した。あっちを先頭にして。
振り向いた時に、先端のほうにキラキラした何かが見える。目玉?
「さ、さぁ、来い!」
気持ち悪いけど。
スーパーの袋からある物を取り出し、それをブスリと奴の毛に突き刺す。
「毛というより針じゃん! まぁおかげで張り付けやすいけど」
ある物──繊維質の着火剤だ。
それをカートから取り出し、補充され、取り出し、補充され。
数が必要だから一日ずっとそれを繰り返した。かなり苦痛だった。
他にも準備のために、合計三日かけている。
これで失敗したら更に量を増やしてやるからな!
着火剤を張りつけながら少しずつ移動する。
「さぁ、こっちだ。餌だぞー、ちゃーんと追いかけてこいよぉ」
餌=俺。
毛虫は俺を追うために体をこちらに向けた。
あ、なんか口が見えた。はは、あんなデカいのにおちょぼ口じゃん。
「ンググ、ググゴオォォォォッ」
「──!? あああああぁぁぁぁーっ!! きもおおぉぉぉぉぉぉっ!」
おちょぼ口。そう思っていたら、周りのしわしわな皮膚が伸びて、ぶわぁーっと広がった。
俺を丸呑みしてもまだ余るほどデカい口に。
その口の中にはサメのような歯が無数も生えている。しかも円形にぐるっと口の中を一周していた。
しかも唾液ねちゃー。
「噛まれて堪るか!」
走る。
だけど逃げてばかりじゃダメだ。
たまに側面へ回り込んで、着火剤を毛にぶっ刺す。
手持ちの着火剤がなくなれば、次のを拾いに行く。
オアシスから離れると、砂の上には転々と着火剤が転がっていた。
計画通り、村の人たちが撒いてくれた着火剤だ。
その上を進んで、ビニール袋を発見。それを持ってまた毛虫に着火剤を張り付けて行った。
なくなれば着火剤が導く方へと進んでいく。途中のビニールを拾い、張り付ける。
そのうち毛虫の体の側面は、茶色い長方形の着火剤で覆われた。
そしてこの着火剤ロードも終着点。
砂の上に木材で出来た、毛虫専用の敷布団が用意されている。
そこに毛虫──サンドワーム・亜種が何も知らずにやって来た。
ただただ、目の前にいる俺を喰いたさに。
「ドラゴン!」
俺の声を共に、上空から黒っぽい物体が落ちてくる。
ビニールのゴミ袋だ。
その中には、もう一種類の着火剤が入っている。
ビニールが落下すれば奴の毛で袋が破れ、中のジェル状のものが零れ出た。
ジェル状の着火剤だ。
それが全部で八つ、奴の長い体のあちこちに落下した。
「いいコントロールだぜ、ドラゴン」
「ンギュアアァァッ」
毛虫の癖に気持ち悪がっているのか?
そんな奴は放っておいて、俺は駆け出す。
「アイラ、あとは任せた!!」
視線の先にある砂丘の上には、火矢を番えたアイラが立っていた。
彼女の弓がしなり、矢が放たれる。
炎を纏った矢が俺の頭上を越え、そして──
「ビギャアアアアアァァァァァァッ」
炎に包まれた毛虫の悲鳴が木霊する。
はは、そりゃよく燃えるだろう。地球産の着火剤だぞ。
だがそれだけじゃない。
地面には大量の薪がある。その薪にも、村の人が着火剤を撒いてくれていた。
そして──
「ふはははははははっ。燃ぉ~れよろ、燃えろぉ。ぶわーっはっはっはっは」
あらかじめ用意しておいた大量の薪をドラゴンが抱え、上空から毛虫めがけて投げ込む。
なんかめちゃくちゃ楽しそうだな、あいつ。
キャンプファイアじゃないんだぞ。
熱さでのたうちまわる毛虫だが、その行為が燃料である薪を体のくっつけるとは理解できていないらしい。
「あんな巨体を燃やせるなんて……」
「物量作戦の勝利だな。まぁ準備に時間がかかったけど」
それにしても、いつになったらあいつ死ぬんだろうなぁ。
炎に包まれても、びったんびったん動いてるし。
ちゃんと死ぬのを見届けなきゃいけないし、村人も一緒になって燃える毛虫をずぅっと見続けた。
ちょっと焦げ臭い。
立ってるのもなんだし、砂の上に腰を下ろすと──
「あっつ!」
「昼間の砂だもの、熱いに決まってるでしょ」
「砂漠暮らしが短いもんで……あぁ、テント持ってくりゃよかった」
「貧弱だのぉ、人間は」
そう言って舞い降りたドラゴンが、翼を広げて日陰を作ってくれた。
意外と優しい。
そしてようやく、毛虫が動かなくなった。
「やっとか……」
「ほ、本当に倒せたの?」
「ふんっ。生きている限り、全てのモノは呼吸をしておるからの。炎に包まれ呼吸出来なくなれば、どんなモンスターだろうと死ぬわい」
呼吸出来なくなればって──
「あいつ一時間も火だるまになって生きてたぞ!」
「は? 一時間ぐらい、息を止められるだろう」
・ ・ ・ ・ ・ ・ 。
止められる訳ないだろう!!!
「ほ、本当にひとりで行くの? 無茶じゃないっ」
サンドワーム・亜種こと毛虫退治の準備が整った。
今回は無敵テントは使わない。左手にスーパーの袋を持ってアキレス腱を伸ばす。
「サソリの毒針だって突き刺さらない、超頑丈なのは見ただろ? 大丈夫。それにひとりでやらないと、他の人を巻き込んでしまうからね」
「でもっ」
「アイラ、心配してくれてありがとう。君には最後にしっかり働いて貰わなきゃいけないんだ。だからあの場所で待っててくれ。な?」
近くに他の人にいられちゃ、上手くこの作戦は成功しない。
俺ひとりじゃないとダメなんだ。
「じゃ、行ってくる」
アイラの返事はなく、だが彼女は決意に満ちた表情で頷いてくれた。
「お気を付けください、タクミさん」
「うん、ありがとうレイラ」
「では我も行くとするか。はぁー……なんで我がこんなことを」
「ドラゴン様もお気をつけてっ」
ドラゴンは今回、結構大きくなって貰っている。その手には半透明のゴミ袋が、左右それぞれ四つずつ握られていた。
ふわりと浮いて、ドラゴンは鼻を鳴らす。
「ふんっ。サンドワームなど、我が本来の力があればただの雑魚だ雑魚」
「それがないから戦えないんだろ? ほら、早く行ったいった」
ブツブツ文句を言いながら、奴は舞い上がった。
サンドパールの言い出しっぺなんだから、しっかり手伝って貰わなきゃな。
俺は買い物袋を持ってオアシスへと向かった。
うえぇー、やっぱ近くで見ると気持ち悪さが倍増だな。なんかこう、背中がぞわぞわする。
長さ、五〇メートルぐらいあるんじゃないか。
「おいっ毛虫!」
大声で怒鳴ると、毛虫がむくりと体を動かした。
あ、こっちはお尻のほうだったのか。って、わかんねーよ!
俺から遠い方の先端がこちらに向いて、更に動き出した。あっちを先頭にして。
振り向いた時に、先端のほうにキラキラした何かが見える。目玉?
「さ、さぁ、来い!」
気持ち悪いけど。
スーパーの袋からある物を取り出し、それをブスリと奴の毛に突き刺す。
「毛というより針じゃん! まぁおかげで張り付けやすいけど」
ある物──繊維質の着火剤だ。
それをカートから取り出し、補充され、取り出し、補充され。
数が必要だから一日ずっとそれを繰り返した。かなり苦痛だった。
他にも準備のために、合計三日かけている。
これで失敗したら更に量を増やしてやるからな!
着火剤を張りつけながら少しずつ移動する。
「さぁ、こっちだ。餌だぞー、ちゃーんと追いかけてこいよぉ」
餌=俺。
毛虫は俺を追うために体をこちらに向けた。
あ、なんか口が見えた。はは、あんなデカいのにおちょぼ口じゃん。
「ンググ、ググゴオォォォォッ」
「──!? あああああぁぁぁぁーっ!! きもおおぉぉぉぉぉぉっ!」
おちょぼ口。そう思っていたら、周りのしわしわな皮膚が伸びて、ぶわぁーっと広がった。
俺を丸呑みしてもまだ余るほどデカい口に。
その口の中にはサメのような歯が無数も生えている。しかも円形にぐるっと口の中を一周していた。
しかも唾液ねちゃー。
「噛まれて堪るか!」
走る。
だけど逃げてばかりじゃダメだ。
たまに側面へ回り込んで、着火剤を毛にぶっ刺す。
手持ちの着火剤がなくなれば、次のを拾いに行く。
オアシスから離れると、砂の上には転々と着火剤が転がっていた。
計画通り、村の人たちが撒いてくれた着火剤だ。
その上を進んで、ビニール袋を発見。それを持ってまた毛虫に着火剤を張り付けて行った。
なくなれば着火剤が導く方へと進んでいく。途中のビニールを拾い、張り付ける。
そのうち毛虫の体の側面は、茶色い長方形の着火剤で覆われた。
そしてこの着火剤ロードも終着点。
砂の上に木材で出来た、毛虫専用の敷布団が用意されている。
そこに毛虫──サンドワーム・亜種が何も知らずにやって来た。
ただただ、目の前にいる俺を喰いたさに。
「ドラゴン!」
俺の声を共に、上空から黒っぽい物体が落ちてくる。
ビニールのゴミ袋だ。
その中には、もう一種類の着火剤が入っている。
ビニールが落下すれば奴の毛で袋が破れ、中のジェル状のものが零れ出た。
ジェル状の着火剤だ。
それが全部で八つ、奴の長い体のあちこちに落下した。
「いいコントロールだぜ、ドラゴン」
「ンギュアアァァッ」
毛虫の癖に気持ち悪がっているのか?
そんな奴は放っておいて、俺は駆け出す。
「アイラ、あとは任せた!!」
視線の先にある砂丘の上には、火矢を番えたアイラが立っていた。
彼女の弓がしなり、矢が放たれる。
炎を纏った矢が俺の頭上を越え、そして──
「ビギャアアアアアァァァァァァッ」
炎に包まれた毛虫の悲鳴が木霊する。
はは、そりゃよく燃えるだろう。地球産の着火剤だぞ。
だがそれだけじゃない。
地面には大量の薪がある。その薪にも、村の人が着火剤を撒いてくれていた。
そして──
「ふはははははははっ。燃ぉ~れよろ、燃えろぉ。ぶわーっはっはっはっは」
あらかじめ用意しておいた大量の薪をドラゴンが抱え、上空から毛虫めがけて投げ込む。
なんかめちゃくちゃ楽しそうだな、あいつ。
キャンプファイアじゃないんだぞ。
熱さでのたうちまわる毛虫だが、その行為が燃料である薪を体のくっつけるとは理解できていないらしい。
「あんな巨体を燃やせるなんて……」
「物量作戦の勝利だな。まぁ準備に時間がかかったけど」
それにしても、いつになったらあいつ死ぬんだろうなぁ。
炎に包まれても、びったんびったん動いてるし。
ちゃんと死ぬのを見届けなきゃいけないし、村人も一緒になって燃える毛虫をずぅっと見続けた。
ちょっと焦げ臭い。
立ってるのもなんだし、砂の上に腰を下ろすと──
「あっつ!」
「昼間の砂だもの、熱いに決まってるでしょ」
「砂漠暮らしが短いもんで……あぁ、テント持ってくりゃよかった」
「貧弱だのぉ、人間は」
そう言って舞い降りたドラゴンが、翼を広げて日陰を作ってくれた。
意外と優しい。
そしてようやく、毛虫が動かなくなった。
「やっとか……」
「ほ、本当に倒せたの?」
「ふんっ。生きている限り、全てのモノは呼吸をしておるからの。炎に包まれ呼吸出来なくなれば、どんなモンスターだろうと死ぬわい」
呼吸出来なくなればって──
「あいつ一時間も火だるまになって生きてたぞ!」
「は? 一時間ぐらい、息を止められるだろう」
・ ・ ・ ・ ・ ・ 。
止められる訳ないだろう!!!
応援ありがとうございます!
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