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3章
第──50
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衣料品店で買ったのは、直射日光を避けるための外套。つまりフード付きマント。
「暑さは俺の空気操作でどうにかなると思うんだ。効果時間90秒だから、その時間に歩ける範囲の温度を少し下げてさ」
「え、そんなこと──そ、そうよね。出来るわよね」
「日光は防げませんから、日焼け対策をするだけなのですね」
「あぁ。念のため長袖の服もあったほうがいいだろうな」
それらを買い揃えて、次は雑貨屋へと向かった。
砂漠にいくのだから、水は必須。もちろん水筒は持っているけれど、余分に買っておこうと思って。
それからテントだ。
ギルド職員さんのメモには「虫の侵入を完全に防げるテント」と書いてある。
砂漠=サソリとかの毒虫だろうなぁ。
ちょっと高級でもいいから、しっかりしたものを買おう。
「じゃあこの三人用のテントで!」
「……やっぱりそうなるのか」
「いいじゃないですか空さん。私たち、恋人ですもの」
『ぎゅふふ』
「お前はカウントしていないからなっ」
『きゅ!? うきゅきゅぅ』
泣くな兎!
テントや水筒、依頼の花を入れるための麻袋とそれに──
「鋏とブラシもね」
「鋏って、一つじゃダメなのか?」
シェリルたちが店の主人に頼んで出して貰った鋏は二種類。切るだけなら一つでいいじゃないかと思うんだけどなぁ。
「こっちは長くなった髪を切るための鋏よ」
「こちらの鋏は、髪の量を調節するための鋏です」
「あぁ、すき鋏とかいうやつか」
代金を支払って俺のリュックへ全部詰めていく。
「空、公園の石──」
「抜かりはない。ちゃーんと拾ってあるさ」
ポケットに入れた石を取り出しシェリルへと見せる。
無くしちゃマズいし、リュックに入れておこう。
まぁ失くした場合は『帰還』すればいいんだけどな。
それから砂漠へ向かうために、王都を出て北へと向かった。
王都の北門から出るという手もあるんだけれども、あの迷路のような町を歩くのはもう嫌だ。
きっとまた迷子になる。そうに違いない──という意見が三人で一致したので、最寄の門から出て北へと向かうことに。
だがその前にイベントが待っていた。
「一通りの少ない所でやってしまいましょう」
「そうね。空さん、毛玉。お覚悟を」
か、覚悟をって……髪の毛を切るだけだろ!?
布団のシーツなんかに使うような布を首元から撒いて、切った髪が服や肌に落ちないようにする。
まるで日本の床屋さんそのものだ。
手ごろな岩に座って、これから髪を切られる。
足元では心配そうに俺を見上げる毛玉の姿があって、その毛はぷるぷる震えていた。
「いや、髪の毛切るだけだからな。怖くないんだぞ毛玉」
『ぎゅいぃ』
耳元でシャキっという音が鳴る。
目の中に入らないよう閉じて、ただただ身をゆだねる。
足の上に乗っかっている毛玉がぷるぷる震えるのを感じていると、ちょっと笑いが込み上げてきた。
シャキシャキという音が鳴るたび、少しずつ頭が軽くなっていく気がする。
そのうち前髪が切られはじめると、鼻先がむずむずするのに耐えて──
「はい、出来ました」
「ありがとう。なんか頭スッキリした感じ──おぉ!」
目を開けるとシェリルが鏡を持って立っていてくれて。
そこに映っている俺は、花粉を気にしていた時には見たこともないほど前髪がスッキリしていた。
半分以上隠れていた目も見えるようになったし、隠れていた耳も髪から出てきた。
その感想はまさに、
「誰だこれ」
『ぎゅ!?』
それまで蹲ってぷるぷるしていた毛玉が俺を見上げると、何故か威嚇しはじめた。
「おい、髪切ったぐらいで俺が誰だか分からなくなるのかよ!」
『ふぎゅーっ』
「はいはい、毛玉もスッキリしましょうね」
「空、毛玉をその岩に座らせて」
「ほいよ」
『ぎっぎゅうぅぅぅぅぅっ』
街道脇の林道に毛玉の断末魔が響き渡す。
いや死んじゃあいないけど。
シャキシャキと鋏が軽快な音を鳴らし、そのたびに青みがかった毛がどさどさと落ちていく。
そうして出来上がったのは──
丸いフォルムから兎らしい形に。
うん……なんとなく前の、もさもさしている毛玉のほうが俺は好きだなとか思った。
「ふぅ、大仕事でした」
「さっきまでの毛玉は、半分が毛だったのね」
『きゅえっくしゅん』
突然毛が薄くなった毛玉は、初夏だというのに寒そうだった。
「暑さは俺の空気操作でどうにかなると思うんだ。効果時間90秒だから、その時間に歩ける範囲の温度を少し下げてさ」
「え、そんなこと──そ、そうよね。出来るわよね」
「日光は防げませんから、日焼け対策をするだけなのですね」
「あぁ。念のため長袖の服もあったほうがいいだろうな」
それらを買い揃えて、次は雑貨屋へと向かった。
砂漠にいくのだから、水は必須。もちろん水筒は持っているけれど、余分に買っておこうと思って。
それからテントだ。
ギルド職員さんのメモには「虫の侵入を完全に防げるテント」と書いてある。
砂漠=サソリとかの毒虫だろうなぁ。
ちょっと高級でもいいから、しっかりしたものを買おう。
「じゃあこの三人用のテントで!」
「……やっぱりそうなるのか」
「いいじゃないですか空さん。私たち、恋人ですもの」
『ぎゅふふ』
「お前はカウントしていないからなっ」
『きゅ!? うきゅきゅぅ』
泣くな兎!
テントや水筒、依頼の花を入れるための麻袋とそれに──
「鋏とブラシもね」
「鋏って、一つじゃダメなのか?」
シェリルたちが店の主人に頼んで出して貰った鋏は二種類。切るだけなら一つでいいじゃないかと思うんだけどなぁ。
「こっちは長くなった髪を切るための鋏よ」
「こちらの鋏は、髪の量を調節するための鋏です」
「あぁ、すき鋏とかいうやつか」
代金を支払って俺のリュックへ全部詰めていく。
「空、公園の石──」
「抜かりはない。ちゃーんと拾ってあるさ」
ポケットに入れた石を取り出しシェリルへと見せる。
無くしちゃマズいし、リュックに入れておこう。
まぁ失くした場合は『帰還』すればいいんだけどな。
それから砂漠へ向かうために、王都を出て北へと向かった。
王都の北門から出るという手もあるんだけれども、あの迷路のような町を歩くのはもう嫌だ。
きっとまた迷子になる。そうに違いない──という意見が三人で一致したので、最寄の門から出て北へと向かうことに。
だがその前にイベントが待っていた。
「一通りの少ない所でやってしまいましょう」
「そうね。空さん、毛玉。お覚悟を」
か、覚悟をって……髪の毛を切るだけだろ!?
布団のシーツなんかに使うような布を首元から撒いて、切った髪が服や肌に落ちないようにする。
まるで日本の床屋さんそのものだ。
手ごろな岩に座って、これから髪を切られる。
足元では心配そうに俺を見上げる毛玉の姿があって、その毛はぷるぷる震えていた。
「いや、髪の毛切るだけだからな。怖くないんだぞ毛玉」
『ぎゅいぃ』
耳元でシャキっという音が鳴る。
目の中に入らないよう閉じて、ただただ身をゆだねる。
足の上に乗っかっている毛玉がぷるぷる震えるのを感じていると、ちょっと笑いが込み上げてきた。
シャキシャキという音が鳴るたび、少しずつ頭が軽くなっていく気がする。
そのうち前髪が切られはじめると、鼻先がむずむずするのに耐えて──
「はい、出来ました」
「ありがとう。なんか頭スッキリした感じ──おぉ!」
目を開けるとシェリルが鏡を持って立っていてくれて。
そこに映っている俺は、花粉を気にしていた時には見たこともないほど前髪がスッキリしていた。
半分以上隠れていた目も見えるようになったし、隠れていた耳も髪から出てきた。
その感想はまさに、
「誰だこれ」
『ぎゅ!?』
それまで蹲ってぷるぷるしていた毛玉が俺を見上げると、何故か威嚇しはじめた。
「おい、髪切ったぐらいで俺が誰だか分からなくなるのかよ!」
『ふぎゅーっ』
「はいはい、毛玉もスッキリしましょうね」
「空、毛玉をその岩に座らせて」
「ほいよ」
『ぎっぎゅうぅぅぅぅぅっ』
街道脇の林道に毛玉の断末魔が響き渡す。
いや死んじゃあいないけど。
シャキシャキと鋏が軽快な音を鳴らし、そのたびに青みがかった毛がどさどさと落ちていく。
そうして出来上がったのは──
丸いフォルムから兎らしい形に。
うん……なんとなく前の、もさもさしている毛玉のほうが俺は好きだなとか思った。
「ふぅ、大仕事でした」
「さっきまでの毛玉は、半分が毛だったのね」
『きゅえっくしゅん』
突然毛が薄くなった毛玉は、初夏だというのに寒そうだった。
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