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「ギルドへの登録のあった死霊使いは、全て葬りました」
「そうか……あとは非登録の者だな」
デュオーラム平原でのドーラム王国との戦で、早々に撤退したヴァルジャス帝国第二王子ヴァン。
彼は一旦は帝都に戻り、敗戦の報告を父である皇帝にしたのち再び帝都を離れた。
ドーラムに敗退したのは兄ヴォードに全責任を押し付けて、だ。
「迷宮のほうはどうなっている?」
ヴァンに問われ控えていた赤ローブの男が口を開く。
「はい。部下に調べさせましたが、エスクェード騎士たちの死霊は確かに減っております。戦場で見かけたという亡霊は、確かにエスクェード騎士のものでしょう」
「何故あの者がエスクェード騎士の死霊を……まぁよい。奴らが迷宮から出たということは、他に出入り口がある……だな?」
樫田の目を通して見たエスクェード騎士の死霊の中に、甲冑を纏ったままの者がいた。
霊体は物質を身に纏うことは出来ない。
出来るとすれば、その物質に対し強い念があるときぐらいだ。
「甲冑のまま深層部から這い上がってきたというのであれば、落石で塞がっていない通路がどこかにあるということ……」
「はい。現在、部下も総出で捜索しております。間もなく見つかるかと」
「うむ。ではこちらも動くとするか」
ヴァンは立ち上がると、天幕を出て外で控える忠実な下僕《しもべ》に声をかける。
樫田――。
高山――。
戸敷――。
三人は傅き、ヴァンの命令を待った。
その三人の目に光は無く、深い闇だけをたたえていた。
「魔王ディカートを討ち取って参れ」
返事はなく、だが三人は揃って立ち上がると、ヴァンに背を向け歩き出した。
ヴァンはドーラムを撤退すると見せかけ、大きく迂回する形で軍を西に進めたていた。
そして自身は僅かな兵と共に帝都へと戻り、今こうして再びドーラムの西――魔族の国ディストレトへと進軍する。
「四人目の開放は叶わぬかな?」
そうつぶやくヴァンの横で、真っ赤な甲冑を纏う男が身を震わせる。
「ひ、必要ないのでは? 俺がいますし」
「ふ、そうだなアイダよ。貴様がデストラ様の眷属となる決意ができたのなら、それでもいい。冥府の女神デストラ様の眷属が四人揃わなければ、あの方を蘇らせることも叶わぬからな」
「そ、そうですよ。ハハ」
アイダ――相田の額に生温いモノが伝わる。
彼は魔都ディストレトに向かう元クラスメイトたちを見送り、ごくりと生唾を飲み込んだ。
(冥府の女神、デストラの四人の眷属を、まさか異世界から召喚した俺たちに憑りつかせるとはね……しかも元の魂は抜き取られてるから、事実上死んだも同然だ。ドーラム王城地下の迷宮に封じられた眷属が解放されようものなら、俺もあいつらみたいに……)
相田は他の帝国兵らと出撃してゆくクラスメイトを見送る。
ヴァン王子に上手く取り入り、三人が裏切るであろうことを事前に報告したのは彼である。
この異世界で、彼はクラスメイトを裏切りひとり生き延びようと――そして成り上がろうと決意した。
ただひとつ、彼にはわからないことがあった。
魔王――。
彼の知識からすれば、魔王とは悪そのものである。
冥府の女神が邪神なら、魔王こそ眷属なのではないか……と。
そうでなくとも、言いくるめて従わせる、もしくは協力関係を築けるのではないか、と。
そうは思うが、口に出す勇気など相田にはない。
「どうしたアイダ。何か気になることでもあったか?」
「あ、いえ……と、ところで、どうやって魔王を倒すんですか?」
魔王と呼ばれるぐらいだ。想像を絶するほど、強力な力を持っているだろうと相田は考える。
実際、赤ローブの軍団などは魔王を恐れ、討伐隊に加わるのを嫌っていた者さえいた。
故に今回、彼らはみなヴェルタの迷宮調査に行かされているのだ。
「奴はお人好しと聞く」
ヴァン王子の言葉に、相田の頭にはクエスチョンマークが浮かんだ。
「カシダたち三人が我ら帝国を裏切り、魔王に庇護を求めやってきた。異世界から召喚された勇者だと知れば、奴は興味を持って容易に受け入れるだろう」
「……はぁ……え、魔王って人助けとかするんですか? 魔王って普通、悪い奴じゃないですか?」
考えられない。
魔王とは世界征服を目論んでいたり、世界を破滅に向かわせようとしたり、そういう存在なのでは?
と、相田はこれまでプレイしたことのある、魔王が登場するゲームを思い浮かべる。
良い魔王など、聞いたことがない――と。
だがヴァン王子はあっさり言う。
「何を勘違いしている。奴は異種族間の差別を失くし、全ての者が平等であるべきだ、奴隷制度は廃止するべきだとする大馬鹿者だぞ」
(思ってたんと違う……)
「奴隷制度廃止など言語道断。そういう国のほうが圧倒的だが、表立って奴に口出しできないのは、奴がこの地上で古代竜アブソディラスに匹敵する力を持つ、神に近しい存在だからだぞ」
(神に等しいって、そんなんで勝てるのか!? 人格は思ってたのと随分違うが、力の方は思ってた通りじゃないか!!)
相田は身震いし、ヴァンは口元に歪んだ笑みを浮かべる。
「ふんっ。奴の善意が身を亡ぼすことを、証明する時が来たのだ! はーっはっはっはっは」
「そうか……あとは非登録の者だな」
デュオーラム平原でのドーラム王国との戦で、早々に撤退したヴァルジャス帝国第二王子ヴァン。
彼は一旦は帝都に戻り、敗戦の報告を父である皇帝にしたのち再び帝都を離れた。
ドーラムに敗退したのは兄ヴォードに全責任を押し付けて、だ。
「迷宮のほうはどうなっている?」
ヴァンに問われ控えていた赤ローブの男が口を開く。
「はい。部下に調べさせましたが、エスクェード騎士たちの死霊は確かに減っております。戦場で見かけたという亡霊は、確かにエスクェード騎士のものでしょう」
「何故あの者がエスクェード騎士の死霊を……まぁよい。奴らが迷宮から出たということは、他に出入り口がある……だな?」
樫田の目を通して見たエスクェード騎士の死霊の中に、甲冑を纏ったままの者がいた。
霊体は物質を身に纏うことは出来ない。
出来るとすれば、その物質に対し強い念があるときぐらいだ。
「甲冑のまま深層部から這い上がってきたというのであれば、落石で塞がっていない通路がどこかにあるということ……」
「はい。現在、部下も総出で捜索しております。間もなく見つかるかと」
「うむ。ではこちらも動くとするか」
ヴァンは立ち上がると、天幕を出て外で控える忠実な下僕《しもべ》に声をかける。
樫田――。
高山――。
戸敷――。
三人は傅き、ヴァンの命令を待った。
その三人の目に光は無く、深い闇だけをたたえていた。
「魔王ディカートを討ち取って参れ」
返事はなく、だが三人は揃って立ち上がると、ヴァンに背を向け歩き出した。
ヴァンはドーラムを撤退すると見せかけ、大きく迂回する形で軍を西に進めたていた。
そして自身は僅かな兵と共に帝都へと戻り、今こうして再びドーラムの西――魔族の国ディストレトへと進軍する。
「四人目の開放は叶わぬかな?」
そうつぶやくヴァンの横で、真っ赤な甲冑を纏う男が身を震わせる。
「ひ、必要ないのでは? 俺がいますし」
「ふ、そうだなアイダよ。貴様がデストラ様の眷属となる決意ができたのなら、それでもいい。冥府の女神デストラ様の眷属が四人揃わなければ、あの方を蘇らせることも叶わぬからな」
「そ、そうですよ。ハハ」
アイダ――相田の額に生温いモノが伝わる。
彼は魔都ディストレトに向かう元クラスメイトたちを見送り、ごくりと生唾を飲み込んだ。
(冥府の女神、デストラの四人の眷属を、まさか異世界から召喚した俺たちに憑りつかせるとはね……しかも元の魂は抜き取られてるから、事実上死んだも同然だ。ドーラム王城地下の迷宮に封じられた眷属が解放されようものなら、俺もあいつらみたいに……)
相田は他の帝国兵らと出撃してゆくクラスメイトを見送る。
ヴァン王子に上手く取り入り、三人が裏切るであろうことを事前に報告したのは彼である。
この異世界で、彼はクラスメイトを裏切りひとり生き延びようと――そして成り上がろうと決意した。
ただひとつ、彼にはわからないことがあった。
魔王――。
彼の知識からすれば、魔王とは悪そのものである。
冥府の女神が邪神なら、魔王こそ眷属なのではないか……と。
そうでなくとも、言いくるめて従わせる、もしくは協力関係を築けるのではないか、と。
そうは思うが、口に出す勇気など相田にはない。
「どうしたアイダ。何か気になることでもあったか?」
「あ、いえ……と、ところで、どうやって魔王を倒すんですか?」
魔王と呼ばれるぐらいだ。想像を絶するほど、強力な力を持っているだろうと相田は考える。
実際、赤ローブの軍団などは魔王を恐れ、討伐隊に加わるのを嫌っていた者さえいた。
故に今回、彼らはみなヴェルタの迷宮調査に行かされているのだ。
「奴はお人好しと聞く」
ヴァン王子の言葉に、相田の頭にはクエスチョンマークが浮かんだ。
「カシダたち三人が我ら帝国を裏切り、魔王に庇護を求めやってきた。異世界から召喚された勇者だと知れば、奴は興味を持って容易に受け入れるだろう」
「……はぁ……え、魔王って人助けとかするんですか? 魔王って普通、悪い奴じゃないですか?」
考えられない。
魔王とは世界征服を目論んでいたり、世界を破滅に向かわせようとしたり、そういう存在なのでは?
と、相田はこれまでプレイしたことのある、魔王が登場するゲームを思い浮かべる。
良い魔王など、聞いたことがない――と。
だがヴァン王子はあっさり言う。
「何を勘違いしている。奴は異種族間の差別を失くし、全ての者が平等であるべきだ、奴隷制度は廃止するべきだとする大馬鹿者だぞ」
(思ってたんと違う……)
「奴隷制度廃止など言語道断。そういう国のほうが圧倒的だが、表立って奴に口出しできないのは、奴がこの地上で古代竜アブソディラスに匹敵する力を持つ、神に近しい存在だからだぞ」
(神に等しいって、そんなんで勝てるのか!? 人格は思ってたのと随分違うが、力の方は思ってた通りじゃないか!!)
相田は身震いし、ヴァンは口元に歪んだ笑みを浮かべる。
「ふんっ。奴の善意が身を亡ぼすことを、証明する時が来たのだ! はーっはっはっはっは」
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