タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔

文字の大きさ
9 / 35

9:温泉事情。

しおりを挟む
 ちゅんちゅんと小鳥の囀りが聞こえる朝。
 隣には小さな寝息を立てる、美しいエルフの少女の顔があった。もちろん隣のベッドだ。
 それでも彼女居ない歴=年齢の悠斗にとって、心臓が飛び出るほどの事件だった。

(何も無い。何もやましい事は無い!)

 当たり前だが、昨晩、二人には何も無かった。
 温泉話のあと、ルティは大きな欠伸をしてこてんと寝てしまっている。素晴らしい寝つきだ。
 対照的に悠斗はなかなか眠れなかったが、それでも二日続けて徹夜には耐えられず。気づけばぐっすり眠っていた。

 その昨晩の温泉話だが、悠斗には喜べない内容もあった。
 温泉のある場所は火山地帯が多い。そして火山地帯には魔物も多かった。
 まず喜べない内容その①だ。

 そもそも火山地帯などに人が入って行くはずもなく、未開の地であることがほとんどだ。
 これが喜べない内容その②。

 極めつけがこれだ。
 温泉が湧く場所に行ってどうするのだ? あんな臭くて異様な臭いのする湧き湯に何の用があるのだ。入れば体がどろどろに溶けてなくなるぞ――というのがこの世界の住人認識らしい。
 喜べない理由その③。 

 悠斗はタブレットを出して『世界地図』『温泉の位置』というキーワードで検索を掛けた。
 画面に表示されたのはこの世界の全体図と、そこに点在する赤い点。
 これに『人類が開拓した地』を重ねて検索すると、赤い点はほとんど未開の地にあった。
 それも仕方のない事。
 悠斗が調べてみると、この世界の総人口は僅か五億人とのこと。
 彼が生きていた時代の地球は、総人口80億だなんだ言われた時代だ。それと比べると圧倒的に少ない。
 人が少なければ未開拓の地が多くても不思議ではない。開拓する必要性がないからだ。

「おはよう勇者殿。あ、ユウト殿だったな」
「あ、おはようございます」

 いつの間に起きたのだろう。そしていつの間に着替えたのだろう。
 昨夜小銭入れからにゅるっと出した寝間着から、既に黒いコートに着替え終わっているルティは、ベッドから起き上がって悠斗の手元を覗き見ていた。

「温泉か?」
「え、えぇ……。せっかく温泉に浸かって、日本――あ、俺が以前住んでた国です。そこでの人生の疲れを癒そうと思っていたんですが……」
「人生の疲れ……よっぽど酷い目に会っていたのか」
「まぁ……そうですね。へへへ。そりゃもう、朝から晩まで、終電に間に合わないぐらい、働きづめでしたから。ふへへ」

 危ない奴だ。ルティは僅かに距離を取り、真顔で悠斗のじっと見つめた。

「しかしユウト殿。あれでどうやって疲れを癒すと?」
「え? 浸かるんですよ。お風呂みたいに」

 そう答える悠斗の言葉に、ルティの表情はみるみるうちに変化していった。何か恐ろしい物でも見ているような目だ。

「嘘」
「いや、本当ですって。日本にも温泉はありましたが、浸かって寛ぐための温泉宿とかもあったんですよ」
「嘘」
「いや、本当ですって」

 悠斗の言葉は信じられないらしい。

「あんなぼこぼこと煮えたぎった湯に浸かったりしたら、火傷で死ぬぞ?」
「あ、そんなに温度高くない温泉限定ですよ」
「……確かに煮えたぎっていない温泉もあるが……だが異様な臭いがするし!」
「まぁそれは温泉ならではの臭いなので」
「湯の色もおかしいぞ!」
「湯の成分によって色が付きますね。でも毒じゃないですよ」
「……そうなの?」

 ルティはこてんと首を傾げ不思議そうに悠斗を見つめる。
 つまりそれだけこの世界に温泉というものが何なのか知られていないのだろう。
 だがもしかして地球の温泉とこの世界の温泉が別物と言う可能性もある。
 もしそうだった場合、悠斗の異世界での目的を考え直さなければならない。

「……とりあえず温泉を見てみないと分からないな」

 こうして二人は温泉を目指すことになった。
 地図から一番近い温泉にまずは行ってみよう!





「という訳で、まずは旅用品を揃えたいと思います」
「うむ。必要な物だな。そういった物は雑貨屋に行けば揃うだろう」

 さっそく雑貨屋を探し町をうろうろ。
 賑やかな町ではあったが、東京の通勤ラッシュに慣れた悠斗にとっては長閑な風景にも見えてしまう。
 町は壁で囲まれているが、囲える程度の大きさしか無いとも言えた。
 そして壁を一歩出れば、広がるのは大自然。
 自然なら地球にもあるし日本にもある。だが同時に、町から町まで絶えず建物が立ちならび、何千何万もの人が住んでいて当たり前な環境だ。
 それがこの世界には無い。
 次の町まで徒歩で数日なんて当たり前なのだ。
 悠斗にしてみれば、ドがいくつか連なる田舎に見えても仕方ない。

 さて、ようやく見つけた雑貨屋で旅に必要な物を購入。
 テント、毛布、簡易マットレス、調理器具に食器、ランタン。それに必要な油。
 店主に地図を勧められたが、それは必要ない。タブレットがあるからだ。

 雑貨屋では背負い袋を二つ購入した。テントやマットレス、毛布以外を二手に分けて入れ、悠斗とルティで背負う。
 だが店を出て裏手に向かえば、荷物はすぐさまタブレットの中へとDL。

「他に必要な物はなんだろう?」
「食料は当然必要だな」
「あぁそうか……途中でコンビニがある訳でもないですもんね」
「こんびに?」

 コンビニ以前の問題だろう。
 市場で保存の効くパンと干し肉、乾燥された根菜を購入。だが幾ら日持ちするとはいえ、パンは五日が限界だという。
 だがルティの300年の経験からすると、これから向かう温泉は山奥にあり、徒歩で片道五日以上だろうと言う。

 さぁ、困った。
 という訳でもない。肉は獣を狩ればいい。野菜は乾燥されているので半月はゆうに持つ。
 主食のパンの代わりにナンを焼けばいい。こちらはパンと違ってフライパンがあれば作れる。そしてこの世界にもフライパンはあった。
 必要なのは小麦と塩、そして水だ。水以外を買って、再び人気の無い路地裏でタブレットに詰め込む。

 そうして準備が出来たら、今度はルティの出番だ。

「では私が記憶している一番近い場所まで飛ぶぞ」
「お願いします」

 こうして二人は町から大自然の中に空間移動した。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

本の知識で、らくらく異世界生活? 〜チート過ぎて、逆にヤバい……けど、とっても役に立つ!〜

あーもんど
ファンタジー
異世界でも、本を読みたい! ミレイのそんな願いにより、生まれた“あらゆる文書を閲覧出来るタブレット” ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで? 異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。 チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。 「────さてと、今日は何を読もうかな」 これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。 ◆小説家になろう様でも、公開中◆ ◆恋愛要素は、ありません◆

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

【完結】スキルを作って習得!僕の趣味になりました

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》 どんなスキル持ちかによって、人生が決まる。生まれ持ったスキルは、12歳過ぎから鑑定で見えるようになる。ロマドは、4度目の15歳の歳の鑑定で、『スキル錬金』という優秀なスキルだと鑑定され……たと思ったが、錬金とつくが熟練度が上がらない!結局、使えないスキルとして一般スキル扱いとなってしまった。  どうやったら熟練度が上がるんだと思っていたところで、熟練度の上げ方を発見!  スキルの扱いを錬金にしてもらおうとするも却下された為、仕方なくあきらめた。だが、ふと「作成条件」という文字が目の前に見えて、その条件を達してみると、新しいスキルをゲットした!  天然ロマドと、タメで先輩のユイジュの突っ込みと、チェトの可愛さ(ロマドの主観)で織りなす、スキルと笑いのアドベンチャー。

処理中です...