転生魔王は全力でスローライフを貪りたい

夢・風魔

文字の大きさ
18 / 35

第十八話

しおりを挟む
「うむ。良いモニラの木じゃ」
「モニラ?」

 フェミアが見つけた正真正銘光る茸の下へとやってきた余たち。
 そこにあったのは三メートルほども、思っていたよりかなり小さな木だ。
 ガンドはその木の枝を一本折り、その断面をみてそう言った。

「探して居った木というのがモニラだ。魔力の伝達に優れた特殊な木でな、一般的な木の杖の5倍以上の値で取引されるのだ」
「おおぉ。よくわからんが、凄いな」
「わからないなら凄いかどうかもわからないでしょ!?」

 確かに。
 まぁ5倍の値段で儲けがっぽがっぽなのはわかる。

 さっそくガンドは木を掴み――引っこ抜いた!?

「根っこごとか……」
「根にこそ、魔力を蓄える機関があるからの」

 根っこに魔力貯蔵設備があるのか。
 さすが異世界の草木は凄いな。
 まぁ余が魔王として君臨していた世界でも、魔術師というのは杖を持っていたものだ。余は杖など装備せずとも、アホほどの魔力があったからなぁ。
 
「よし、次だ」
「え、まだいるのか?」
「当たり前だろう。これだけでは杖二本分にしかならんわい」
「ぅああー」
「なに? 見つけたのか!?」

 爛々と目を輝かせたガンドの言葉に、フェミアは頷いて指を指す。

「うおおぉぉっ、行くぞ!!」

 鼻息の荒いドワーフであるが、荷物持ちのワニの移動は遅い。
 まぁ余の知るワニよりは足が長い分、きっと早いのだろう。
 のんびり徒歩移動で二本目のモニラの木を引っこ抜き、更にフェミアが三本目を見つけ――。

 どのくらい経っただろうか。
 ワニが引く荷車の上には、十五本のモニラの木が積まれた。

「よしよしよし。これほど手に入るとは思っておらんかったわい。一本でも見つかれば御の字だったんだがな。かーっかっかっか」
「……一本見つけた後、即行で次を探していたじゃないか!」
「あれだけ直ぐに手に入ったからの。だったらもう一本ぐらいと」

 もう一本どころか、もう十四本も引っこ抜いているじゃないか!
 なんと強欲なドワーフだろう。

「まぁこれであの倒壊した家の、四分の一ぐらいはタダで作ってやってもいいぞ」
「まだ無傷ではないか。モンスターとてガンドの手を借りず倒しているぞ」

 最初の犬戦以来、火属性魔法ではなく雷属性魔法に切り替えた。
 そのおかげで荷車の上には、素材となるモンスターの体の部位も転がっている。
 明日はこれを売って、余とフェミア、ローゼにシンシアの四人で分配することに。

「さて、フェミアのおかげで短時間でこれだけのモニラの木が集まったわい。これ以上は取り過ぎになるからの、帰るとするか」

 ガンドはそう言ってフェミアの頭を撫でてやる。
 撫でられて恥ずかしいのか、フェミアは困ったようにはにかむ。

「随分奥に入ってきた気がするが、町の方角はわかっているのか?」
「なに? それほど奥に来ておらんぞ」

 なぬ?
 フェミアに指示されあちこち歩き回ったではないか。

「ぐるりと一周するような形で進んだからの。実際はほれ――」

 ガンドが遠くの空……よりは低い位置を指差す。
 そこには僅かに光が見えた。

「見張り塔よ。あんた、方向音痴なの? まっすぐ進まず、ぐるっと回ってたの気づかなかったの?」
「うむ。気づかなかった」
「いや、そこ、威張って言うことじゃないでしょ」

 自慢だが、余は方向音痴だ。
 なんとなくこの道を進めばあの辺に出るだろう。そう思って突き進み、そして常に予想外な場所へと出る。
 だが……道がある限りどこかへと繋がっているのだ!
 臆するな! 突き進め!
 こんな精神で生きてきた。
 といっても日本男児に生まれてからであるが。

 そもそも魔王時代には城から一歩すら出ることが出来なかったのだ。
 城内でどうやって迷子になる?
 エルフに転生していた時も、基本は森での生活だ。
 森を出るときもひとりではなく、仲間のエルフがいた。帰りも彼らに着いて行けばよかったからな。
 スペースファンタジーな世界に転生したときは……幼くして死んだのでよくわからん。

 余だってビックリしたさ。
 まさか人類の敵、世界を恐怖に陥れていたこの余が方向音痴だったとは、本人だって思うまい。

「ぅあー」
「ん? なんだフェミア」

 物思いに耽っていると、フェミアが余の水法被を引っ張って何か言いたげな顔を見せる。
 それから一点を指差し――。

「お、おいっ。余――俺を置いていくな!」

 置いていかれていることに気づき、フェミアの手を引いて慌てて駆け出す。
 なるほど。あの者らが余を置いて行こうとしたから、教えてくれたのか。
 フェミアはいい子だ。
 まぁ子供扱いできるほど年が離れていないというのが現実ではあるが。

 そのフェミアが突然立ち止まる。
 どうした――そう声を掛けると、フェミアは大きな耳をそばだて空を見つめる。
 やがて余の手を引いて、あうあうと何事かを訴えようとした。

「なんだフェミア、どうした?」
「うぅー、ううぅぁ」

 我らのやりとりに気づいたのか、ローゼたちが踵を返して戻って来る。

「どうしたの?」
「わからぬ。何かを言いたそうなのだが……」
「しっ。二人とも静かにせい」

 ガンドの声が森に響く。
 言われて口を紡ぐと、しーんっと静まり返った森に鐘の音が木霊した。
 鐘……まさか!?

「「モンスターの襲撃!?」」

 余とローゼが同時に声を上げる。
 だがどの方角から聞こえてくるのかわからない。
 音が木にぶつかって反響しているのであろう。後ろから出ないことだけはわかる。後ろが森の奥、鐘を設置した塔もない。
 そして前方でないこともわかる。
 塔までまだ距離があるものの、見えている方角から鳴っているようには聞こえない。

「あぁーうぅー」
「フェミア、どの方角から聞こえるかわかるか?」
「う!」

 フェミアが指差すのは、塔のずっと左方向……町の位置からすると北西か。

「町の北西は?」
「農家の方々の集落が――この鐘の鳴らし方、尋常じゃないわっ」
「ずっと鳴り響いてますっ。もしかするとたくさんのモンスターが森から出たんじゃ」

 農家の集落には壁がないと言っていた。
 では……凄くやばいのでは?

「儂のことはいい。お前さんらは助けに向かえっ」
「で、でもガンドおじさんひとり残してなんて……あぁ、もうっ。こっちにだってモンスターはいるんだから!」

 ローゼの言う通り。こうして進む間にもモンスターはぽつりぽつりと襲ってくる。
 ガンドは斧を右手に持ち、戦闘準備を整えるが――。

 えぇい、こうなったら!

「俺とフェミアの二人で行く! ローザ、シンシアの二人はガンドと一緒に後からきてくれっ」
「二人で平気? ううん、平気よね。あんた、思っていたより凄く強いもの」

 余は任せろと親指を立てニっと笑う。
 そしてさり気なく三人と一頭に"筋力増強《マッスルパワー》"と"体力増強《ハッスルパワー》"魔法を付与する。
 ガンドには"被弾無効《パーフェクト・プロテクト》"も追加しておこう。

「ぬぅぅ。では任せたぞ」
「あぁ任せておけ。だからガンド、お前は戦うなっ。戦わず、そして無傷で帰るのだっ。そして新築をタダで建ててくれ!!」
「はあぁ?」

 夢の新築一戸建て。
 その為に余はフェミアと二人、駆けるのであった。

「あ、フェミア待ってくれ~」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...