転生魔王は全力でスローライフを貪りたい

夢・風魔

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第二十九話

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 家の形はほぼ出来た。まぁ窓がまだ無かったり、内装もまったく手が入ってなかったりするが、形だけは出来た。
 今日には窓も取り付けられるので、寝泊まりだけは出来るという。

「ベッド無いしなぁ」
「うぅ」
「そうだフェミア。お前の部屋だがな――」

 ガンドが描いた図面を見せ、フェミアの部屋を伝える。
 LDKに当たる部屋と同じ面積を二つに分け、片方は小さく、片方が大きい。
 小さいほうがフェミアの部屋だ。面積としては四畳半ほどある。
 それを見てフェミアがあからさまに不満そうな顔を見せる。

「言っておくがな。この広い方は俺の部屋じゃないからな」
「う?」
「こっちはいろいろな作業部屋だ。倉庫も兼ねるだろうから、広く取る必要があっただけだ。俺が寝るのはロフトだ」
「おぅ?」
「やはりロフトという単語はないか……。ロフトというのはだな」

 部屋の天井と屋根との隙間に出来た空間。そこを部屋として使う。
 これがロフトだ。
 屋根裏部屋とも言えるが、ロフトのほうがカッコいい。
 ガンドたちにもそれを伝えると、

「確かに屋根裏と言えば聞こえは悪いし、薄汚れたような感じもするが……」
「ロフトか。聞き慣れないその言葉は、異国情緒に溢れていいねぇ」
「よぉし。これからは屋根裏部屋をロフトと呼んで売りだそう!」

 などと言っていた。
 
 今回そのロフト付き構造で建てて貰っている。
 三角屋根の真ん中あたりなら、余が立っても十分なスペースがあるからな。
 そこに四畳ほどを確保して、余の部屋にする訳だ。
 
 屋根の一部を天窓仕様にし、夜には満点の星空を見ながら眠る。
 それが神木 裕斗としての、ちょっとした憧れでもあった。
 いやぁ、異世界スローライフって素晴らしい。
 日本に住んでいたら、天窓ロフト付きの家なんてなかなか建てられるものじゃないぞ。
 もちろん金持ちなら余裕だろう。
 だが一般家庭であった余の家では、贅沢過ぎる夢であっただろう。

 それが異世界に来て叶うとは……異世界万歳! スローライフ様様!

「という訳だ」
「うーぁっ!」

 フェミア、ご立腹のようだ。
 この部屋は不満なのか? あぁそうか。ではこっちの広い部屋がいいのか? え、違う?
 そうか、ではリビング――もダメ、と。
 まさか風呂場に!?
 痛い痛い。余を叩くな。

「ま、まさか……ロフト……ではないですよねー?」
「あうー!」

 元気よく頷くフェミア。

「ダメだダメだ。ロフトは俺ん部屋たい。こればっかりは譲れんたいっ」
「ぁうーっ」

 ぼふっとフェミアが余の胸に飛びついてくる。
 頭をぐりぐりしてアバラを攻撃する。
 ぐ……ぬぅ……負けるものか。ロフトの為、余はまけーん!

「ぅぅ」

 ふと攻撃の手を緩めたフェミアは、余を見上げ、その大きな眼を輝かせた。
 それはまるで、大好きなにわかせんぺいを前にした幼子のような輝きを放つ瞳だ。
 あぁ、ダメだ……フェミアよ、その目は卑怯だぞ。

 にわかせんぺい……もう二度と食べられぬのか……。

「ぐぬぬ……わかった。お前の気持ち、俺にもわかるったい。しゃーないけん、ロフトは譲ってやるっちゃん」

 にわかせんぺい……食べたかー。





 部屋決めも終え、伐採しておいた竹で水を引く準備に取り掛かる。
 まずは湧き水をいったん上に引き上げる必要がある。
 風車の力――は、あの場所では使えない。

 ならどうするか。

「ふははははははは。ここは剣と魔法の異世界ファンタジーだぞ。そんなもの、魔法でゴリ押しに決まっておろう!」

 まずは竹を等間隔に置いていく。太い方を湧き水に向け、細い方をマイホームへ。
 そして細い方を、次の竹の太い方へと差し込み、これをマイホームまで繋げてゆくのだ。
 が、その前に竹を支える土台を作らねばならぬ。
 その辺りはガンドらに事情を説明し、台は既に作って貰っていた。

 生えている木も利用し、一本ずつ竹を乗せていく。
 最終的にはマイホーム裏に用意した、水を溜める大きな桶へと繋げて終わり――ではない。

 ガンドたちが作業を終え、町に帰ってから湧き水へと向かう。
 そして余は命じた。
 大地の精霊に。

「湧き水の土台事盛り上がれ!!」

 大地の精霊が水の湧く周辺ごとぼこぼことと盛り上げてゆく。
 水を枯れさせないよう精霊には注意して盛り上げるよう命じ、やがて近くの木に括り付けた竹と同じ高さまで伸ばした。

「うあぁぁぁぁ」
「どうだフェミア。これで水が確保されたぞ」

 高さ二メートルほどまで伸びた湧き水のポイントは、無事水を枯らすことなく湧き続け、その一部が竹筒を通って余のマイホームへと向かう。
 走ってマイホームへと戻り、ゴール地点でじっと待つ。
 数分とせぬうちに、竹筒から水が流れ出してきた。
 その量は僅かであるが、二十四時間ずっと流れ続ける。

 ふふふ。
 これで水の確保が出来たぞ!

 建築作業もあと二、三日には完了すると言っていたな。

 ふ……ふはははははっ。

「ようやくスローライフの下地が出来たばい! これで……これで念願のスローライフが送れるったい!!」
『ゲギャッギャッ』
「おぉ、ゴブリンどもも新築祝いに駆け付けてくれたのか」
「うーぁぁ!」
『ゲギャー!』

 手斧を振りかざし、ほぼ完成した余のマイホームに向かって――投げる。
 ゴスっという音と共に壁の一部が割れた。

 壁の一部が……。

「きさんら、何しよっとかぁ! ぶちくらすぞこらぁっ!!」

 余った竹筒を握りしめ、余のマイホームを荒らすシロアリのごときゴブリンを駆逐するのであった。

 とりあえず、襲撃対策もせねばな……。
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