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元魔王は努力する。
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大神殿へとやって来て三日が過ぎた。
到着したその日の午後の部から、学び舎での勉強が始まった。
だがフィリアは来ず、三日間ずっと顔を合わせていない。
「デリントン。聖女候補はここで一緒に学ばないのか?」
「だからなんで貴様は俺の名を知っているんだ!?」
「え? 何故って……知りたければ自分で調べろと、ぼくに試練を与えたではないか」
同じ部屋の者同士、仲良くしようと名を尋ねると、彼自身がそう言ったのだ。
これもまた試練。乗り越えなければならない。
――知りたければ自分で調べろ。
彼はそうヒントをくれた。
つまり鑑定すればいいのだ。
「鑑定することでデリントンの名前も所有する属性も全て分かったぞ」
「な!? か、鑑定だと?」
「デリントン・ボルマーロ。これが君の名だ」
デリントンはぼくと同じ十三歳だ。
本来この大神殿で学ぶ子供たちは、春に入信してくるのだと他の者に聞いた。
彼――デリントンも然りだ。
そして彼は男爵家の四男と言う。
「ぼくと一緒だね」
「い、一緒にするな! 俺はなぁ、由緒正しいボルマーロ男爵家の四男なんだぞ。貴族様だぞ!」
「分かっている。ぼくもアルファート男爵家の次男だ。同じ貴族だよろしく」
右手を差し出すが、彼はその手を握ってくれはしない。
顔を真っ赤にさせているので、きっと照れているのだろう。シャイな奴だ。
学び舎には十三歳から十五歳までの男女、二十人ほどが居る。
その中に聖女候補はおらず。だがフィリア含めて候補は三人だというのを、他の生徒に教わった。
さて、今日も一日張り切って勉強するぞ!
と思ったが、正直退屈だ。
女神ローリエをひたすらヨイショするだけの話を、延々聞かされるのだから。
与えられた聖書も、神官エリーから貰った物と同じ。
よく見ると、一緒に学ぶ者たちのうち何人かは眠っていた。
しかしデリントンは真剣な表情で話を聞き、ぼくも彼を見習わなくてはいけない。
睡魔に襲われつつも、ぼくは司祭の話を必死に聞いた。
ただ――
「ローリエ神は古の大戦で、闇の女神と混沌の神、そして狂気の女神を滅ぼしたと言うが、それは偽りだ」
「は? 君は何を言っているのだね。我らの女神は邪悪な三神を――」
「嘘を子供に教えるのは良くない。ローリエ神が手を下したのは狂気の女神のみだ」
「な、なな、な、なな、何を根拠にそんなデタラメを!?」
根拠も何も……リアルタイムで見ていたから。
あの時ローリエは狂気の女神との喧嘩で辛くも勝利したが、傷つき倒れ、他の二神をどうこう出来る状態じゃなかった。
そもそも闇の女神と混沌の神は滅んでいない。
光の神アポロノスと知識の神イエルナ、戦の神フレイノの三神がかりで封印しただけの事だ。
聖職者のくせに、そんなことも知らないのか。
「ルイン・アルファート! 君は廊下で立ってなさい!!」
「む? それも試練か。よしきた」
退屈な話を聞かされるだけよりもよっぽどいい。
一時間後。神話の授業が終わると、ぼくの試練もそこで終わった。
司祭さまと二人っきりになり、彼は――
「事実は時として、人々の幸せの為に伏せられることもある。よく理解しておくように」
「はぁ……」
つまりここで教えられる嘘とは、人々の幸せに必要な嘘という訳か。
理不尽だとは思うが、郷に入っては郷に従え。
神殿がそういう方針であるならば、まぁ従おうではないか。
午前の授業が終わり食堂へと向かい、座れる場所を探す。
食堂は生徒だけではなく、ここ大神殿に勤める神官や司祭らも使用している。
大勢でごった返しているのだ。賑やかで楽しい。
お、デリントン発見。
今日も年上少年や見習い神官を侍らせているな。あれは俗に言うハーレムと言う奴だろうか。全員男だが。
この三日間観察した結果、彼の座る席の後ろはいつも空いていた。
だからぼくはそこに座る。
デリントンを見つければ空席を見つけられるなんて、彼はぼくにとって幸運の神のような存在だ。
さて、今日も努力を怠らぬよう、エア椅子だ!
これは全身に魔力を駆け巡らせ、特に足から流れるそれを吸着性のある物に性質変化させる訓練だ。
前世でも暇つぶしの一環で行っていたが、突然襲ってくる勇者一行へ対処するのに役立っていた。
人の身に転生してぼくは弱くなった。
それを戒めるためにも、ここでの暮らしの間、常にエア椅子で過ごす。
そう決意した。
「やぁデリントン。今日も君と一緒に食事が出来て嬉しいよ」
テーブルに食器を置き、後ろのデリントンに挨拶をしてから椅子を引き――座る振り。
うん。今日のエア椅子は完璧だ。尻に椅子が触れる感触すらない。ミリ単位で浮けているようだ。
「お、おいあいつ。凄くないか?」
「ふぁっ!? い、椅子が無いのに……座っている……だと?」
「「ざわざわ――」」
今日はやけに騒がしいな。賑やかでよろしい。
お、そうだ。
「デリントン。次の授業では治癒魔法を学べるのだろう? 楽しみだな」
くるりと振り向くと、デリントン一行がざざっと一歩後退する。
「ん? どうしたんだデリントンとその仲間たちよ」
仲間その1が椅子を手にし、それを慌てて後ろへ隠すような仕草をする。
あぁ、席を立とうとしていたのか。そのタイミングで声を掛けてしまったので、困惑しているのだろう。
それは申し訳ないことをした。
「ははは。もう食事が済んでいたのだな。うん、ではまた。午後の授業で」
そう言ってぼくは食事を続ける。
すると気が抜けたせいか、尻に椅子が触れる感触があった。
ふぅ……ぼくもまだまだ努力が足りないな。
到着したその日の午後の部から、学び舎での勉強が始まった。
だがフィリアは来ず、三日間ずっと顔を合わせていない。
「デリントン。聖女候補はここで一緒に学ばないのか?」
「だからなんで貴様は俺の名を知っているんだ!?」
「え? 何故って……知りたければ自分で調べろと、ぼくに試練を与えたではないか」
同じ部屋の者同士、仲良くしようと名を尋ねると、彼自身がそう言ったのだ。
これもまた試練。乗り越えなければならない。
――知りたければ自分で調べろ。
彼はそうヒントをくれた。
つまり鑑定すればいいのだ。
「鑑定することでデリントンの名前も所有する属性も全て分かったぞ」
「な!? か、鑑定だと?」
「デリントン・ボルマーロ。これが君の名だ」
デリントンはぼくと同じ十三歳だ。
本来この大神殿で学ぶ子供たちは、春に入信してくるのだと他の者に聞いた。
彼――デリントンも然りだ。
そして彼は男爵家の四男と言う。
「ぼくと一緒だね」
「い、一緒にするな! 俺はなぁ、由緒正しいボルマーロ男爵家の四男なんだぞ。貴族様だぞ!」
「分かっている。ぼくもアルファート男爵家の次男だ。同じ貴族だよろしく」
右手を差し出すが、彼はその手を握ってくれはしない。
顔を真っ赤にさせているので、きっと照れているのだろう。シャイな奴だ。
学び舎には十三歳から十五歳までの男女、二十人ほどが居る。
その中に聖女候補はおらず。だがフィリア含めて候補は三人だというのを、他の生徒に教わった。
さて、今日も一日張り切って勉強するぞ!
と思ったが、正直退屈だ。
女神ローリエをひたすらヨイショするだけの話を、延々聞かされるのだから。
与えられた聖書も、神官エリーから貰った物と同じ。
よく見ると、一緒に学ぶ者たちのうち何人かは眠っていた。
しかしデリントンは真剣な表情で話を聞き、ぼくも彼を見習わなくてはいけない。
睡魔に襲われつつも、ぼくは司祭の話を必死に聞いた。
ただ――
「ローリエ神は古の大戦で、闇の女神と混沌の神、そして狂気の女神を滅ぼしたと言うが、それは偽りだ」
「は? 君は何を言っているのだね。我らの女神は邪悪な三神を――」
「嘘を子供に教えるのは良くない。ローリエ神が手を下したのは狂気の女神のみだ」
「な、なな、な、なな、何を根拠にそんなデタラメを!?」
根拠も何も……リアルタイムで見ていたから。
あの時ローリエは狂気の女神との喧嘩で辛くも勝利したが、傷つき倒れ、他の二神をどうこう出来る状態じゃなかった。
そもそも闇の女神と混沌の神は滅んでいない。
光の神アポロノスと知識の神イエルナ、戦の神フレイノの三神がかりで封印しただけの事だ。
聖職者のくせに、そんなことも知らないのか。
「ルイン・アルファート! 君は廊下で立ってなさい!!」
「む? それも試練か。よしきた」
退屈な話を聞かされるだけよりもよっぽどいい。
一時間後。神話の授業が終わると、ぼくの試練もそこで終わった。
司祭さまと二人っきりになり、彼は――
「事実は時として、人々の幸せの為に伏せられることもある。よく理解しておくように」
「はぁ……」
つまりここで教えられる嘘とは、人々の幸せに必要な嘘という訳か。
理不尽だとは思うが、郷に入っては郷に従え。
神殿がそういう方針であるならば、まぁ従おうではないか。
午前の授業が終わり食堂へと向かい、座れる場所を探す。
食堂は生徒だけではなく、ここ大神殿に勤める神官や司祭らも使用している。
大勢でごった返しているのだ。賑やかで楽しい。
お、デリントン発見。
今日も年上少年や見習い神官を侍らせているな。あれは俗に言うハーレムと言う奴だろうか。全員男だが。
この三日間観察した結果、彼の座る席の後ろはいつも空いていた。
だからぼくはそこに座る。
デリントンを見つければ空席を見つけられるなんて、彼はぼくにとって幸運の神のような存在だ。
さて、今日も努力を怠らぬよう、エア椅子だ!
これは全身に魔力を駆け巡らせ、特に足から流れるそれを吸着性のある物に性質変化させる訓練だ。
前世でも暇つぶしの一環で行っていたが、突然襲ってくる勇者一行へ対処するのに役立っていた。
人の身に転生してぼくは弱くなった。
それを戒めるためにも、ここでの暮らしの間、常にエア椅子で過ごす。
そう決意した。
「やぁデリントン。今日も君と一緒に食事が出来て嬉しいよ」
テーブルに食器を置き、後ろのデリントンに挨拶をしてから椅子を引き――座る振り。
うん。今日のエア椅子は完璧だ。尻に椅子が触れる感触すらない。ミリ単位で浮けているようだ。
「お、おいあいつ。凄くないか?」
「ふぁっ!? い、椅子が無いのに……座っている……だと?」
「「ざわざわ――」」
今日はやけに騒がしいな。賑やかでよろしい。
お、そうだ。
「デリントン。次の授業では治癒魔法を学べるのだろう? 楽しみだな」
くるりと振り向くと、デリントン一行がざざっと一歩後退する。
「ん? どうしたんだデリントンとその仲間たちよ」
仲間その1が椅子を手にし、それを慌てて後ろへ隠すような仕草をする。
あぁ、席を立とうとしていたのか。そのタイミングで声を掛けてしまったので、困惑しているのだろう。
それは申し訳ないことをした。
「ははは。もう食事が済んでいたのだな。うん、ではまた。午後の授業で」
そう言ってぼくは食事を続ける。
すると気が抜けたせいか、尻に椅子が触れる感触があった。
ふぅ……ぼくもまだまだ努力が足りないな。
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