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39元魔王は第二ステージへ
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「兄上、苺の利益はどうでしょうか?」
大神殿の学び舎を卒業して一年が経った。
実家のアルファート領へと戻って来てから、なかなか忙しい一年であった。
「ビックリするほど出ているよ。そもそも初期投資がほとんど無かったからな」
「苗は僕の友人から安く仕入れられましたしね」
「苺用のガラスハウスは、お前が覚えた魔法で造ってしまったしな。まったく、いつの間に魔術を覚えたのか」
「大神殿で学ぶ機会があったんです」
真っ赤な嘘だが、兄上――アルディンは特にツッコミはしなかった。
苺の栽培は雨風、そして雪を避けるためにガラス張りの小屋ですると温度調節も出来て良い。
そうポッソに教えられ、彼に紹介された苺農村で実物を見て同じような物を建ててみた。
ガラスは錬金魔法で砂や珪砂、石灰から作ったもの。それを木枠に嵌め、組み立てただけのガラスハウスだ。
「しかし苺がこんなに高く売れるとはなぁ」
「そこはポッソの父上に感謝せねばならないでしょうね。持つべきものは友――の親族」
「はは。お前は大神殿で良い友人を持てたな」
「はい!」
改良に改良を重ね、結局ひと月掛けてようやく甘くて粒の整った苺が完成した。
家族や領民、大神殿のフィリアにも味見をして貰い、誰もが笑顔になった苺だ。
それをポッソの家に持って行き食べてもらうと、これは絶対高く売れると太鼓判。
直ぐに売買契約を結び、彼らに販売をお願いすると――
「最初の一か月はまったく売れなかったが、お前が大神殿に苺を持って行ってからというもの、突然売れるようになったな」
「大神殿に来る貴族や富豪たちに食べ貰って、宣伝をお願いしたんですよ。もちろんフィリアにその根回しは頼みましたが」
僕が大神殿を出るときも、司祭たちには随分と引き留められた。
神殿に務めていれば、神官から司祭、高司祭と出世出来るぞって。上流階級の裕福な暮らしぶりが待っているとも。
だがそんな暮らしに興味はない。全てはスローライフの為なのだ。
そんな中、以外にも僕を理解してくれたのは最高司祭の老人で。
やはり彼も不自由な暮らしに思うところがあったのだろう。
――外の世界で見識を深めるのも良い事です。
そう、優しくもどこか憂いのある笑みで送りだしてくれたものだ。
今では僕がたまに賄賂として送る苺を、喜んで召し上がってくれて、神殿に訪れる金持ちへと宣伝までしてくれる。
神に仕えると、良い事もあるものだ。
苺栽培での利益は、当面は領地の整備、開発に充てられるだろう。
村が潤ったことで、流民が少なからずやって来るようになった。
働く意思のある者は領民として受け入れ、住むための住居を与えている。
今ではその住居が無くなってしまい、新しく建てるための資材が必要な程になっていた。
と言っても、元々十数軒の空き家しかなく、こうなることは必然だったので想定内の出費だ。
この一年で行ったのは、何も苺栽培だけではない。
領民は百数十人から倍以上に増え、田畑の拡張、新しい村の建設、土地の整備などなど。
更に比較的乾いた土地柄なのは、川が無いからであって。
だが調べた結果、地下深くを流れる水脈を見つけた。
近くの山脈から流れてきているようで、枯渇する地下水脈ではない。
そこに穴を空け、水を地上まで噴き出させて湖が誕生。更に溝を掘って人工的な川を作り上げた。
全部魔法で行ったことだが、どこに穴を空け、どう川を流すか考えるのに数日掛かったものだ。
おかげで領内の土地は以前よりも随分肥え、作物の収穫量も更にぐんと伸びた。
お金の面で潤うのはもう暫く先になるだろう。けれど後は兄上に任せてもいい頃合いだ。
もちろん時々土壌の様子を見る必要はあるだろうけど。
「兄上、僕はそろそろ旅に出ようと思います」
そう伝えるとアルディンは驚く様子もなく、優しく、けれど寂しそうに微笑んだ。
「ルインちゃあぁぁん。また行っちゃうのぉぉ?」
旅に出る。そう告げると母上はまた泣いた。
こうして僕の為に泣いてくれる人が居る人生というのも嬉しいものだ。
だからこそ、必ず帰って来ようと思う訳で。
「母上。魔法のおかげでいつでもどこからでも帰って来れます。ただ僕はこの世界の様々な物を見て回りたい。だから毎日とはいきませんが、それでも必ず帰ってきます」
「本当に? 本当に帰って来てくれるの?」
「はい。ここが僕の家ですから」
そう言って必殺天使の微笑み。
だがこの必殺技、最近村のご老人たちには微妙になって来たようなのだ。
やはり十六歳――この秋で十七歳という年齢では、天使と言うには限界か。
ただ女性相手には絶大な効果を発揮するが、その後、背後から付け狙われたりするので控えてはいる。
「では行ってまいります。帰る時にはお土産を持ってきますので」
「そんなのいいのよ。ルインちゃんが無事に戻って来てくれさえすれば」
「父さんはお土産を期待しているぞ。あちこち世界を旅して、美味しい物を見つけて来てくれ」
「そのつもりです。出来ればここで栽培できるものを探したいですね」
旅の目的は何も美味しい物を食べる為だけではない。
今でも目を閉じれば思い出す。薄暗く、冷たい石造りの玉座の間。
それ以外の景色を見たいという、魔王だった頃の願望。
それを叶えるためでもあり、スローライフに備えた計画でもある。
美味しい物……それが作物であれば種を持ち帰り、ぜひともアルファート領でも栽培したい。
家畜であったなら、やはりアルファート領でも育てたい。
そうやって各地の美味い物を集め、栽培、育て、自給自足を行う。
あぁ、僕の考えた最強のスローライフが、どんどん進化していく。
思い描く未来図が素晴らしくて震えそう。
「おいルイン、大丈夫か?」
「ルインちゃん? 気分が悪いなら、旅はまた今度にしましょう?」
「父さん母さん大丈夫。ルインはひとりの世界に入って、楽しい妄想をしているだけだから」
大神殿の学び舎を卒業して一年が経った。
実家のアルファート領へと戻って来てから、なかなか忙しい一年であった。
「ビックリするほど出ているよ。そもそも初期投資がほとんど無かったからな」
「苗は僕の友人から安く仕入れられましたしね」
「苺用のガラスハウスは、お前が覚えた魔法で造ってしまったしな。まったく、いつの間に魔術を覚えたのか」
「大神殿で学ぶ機会があったんです」
真っ赤な嘘だが、兄上――アルディンは特にツッコミはしなかった。
苺の栽培は雨風、そして雪を避けるためにガラス張りの小屋ですると温度調節も出来て良い。
そうポッソに教えられ、彼に紹介された苺農村で実物を見て同じような物を建ててみた。
ガラスは錬金魔法で砂や珪砂、石灰から作ったもの。それを木枠に嵌め、組み立てただけのガラスハウスだ。
「しかし苺がこんなに高く売れるとはなぁ」
「そこはポッソの父上に感謝せねばならないでしょうね。持つべきものは友――の親族」
「はは。お前は大神殿で良い友人を持てたな」
「はい!」
改良に改良を重ね、結局ひと月掛けてようやく甘くて粒の整った苺が完成した。
家族や領民、大神殿のフィリアにも味見をして貰い、誰もが笑顔になった苺だ。
それをポッソの家に持って行き食べてもらうと、これは絶対高く売れると太鼓判。
直ぐに売買契約を結び、彼らに販売をお願いすると――
「最初の一か月はまったく売れなかったが、お前が大神殿に苺を持って行ってからというもの、突然売れるようになったな」
「大神殿に来る貴族や富豪たちに食べ貰って、宣伝をお願いしたんですよ。もちろんフィリアにその根回しは頼みましたが」
僕が大神殿を出るときも、司祭たちには随分と引き留められた。
神殿に務めていれば、神官から司祭、高司祭と出世出来るぞって。上流階級の裕福な暮らしぶりが待っているとも。
だがそんな暮らしに興味はない。全てはスローライフの為なのだ。
そんな中、以外にも僕を理解してくれたのは最高司祭の老人で。
やはり彼も不自由な暮らしに思うところがあったのだろう。
――外の世界で見識を深めるのも良い事です。
そう、優しくもどこか憂いのある笑みで送りだしてくれたものだ。
今では僕がたまに賄賂として送る苺を、喜んで召し上がってくれて、神殿に訪れる金持ちへと宣伝までしてくれる。
神に仕えると、良い事もあるものだ。
苺栽培での利益は、当面は領地の整備、開発に充てられるだろう。
村が潤ったことで、流民が少なからずやって来るようになった。
働く意思のある者は領民として受け入れ、住むための住居を与えている。
今ではその住居が無くなってしまい、新しく建てるための資材が必要な程になっていた。
と言っても、元々十数軒の空き家しかなく、こうなることは必然だったので想定内の出費だ。
この一年で行ったのは、何も苺栽培だけではない。
領民は百数十人から倍以上に増え、田畑の拡張、新しい村の建設、土地の整備などなど。
更に比較的乾いた土地柄なのは、川が無いからであって。
だが調べた結果、地下深くを流れる水脈を見つけた。
近くの山脈から流れてきているようで、枯渇する地下水脈ではない。
そこに穴を空け、水を地上まで噴き出させて湖が誕生。更に溝を掘って人工的な川を作り上げた。
全部魔法で行ったことだが、どこに穴を空け、どう川を流すか考えるのに数日掛かったものだ。
おかげで領内の土地は以前よりも随分肥え、作物の収穫量も更にぐんと伸びた。
お金の面で潤うのはもう暫く先になるだろう。けれど後は兄上に任せてもいい頃合いだ。
もちろん時々土壌の様子を見る必要はあるだろうけど。
「兄上、僕はそろそろ旅に出ようと思います」
そう伝えるとアルディンは驚く様子もなく、優しく、けれど寂しそうに微笑んだ。
「ルインちゃあぁぁん。また行っちゃうのぉぉ?」
旅に出る。そう告げると母上はまた泣いた。
こうして僕の為に泣いてくれる人が居る人生というのも嬉しいものだ。
だからこそ、必ず帰って来ようと思う訳で。
「母上。魔法のおかげでいつでもどこからでも帰って来れます。ただ僕はこの世界の様々な物を見て回りたい。だから毎日とはいきませんが、それでも必ず帰ってきます」
「本当に? 本当に帰って来てくれるの?」
「はい。ここが僕の家ですから」
そう言って必殺天使の微笑み。
だがこの必殺技、最近村のご老人たちには微妙になって来たようなのだ。
やはり十六歳――この秋で十七歳という年齢では、天使と言うには限界か。
ただ女性相手には絶大な効果を発揮するが、その後、背後から付け狙われたりするので控えてはいる。
「では行ってまいります。帰る時にはお土産を持ってきますので」
「そんなのいいのよ。ルインちゃんが無事に戻って来てくれさえすれば」
「父さんはお土産を期待しているぞ。あちこち世界を旅して、美味しい物を見つけて来てくれ」
「そのつもりです。出来ればここで栽培できるものを探したいですね」
旅の目的は何も美味しい物を食べる為だけではない。
今でも目を閉じれば思い出す。薄暗く、冷たい石造りの玉座の間。
それ以外の景色を見たいという、魔王だった頃の願望。
それを叶えるためでもあり、スローライフに備えた計画でもある。
美味しい物……それが作物であれば種を持ち帰り、ぜひともアルファート領でも栽培したい。
家畜であったなら、やはりアルファート領でも育てたい。
そうやって各地の美味い物を集め、栽培、育て、自給自足を行う。
あぁ、僕の考えた最強のスローライフが、どんどん進化していく。
思い描く未来図が素晴らしくて震えそう。
「おいルイン、大丈夫か?」
「ルインちゃん? 気分が悪いなら、旅はまた今度にしましょう?」
「父さん母さん大丈夫。ルインはひとりの世界に入って、楽しい妄想をしているだけだから」
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