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42元魔王は慈愛(自愛)に満ちる。

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「ふぅん。旅に出るんだ。で、どこ行くの?」
「どこでもいい。美味いものが食せる場所なら」

 美味しい物を食べたい。それはまごうことなき事実だ。
 だがただ食べ歩くだけではない。
 アルファート領での生産が可能な物があれば持ち帰る。
 
「ふぅん。故郷の事、しっかり考えてるんだね」
「もちろんだとも。将来はあの地でスローライフを送る予定だからな」
「あー……そういうことね。ところでさ、ルイン――」

 食事を終え、冒険者ギルドの受付カウンターがある方へとやって来る。
 すると突然、僕らの前方を数人の男たちが塞いだ。

「ラフィ。その男は誰だ?」
「俺たちの誘いを無下にして、そんな優男とパーティーを組むってのか!?」
「嫌なタイミングで出てくるなぁ、もう」

 優男……誰のことだ?
 ラフィは心底嫌そうな顔を男たちへと向けると、そのまま僕の手を引いて歩きだした。
 が、男たちも黙って通しはしない。
 その上、僕たちを囲む男の数が増えた!

「ちょーっと待った。ラフィに声を掛けていたのは、俺たちだって同じだ」
「いやいや、先に誘ったのは俺たち『暁の旅人団』だぜ」
「違う! 我ら『蒼穹の騎士団』だ!」

 どこからどう見ても騎士には見えない男たちが、騎士団を名乗ってもいいものだろうか。
 そんな疑問を浮かべながら、ラフィがこの冒険者ギルドで人気絶頂だということがわかった。

 確かに回復魔法が使えて、前衛としても戦える存在は希少であろう。
 魔王だった頃の僕を倒しに来た勇者一行でも、武器を手に戦う聖女などいなかった。
 聖女不在の時もあったが、やはり大抵は後ろで支援、もしくは神聖魔法による攻撃だったな。

「ラフィはどこのパーティーにも属していないのか?」
「ん……まぁ、今はソロだね。時々野良パーティーを組むこともあるけどさ」

 だがその時は女性ばかりのパーティーしか選ばないと言う。
 何故か――

 辺りではラフィを先に誘ったのは自分たちだと、殴り合うが始まっている。

「あーなるからだよ」
「殴り合いが始まるのか?」
「そ。何度か男の混じったパーティーにも参加したんだけどさ、すーぐ喧嘩が始まるんだよ」

 誰がラフィの隣を歩くか。誰がラフィを守るか。
 そんなことで喧嘩になるという。

「アタイは剣士なんだよ? 誰かに守られたいんじゃなくって、誰かを守りたいんだよ」
「ほぉ。剣士の鑑だな」
「でしょ? でさ、ルイン。その……アタイとパーティー組まない?」
「僕と?」

 喧騒の中、ラフィは頬を染め、上目使いでそう言う。

「問題ない。組んでもいいよ」

 旅は道ずれだと誰かが言った。
 この一年半であちこち渡り歩いたであろうラフィは、旅の先輩。心強いではないか。

 僕が右手を差し出し、その手をラフィが驚いたように、同時に照れ臭そうに握り返す。
 その背後で殴り合いを続けていた男たちの動きはピタリと止まった。

「いやいや、待てよお前!」
「後から出てきて、我らのアイドル・ラフィちゃんを攫って行く気か!?」

 攫うなどと人聞きが悪い。しかしこの者たち……。
 顔を腫らし、鼻からは血を垂れ流す一行。
 聖職者として放ってはおけないな。

「"善き者を癒し邪悪を退ける白き聖域《サンクチュアリ》"」

 ラフィと握手を交わしていない方の手を掲げると、冒険者ギルド全体を魔法陣が包み込む。
 
「ぐあっ」
「な、なんだこの温かな光は!?」
「傷が……傷が全部消えていく!?」
「お、俺の指が――半年前に切り落としちまった指が生えて来た!?」

 これでよし。
 喧嘩両成敗。みな仲良くしよう!

「こ、こんな規模の回復魔法、見たことねえ」
「あ、あんた……よかったら、俺たちのパーティーに入らないか?」
「んん?」

 ひとりの男のそんな言葉が皮切りとなり、次々と僕をパーティーに誘おうとする声が上がった。

「いいや俺たちのパーティーだ!」
「こっちが先に声を掛けたんだぞっ」
「あ、あんた。よく見たら綺麗だな……」
「おいっ。汚される前に、俺たちのパーティー『漆黒の翼』に入らないか?」
「は? 喧嘩売ってんのか!?」
「あぁ? てめーらこそ、真っ先に声を掛けたのは俺だぞ!」
「関係あるかクソがぁっ」

 そして再び始まる殴り合いの喧嘩。

「ちょ、ちょっと。アタイがルインを誘ったのに、なんでこうなってんの!?」
「まったくだ……この僕が……この魔王ルディ――この僕が癒してやったというのに、何故また傷を負おうとするのだ! 地獄に落とすぞっ」

 せっかく癒してやったのにすぐに彼らは殴り合い、お互い傷つけあっている。
 それが悔しい。許せない。
 そんな気持ちが駄々洩れしてしまった。

 すると突然、彼らの動きがピタリと止まり、小刻みに震え出した。
 いかんいかん。
 直ぐに感情を押し殺し、深呼吸をする。
 駄々洩れになっていたマイナス感情も収まり、僕は平静を装う。
 にっこり笑みを浮かべ「どうしたのかな?」と視線を送った。

「すすすすすすすすんましたっ」
「いや、もうしません。絶対しません」
「ももももも、もう、いい、行きますねっ」
「お、俺らもっ」
「お邪魔しましたっ」

 ぞろぞろと、男たちは冒険者ギルドを出て行った。

「解決した?」

 隣のラフィを見ると、彼女は首を左右に振っていた。
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