恋愛小説の悪役令嬢に転生しました!~借金のために皇子と婚約したけど、返済目処が立ったので婚約破棄されてさしあげます~

夢・風魔

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6:お前はヒロインよりジュースかよ!

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「もう、ナッシュ卿もお座りなさいってぇ」
「いいえ。自分はお嬢様の護衛で付き添っていますので、今は勤務中です」
「生真面目ねぇ」

 そこそこイケメンのナッシュは、カフェに来ている若いお嬢様方の注目の的になっている。
 しかも騎士のいで立ちをしているし、目立つ目立つ。
 まぁ泥棒除けで同行して貰っているから、一目で騎士だと分かるいつもの恰好で来て貰ったんだけど。
 カフェに連れてくるにはちょーっと不釣り合いだったかなぁ。

「ナッシュ卿。あなたは私の護衛なんですから、暑さで倒れられたら困ります」
「この程度の暑さ、どうということはありません」
「うるさい、命令よ。ここに座りなさい」

 と、私の横で空席になっている椅子をパンパンと叩いた。

「ナッシュ様。お嬢様は言い出したら絶対に退きませんから、諦めてください」

 ローラの援護射撃に折れて、ナッシュはふかーいため息を吐いてから椅子に座った。
 そんな様子を、エリーシャは目を丸くして見ている。
 こちらはお構いなしに店員を呼んで、氷入りのジュースを四つ注文した。
 氷入ってないジュースの、十倍の価格よ……氷ビジネスすげぇ。

「お嬢様、自分は──」
「お嬢様命令よ。飲みなさいナッシュ」
「くっ」
「ナッシュ様、諦めましょう」

 ローラもにっこり笑う。それから、

「ナッシュ様が飲んでくださらないと、私も飲めないじゃないですか」

 と力説した。
 身分で言えば、騎士のナッシュよりメイドのローラの方がずっと下。
 だからナッシュが飲まなきゃローラが飲むわけにもいかない。
 自分が飲みたいからナッシュにも飲め。ローラはそう言っている。

 再びナッシュはふかーいため息を吐く。

「あっ、あっ、あの、わ、私はいりませ──」
「どこのご令嬢かは存じ上げませんが、ご令嬢がお飲みになられないのなら自分も飲む訳にはいきません」

 おっと、ナッシュ卿。ローラの作戦を利用する気ね。

「ナッシュ様が飲まないのなら、私も飲めませんわね」

 ここでローラが哀愁漂う視線で、今まさに運ばれて来たジュースを見つめた。
 で、私は構わずストローでジュースをかき混ぜ、一口飲む。

「んん~っ。冷たくって美味しい。はぁ、みんなも早く飲めばいいのにぃ。生き返るわよぉ」

 美味しいアピールをしてエリーシャをちらりと見る。

「ぁ……」

 グラスに手を伸ばそうとしたけど、引っ込めてしまった。
 飲みたいっていうのはあるんだろうけど、お金なんか気にしなくていいのに。
 いや高級なジュースだし、私も無駄遣いしちゃいけない立場だけどさぁ。

 あ……そうか。アレを気にしているのね。
 確か最初の頃に義母や姉の虐めの理由が、それだったもんね。

 グラスに刺してあるストローを引き抜き、ぐわしっと掴むと一気飲みする。

「お嬢様、またそんな……はしたないですよ」
「ぷはぁーっ。だって喉乾いてたんですもの。ちみちみ飲んでたら、喉を潤せないわ。ね、あなたもそう思うでしょ?」

 エリーシャに視線を送ってから、店員さんにジュースをもう一杯頼んだ。

「さぁ飲んで。なんだったら私みたいに一気飲みしてもいいのよ?」

 そう言うとエリーシャは頬を赤らめ、それから首を振ってそっとストローに口を付けた。

「はぁ、冷たい。冷たくて美味しい」
「でしょ? さ、ナッシュ卿。隣でローラが干からびてるから、早く飲んであげて」
「は、はいっ」

 ナッシュ卿は流石にストローなんて使ったことがないようで、一気に飲もうとして──咽た。
 可愛い奴。いや、二十代半ばを過ぎてるから一〇歳ぐらい年上なんだけどさ。
 咽てるナッシュ卿を無視して、ローラは涼しい顔をしてジュースを飲んでいた。
 かわいそうなナッシュ卿。

「もう、しようのない方ですねぇ」

 ナッシュ卿の背中をトントン叩いて落ち着かせてやる。

「す、すみません」
「殿方はストローではなく、直飲みの方がいいわよ」
「そ、そうさせていただきます」

 ようやくナッシュ卿が落ち着き、二杯目のジュースが運ばれてきたところで──

「ぷっ。ふふ、ふふふふふふ」

 エリーシャが、原作に書かれた通りの笑顔を零す。
 お花畑に舞い降りた天使のような笑みを。

 うおぉっ、眩しっ!
 さすがヒロインパワー。サングラスでも欲しいわ。
 こーんな笑顔を見せられたら、きっと男キャラはイチコロよねぇ。
 ナッシュ卿の目がハートになってたりしてぇ──おや?

 ヒロインの笑顔パワーを見たのに、ジュース飲んでグラス見つめてる。
 あ、顔が緩んだ。
 そんでまたジュース飲んだ。

 お前はヒロインよりジュースかよ!
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