【完結】死にたがり少女は過保護なヤクザの若頭に全肯定される~勘違い男の「光の暴力」は強面旦那様が排除します~

伊東園

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第3話 鳴

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(数日後)
新宿。ネオンが輝く夜のホテル街。そこに彼女は存在した。

「……おにーさん……いっぱい可愛がってくださいね……」
「うん……もちろんだよ鳴(なる)ちゃん……」

 ◇

「……は?」

俺は野球部の打ち上げが終わって帰っていたところだった。あまりいい気はしないけれど、ここから帰るのが一番早い。でもその視線の先に、ありえない光景が広がっていた。

草臥れたスーツ姿で腹が出て禿げたおっさん。そのおっさんの腕に手を回し、ぎゅっとその腕を抱きしめて甘えたように男を上目遣いで見つめているあの子。その細い腰に、厭らしい手つきで添えられた脂ぎったおっさんの手。

(……え?……日向?……なんだあのおっさん…)

金の為?でも日向がそんなことするのか?でも金の為でも無けりゃ何の為にあんなことしてんだ?

「なんでもいい……とにかくダメだ!」

俺は纏まらない思考を掻き捨て、一直線に駆け出した。ホテルの自動ドアの方へと歩いていく2人の前へ立ちはだかる。そして日向が男の腕へと回しているその手を引き剥がすようにして日向の手首を掴んだ。

「行くぞ!」

そのままここから離れるように早足で歩き出す。

「はぁっ…!?ちょっ…!離せっ…!」 

離せ?離すわけねぇだろ!離したらまたあそこに戻るんだろ?そんなのだめに決まってんだろ!

「やだね!離さねぇよ!」

そう言うと俺は、振りほどこうとする日向の手首を絶対に離さないという意志を込めて握り直した。

「はぁっ…!?ふざけんなっ…!」

 ◇

通りから離れた路地。ここにはもうネオンの光も紫煙の香りも届かない。俺はここまで日向を引っ張ってきて、ようやく手を離した。

「はぁっ……お前何してんだよ!危ねぇだろあんなの!」

俺は日向のこと見据えてそう言った……つもりだった。目の前には日向の姿はもう無かった。代わりに甘えたような猫撫で声が俺の鼓膜を震わせた。

「……もしもし?今急に暇になっちゃって……僕すっごい寂しいの……会いたいな……」

「……は?」

声が聞こえた方を見る。そこにはスマホを耳にあてて話しながら、足早に歩みを進める日向の姿があった。

(……なんだこいつ……せっかくさっき助けたばっかなのに……何やってんだよ……)

「っ……ふざけんな!」

俺は一気に距離を詰めると、日向の前に立って行く手を塞ぐように腕を広げた。

「お前なんなんだよ!さっきおっさんと歩いてたの助けたらもう次の男かよ!誰でもいいんなら俺にしろよ!」

俺は思っていることをそのまま口にした。あんなおっさんなんかより俺の方が絶対守ってやるし愛してやる。 でも日向は俺の姿を見ることも無く電話を続ける。

「……なんか今変な人につけられてて……怖いよぉ……早く来てぇ……うん……路地のとこ……近い?……通話繋いだままで……うん……」
「……ぁ……見えたかも……ん!」

「あっ!おい!」

日向が急に駆け出したかと思うと、また視線の先に信じられない光景が広がっていた。

「うぅ……怖かったよぉ……」
「……おーよしよし……怖かったなー鳴ー……俺が来てやったからもう大丈夫だぞー」

「……は?」

日向が男に縋り付くように抱きついて、男の胸元に顔を埋める。男は日向の頭を撫でながら腰に手を添えた。男の手つきは、安心させようとする声とは裏腹にどこか下卑た色を含んでいた。その様子を見て、俺の中で何かがプツリと音を立てて切れた。

「ふざけんじゃねぇ! 」

2人の方へ一気に飛び出す。そして男の胸に抱かれている日向を見据えて叫んだ。

「おい!そいつ絶対お前のことなんか見てねえよ!身体にしか興味ねぇって!」

日向は俺の声など雑音だと言わんばかりに、男の胸に更に深々と顔を埋める。

「は?なんだこいつ……失礼だな……そんなこと思ってねぇよ……鳴……行こうぜ」

「……行かせるかよ!」

日向を抱いたまま歩き出そうとする男の肩を掴み、ギリギリと力を込める。すると男が苦悶の声を上げて俺の方を睨んできた。

「っ…!痛ってぇっ…なんなんだよっ……警察呼ぶぞ!」
「……警察か……呼ばれて都合悪いのはそっちじゃないのか?どう説明するんだ?」
「……ちっ……あーもうやってらんねぇよ!もういいよ!そんなにヤりてぇならお前にやる!勝手にヤッとけ!じゃあな!」

俺の言葉に図星を突かれたのか、それともこの状況に嫌気が刺したのか。男は舌打ちをすると胸に抱いていた日向の身体を力任せに俺の方へとドンッと押し出して走り去っていった。
俺は押し出されて倒れそうになった日向を、ギュッと抱きしめた。

「……ほらな……あんなやつお前のことなんか思ってねぇんだよ……なぁ……俺ならお前のこと……絶対守ってやるぜ……俺にしろよ……お前が自分を粗末にしてるとこ見るの……辛えよ」

「……何様だよ……こんな尻軽メンヘラ女は簡単に落とせるってか?俺の事バカにすんのも大概にしろ……離せ……」

その声はどこかドスが効いていて、日向の見た目からは想像もつかないくらいの威圧感があった。でもここで離すなんて有り得ねぇ。俺は寧ろ絶対離さないとばかりに、更に強く抱き締めた。

「離さねぇよ!そんなに寂しいなら俺と飯行こうぜ!奢ってやる!行くぞ!」
「はぁっ…!?ちょっ……ふざけんな!離せ!」
「だから離さねぇって!ほら行くぞ!」

 ◇

俺は暴れる日向を抱きしめたままファミレスまで連行して店に入った。

「いらっしゃいませ………2名様で……よろしい……でしょうか?」
「はい!お願いします!」「離せっ!カス!ゴミ!」
「おい暴れんなって!すいません!こいつなんか気が動転してて!」
「ぁ……はい……2名様ご来店でーす」
「……ちっ……もういい……めんどくせぇ……おい……せめて喫煙席にしろカス」
「はぁ!?お前タバコ吸うのかよ!?身体に悪いだろ!今日は禁止だ!すいません禁煙席で大丈夫です!」
「ぁ……はい……禁煙席2名様でーす」
「はぁっ!?おいカス!ふざけんな!死ね!」

 ◇

「お前逃げそうだからこっちな」

俺は日向をソファの奥に座らせて、その横に座った。こうでもしないとまた違う男のところとか行きそうだしな。

「……死ね……死ね……タバコ……ニコチン……死ね……カス……ゴミ……」
「あーもう分かったって……でも吸わせてやんねー諦めろ!」
「ほら何食う?なんでも頼んでいいぞ!」
「……ちっ」
「あーおい!舌打ちは酷いだろ!?舌打ちは!」
「……店員呼べ」

お?いい加減観念したのか?さっきまでブツブツ念仏唱えてやがったけど飯食えるなら大丈夫だろ!

「おう!すいませーん!」
「はい ご注文お伺いいたします」
「俺はメンチカツ定食のご飯大盛りで!」

俺は日向が何を頼むのかワクワクしながら聞いてた。なんかかっけぇやつか?それとも意外と可愛いやつなのか?

「……オムライスのコーンとチーズトッピングとマヨコーンピザのチーズとコーン増量とコーンスープとチーズインハンバーグのライス大盛りとボロネーゼとバターコーンとカルボナーラとプリンとガトーショコラの生クリーム無しで」

「……は?」

オムライス!かわいい!とかそんなこと考えてる間に有り得ねぇ量注文されてんだけど!?

「……ぁ……えっと……どなたか合流されるんですか?」
「いや別にしませんけど」
「……ぁ……そう……ですか……わかりました」
「ではご注文繰り返します メンチカツ定食のご飯大盛り オムライスのコーンとチーズトッピング マヨコーンピザのチーズとコーン増量 コーンスープ チーズインハンバーグのライス大盛り ボロネーゼ バターコーン カルボナーラ プリン ガトーショコラの生クリーム抜き 以上で宜しかったでしょうか?」
「はい大丈夫でーす」
「ありがとうございます……では失礼します」
「……ぁー……ニコチン……ニコチン……ニコチン……死ね……死ね……死ね……」
「お前あんなに食えんのかよ!?残したら罰金すっからな!てかそのコーンへの執着はなんだ!?」

 ◇

「失礼します メンチカツ定食のご飯大盛り オムライスのコーンとチーズトッピング マヨコーンピザのチーズとコーン増量 コーンスープ チーズインハンバーグのライス大盛り ボロネーゼ バターコーン カルボナーラ プリン ガトーショコラの生クリーム抜きになります 以上で宜しかったでしょうか?」
「はい大丈夫ですー」
「ありがとうございます では伝票こちらに置いておきます 失礼致します」

机の上にはパンパンに皿が置かれてる。パーティーでも始められそうなくらいだ。

「いただきまーす!ん……んん……ん……おいお前ほんとにそれ食えんのか?食えなかったら罰金だかんなー」
「……いただきます」

日向がそう言ってスプーンを持ってオムライスを掬い上げる。でもそのスプーンの上にはその小さい口に入るのか疑問に思うぐらい大きな山が形成されてた。

「……ん……んん……ん……ん……んん……」

さっきまでブツブツ念仏唱えてた姿はどこへやら。日向は飯を食い出した途端別の生き物みたいになった。山ほどあった食い物がどんどん日向の小さい口に吸い込まれていく。

「はぁっ!?マジかよお前っ……ぶっ……ははっ!その細え身体のどこにそんな入んだよ!はぁ……ほんとおもしれぇわ……もう無くなりそうじゃねぇかよ……マジですげえな……俺でもそんな食えねぇわ」

 ◇

「……ごちそうさまでした」
「いやー……ほんとすげぇなお前!あの量一人で食うとか……恐れ入ったわ」

「お会計合計で~円になります」

うおっ!?想像してた以上にやべぇ金額!でもこいつの面白ぇ一面が見れたんだから安いもんだ!俺はスマートに金を支払うと日向を連れて店を出た。

「ご利用ありがとうございました」
「よし家まで送ってやる!このまま帰してまた男のとこ行かれちゃ意味ねえからな!」
「はぁ……こっち……」

 ◇

歩いていくと、街の喧騒は静かな住宅街へと変わっていった。そしてついに日向の歩みが止まった。

「……ここ」

住宅街の中、小さく佇むマンション。4階建てくらいか?1階が薬局になっててその横に押し扉がある。その扉の先にエレベーターが見えた。
おいおいオートロック無しかよ。誰でも入り放題じゃねぇか。でもそんなこと掻き消えるくらい日向の家ってだけでその小さなマンションが光り輝いて見えた。

「ここが日向ん家か!1階が薬局とか便利だな!」
「……ついたんだから帰れよ」
「お前が部屋に入るとこまで見ててやる!」
「ちっ……うざ……」

そう言って日向は薬局の横の押し扉を押して中に入ってエレベーターで上へ上がっていった。

2階の1番左端か……てかこのマンションはほんとにセキュリティもクソもねぇな!外から廊下も完全に丸見えじゃねぇかよ!こんなとこであんな魅力溢れる日向が住んでて大丈夫なのかよ!?変なやつに襲われたりしねぇのか!?心配で夜しか眠れなさそうだぞ!!

……ガチャッ

よし!ちゃんと部屋入ったな!これで安心だ!俺はその部屋に電気がつくのを見届けて住宅街を後にした。

 ◇

「……はぁ」

やっと帰って来れた。僕がどれだけ疲れてようが部屋の中はいつもと変わらない。

玄関に入ると、すぐ目の前に広がるリビング。真ん中にある大きい机と、向かいあわせに置かれたメッシュ素材の二脚の椅子。リビングの左側には台所と洗濯機と冷蔵庫。玄関のすぐ右隣にはトイレの扉。そして、炊飯器とレンジとトースターが縦に並んで置かれてる棚。

その家電たちは、この狭い空間に対して割といい値段がするものばかりだ。それは大学に入学したばかりの頃、お母さんと一緒に住んでた名残。今はお母さんは実家に帰ったから、一人暮らしだけどね。

その棚の横にある扉を開けると、風呂と洗面所が一緒になってる浴室がある。ユニットバスじゃなくてちゃんと洗い場があるのが助かる。まぁ浴槽は足伸ばせないし、風呂入った後は床濡れちゃうから洗面所は使えなくなるし、脱衣所も無いからリビングで裸になんないとダメなんだけどさ。

僕は靴を脱ぎ、リビングの奥の襖を開ける。6畳の和室。左上の角に置かれたテレビとゲーム機。襖のすぐ前にある、万年敷きっぱなしの布団。その横に置かれた、ずっと開いたまんまの折りたたみ机。そして奥の窓の外にあるベランダ。 

一人で生きるには十分で、でも一人でいるには広すぎる、僕の城。

僕はドサリと布団の上に倒れ込んだ。そして、服の裾を掴んで胸が見えるようにたくしあげる。別にその行動に深い意味なんて無い。ただ誰でもいいからこの瞬間に僕の存在を認めて欲しいだけだ。

慣れた手つきでスマホを取りだし、カメラアプリを起動する。

……パシャッ

……ポチポチ

鳴 @Naru_rin_ri_n_ 
かまって 

……ポチッ
投稿が完了しました 

キンッ……ジジッ…

ジッポライター特有の金属の音と共に火が灯る。

「……ん………………ふぅ………」

紫煙を吐き出し、天井を見上げる。埋まらない孤独感と説明できない黒くてぐちゃぐちゃした感情。そして僕の口からその感情の一部が自然と零れ落ちた。

「……セックス……してぇ……」
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