平行線

ライ子

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第一章

変化

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「えぇっ⁈梨花ちゃんと別れた⁈」
「おい。声がデカイって。」
冬休みが終わって、最初の講義の後のことだった。虎徹から、そんな報告があった。
「あの短期間に、何があったの?ケンカしただけじゃないの?」
吉行は、まだ信じられないという顔をしている。
「地元に帰ってさ、梨花の中学の同窓会があったんだ。そこで、昔好きだったやつと再会して、燃えちゃったみたいよ。」
虎徹は、他人事のように言う。精一杯の強がりなのか、もう吹っ切れているのか。
「こてっちゃん、フラれたの?」
吉行が、気の毒そうに聞くと、少しムッとした表情で、
「そう。でも、大学とかサークルで顔合わすし、気まずくなりたくなかったから、話し合って、円満に別れたよ。」
と、説明した。
「そっか。独り身同士、仲良くしよう。」
吉行は、握手を求めたが、虎徹は、それに応じず、
「吉行は、佐藤先輩と仲良くやってんじゃん。」
と、拗ねたように言う。
「まぁ、でも、友達止まりだよ。」
「まだ告ってないの?」
「言わない。」
「なんで?」
「どう考えても、迷惑でしょ?事故物件だよ。俺。」
「そんなことないでしょ。現にモテてるし。」
「借金あるし、通院に金かかるし、いろいろ出来ないことあるし…。」
「金があって、楽なことだけが幸せってわけでもないでしょ。」
「そうなのかな。」
「言うだけ言ってみれば?今の関係とは、変わっちゃうかもしれないけど、ずっとこのままってわけにもいかないでしょ?」
確かに、今の関係がずっと続くとは、思っていない。いつか杏奈が、DVで受けた傷が癒て、誰かと付き合うことになった時、自分の気持ちを伝えないまま、諦められるのか。それだと、神崎と杏奈が付き合い始めた頃に、辛かったことをまた繰り返すだけだ。きっと、自分の気持ちを伝えて、ダメだった方が諦められるのではないだろうか。杏奈だって、好きでもないやつに、周りをウロウロされるのは、うっとうしいだろう。
「こてっちゃん、俺、杏奈に言ってみようかな。」
「おっ。やっとその気になったか。」
「今度の週末、引っ越しの手伝いするんだ。その時に…。」
「頑張れよ。ダメだったら、バーで一緒にやけ酒してやるよ。」
虎徹は、ニヤニヤしている。
「あの時は、悪かったよ。恥ずかしいから。もう、言うなって。」
「まぁ、うまくいったら、祝杯を上げよう。」

週末になり、軽トラックを借りて、早朝から杏奈のアパートへ向かった。大きな荷物は、冷蔵庫と洗濯機だけで、あとは、洋服ぐらいだった。TVや食器や家具類は、神崎が壊したから、処分して新しく購入する予定らしい。
「軽トラいらなかったかな?」
「ううん。たくさん積める方がいいよ。」
冷蔵庫と洗濯機を運ぶのに、虎徹を呼んでいた。
「ありがとう虎徹。助かる。」
「いえいえ。これだけ運んだら、バイトなんで行きますね。」
「こてっちゃん、さっそく冷蔵庫から。」
吉行と虎徹で、冷蔵庫と洗濯機を運んでいる間に、杏奈は、その他の細々とした物を軽トラの荷台に積んでいた。
「とりあえず、先に引っ越し先に行こう。」
荷物を運び終わると、虎徹は、バイトへ向かった。吉行に、頑張れよと、目で合図をしていた。
杏奈が新しく住むアパートは、吉行のアパートから近かった。
「畳がある。」
「そう。ベッド買わずに、布団敷こうと思って。」
「へぇ。キッチンがしっかりしてるね。」
荷物が少ないといっても、洋服や、雑貨等、それなりの量があった。バタバタと、運び込み、荷解きをしていたら、あっという間に1日が過ぎてしまった。
「せっかくの休みだったのに、1日潰しちゃって、ごめんね。」
「いいよ。俺の引っ越しの時だって、手伝ってもらったし。」
「でも、おかげで、だいたい終わったよ。ありがとう。」
「夕飯は、俺んちで鍋しよ。いつも鍋で悪いけど。」
「うん。そうする。吉行の所の荷物も持って帰らなきゃ。」
引っ越しが終わってしまえば、杏奈とは、もう一緒に寝起きでない。分かっていたけど、やっぱり寂しい。
鍋をつつきながら、杏奈の顔を見る。熱い白菜を、ふぅふぅ冷ましながら食べていた。そんなちょっとしたしぐさを見るだけでも、幸せな気持ちになった。あぁ、自分は、この人のことがすごく好きなんだと、実感する。

「今日は、ありがとう。」
「うん。なんとか終わってよかった。」
「じゃあ、帰るね。」
「荷物、持つよ。送って行く。」
「ありがとう。」
吉行は、杏奈が吉行の部屋で使っていた、衣類や日用品が入ったカバンを持った。
「すぐ近くだから、いつでも来てよ。」
「うん。でも吉行、いつもバイトでいないじゃん。」
杏奈が笑いながら言う。この笑顔がたまらなく可愛い。
杏奈の部屋に着いた。歩いて10分ぐらいだった。この距離がこれからは、遠く感じてしまうかもしれない。玄関の中に入った。
「あのさ。このカバン…。」
吉行は、手に持っていたカバンを見つめていた。
「カバンがどうしたの?」
「俺んち、置いてってよ。」
「え?」
「合鍵も、そのまま持ってて。」
今から言おうとしていることを、口に出したら、今の関係が崩れるかもしれない。でも、それでもいいから、杏奈が今よりに進むきっかけになればいい。
「俺、杏奈のことが好きだ。」
「吉行…。」
「ずっと…前から、好きだった。」
杏奈の顔を直視できない。
「俺とだと、いろいろできないことが多いから、杏奈に本当に好きな人ができるまで、一緒にいられないかな。」
「それって…。」
その時、吉行の携帯に着信があった。なかなか切れない。
「電話出たら?鳴ってるよ。」
「う…うん。」
母親からだった。初詣の時に、マスターに言われたが、結局、実家に連絡をしていなかった。
『はい。』
『あぁ。幸穂。お父さんが、大変なの。帰って来て。早く。』
電話の向こう側の母親は、ひどく取り乱していた。
『どうしたの?落ち着いて。』
『危篤なの。早く来なさい。』
危篤?吉行の頭の中を、聞き慣れない言葉がぐるぐる回る。
『何で?どういうこと?兄ちゃんは?』
『誉も、もうすぐ来る。幸穂も早く来なさい。総合病院分かる?早くね。』
そう言い終わると電話は切れた。
「どうしたの?」
杏奈が心配そうに、吉行を見つめる。
「親父が、危篤なんだって。」
「え⁈」
「早く帰って来いって。」
「早く行かなきゃ。私も行くよ。」
「大丈夫。俺、ひとりで行くよ。」
吉行は、杏奈の手をそっと両手で握った。今度は、杏奈の目を真っ直ぐに見る。
「さっきの返事は、またゆっくり聞かせて。」
「うん。気をつけて。」
吉行は、杏奈の部屋を後にした。
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