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クリフォードの未開封の記録
クリフォードの未開封の記録(序章)
しおりを挟む私の名前は、クリフォード・ブラッドベリ。
これは日記ではない。
記録だ。
この奇妙な空間に迷い込んで、どのくらい経つのだろうか。
私はかなり長い間、この場所から動けなくなっている。
円形の庭には、常に雪が積もっている。
しかし私は、ここで雪が降っているのを見た事が無い。
私がここに来た時には、既に雪が庭を覆い尽くしていた。
雪は常にパウダースノーの状態を保っている。
そして不思議な事に、掌に乗せても溶けない。
口に含んでも溶けず、まるで冷たい砂を舐めている様な感覚だ。
小屋には様々な物が有る。
食器、画材、柱時計、暖炉、そして大量の本。
この小屋には、屋根の上に奇妙な物体が設置されている。
まるでオルゴールのつまみの様な、巨大な金属製のオブジェだ。
更に奇妙な事に、このつまみは日に何度か回転する。
その度に小屋は大きく揺れ、そして何故か回転と同時に庭に生えている植物が急速に成長する。
今はその実を食し、何とか生き長らえている。
私は有り余る時間を持て余し、ひたすら読書に耽った。
それは983冊目の本に書かれていた。
本のタイトルは、『幻想のマグドル』。
マグドルとは、百科事典という意味に近い言葉らしいが、何語だかは分からない。
その中に、フェニックスという幻獣の項目が有った。
その本によると、フェニックスとはギリシャ神話の神獣で、火を纏った容姿から火の鳥とも呼ばれている。
最初に現れたのは西暦34年。
フェニックスは百年に一度、自ら香木を積み重ねて火を放ち、その中に飛び込んで焼死し、その灰の中から再び幼鳥となって現れるという。
つまり死と再生、輪廻の象徴なのだ。
そのフェニックスが、一日だけ性質が変わる日があるという。
それは幼鳥として再生した日。
その日だけはまだ火を纏っておらず、全身が雪の様に白いという。
その状態をスノーフェニックスと呼び、異次元間を飛び移り、それぞれの次元に様々な落とし物をしていく。
フェニックスが死ぬ前日、その死に場所には天使が出現するという。
今朝、この小屋の上に天使が現れた。
もしここでフェニックスが死に、再生したスノーフェニックスが現れるとしたら。
その背中に乗る事が出来れば、別の次元に移動出来るかもしれない。
私はその機会を待つ事にする。
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