クリフォード文庫

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クリフォードの未開封の記録

クリフォードの未開封の記録①

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私の名前は、クリフォード・ブラッドベリ。
改めて記すが、これは日記ではない。
記録だ。


日記は、始まりと終焉が在るが故に日記と成り得る。
だがこの日記には、始まりは在っても終焉は無い。
故に、記録である。

そもそも日付の存在しないこの世界に措いては、日記を書く事自体が不可能なのだ。
何故なら日記は、一年という周期が存在して初めて成り立つからだ。
365分の1日を書き記す行為と、その積み重ねが日記なのだから。
だが今日が何月何日なのか分からない以上、今日は今日でしかなく、明日は明日でしかない。
そしてその明日という概念も、365分の1日の累計で成り立っている。
つまり今日が365分の1ならば、明日は365分の2なのだ。
何故なら明日という未来は、絶対的に今日を引きずっているからだ。
だがこの世界では、分母は無限大だ。
今日を幾ら重ねても、永遠に区切りが付かないのだ。
だから概念としての明日は、この世界では永遠に辿り着けない幻想なのかも知れない。






何日前だったろうか、小屋の上に天使が現れた。
否、正確には、私のイメージする天使のようなものが現れたのだ。
頭の上に金色に光るリングが浮かび、ショートカットの金髪に水色のワンピースを着た子供。
子供と言っても身長はせいぜい50cm程度で、子供をデフォルメした様な感じ。
性別は分からないが、無垢で可愛らしい顔をしていた。

先にも書いたように、天使の出現はフェニックスの再生の儀式の予兆である可能性が高い。
そう都合良く確信した私は、フェニックスの出現を期待した。

天使は小屋の屋根の少し上の空中に浮かんでいた。
何時からそこに居たのか分からないが、何故か茫然とした表情のまま身動き一つせずに浮かんでいた。
最初は驚いたが、あまりにも動きが無いので何度か声を掛けてみた。
だが天使は無反応だった。
仕方無く小屋から椅子を運び出し、それに座ってずっと眺めていた。

やがて夕方になったが、天使は相変わらず浮かんでいた。
埒が空かないので、畑の作物を収穫していた時だった。
ボールがベニヤ板に当たった様な乾いた衝撃音が背後から響いた。
振り返って周囲を見渡すと、天使が小屋の屋根の上に落ちていた。
天使は屋根の傾斜に抵抗する事無く、そのままゴロゴロと転がって地面に積もった雪の上に落下した。
私は慌てて天使の下に駆け寄った。



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