クリフォード文庫

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クリフォードの未開封の記録

クリフォードの未開封の記録②

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天使は俯せの状態で雪に埋もれていた。
私は一瞬躊躇ったが、このままでは呼吸が出来ないと思い無我夢中で抱き起こした。
そして上着を脱いで雪の上に敷き、そこに仰向けに寝かせた。
天使は中空を茫然と見つめ、四肢は人形の様に脱力していた。
それは極度のショック状態とか瀕死というよりも、魂が抜けている様に見えた。

そんな状況ではあったが、私は天使の頭上に浮かんでいる金色のリングがとても気になった。
顔を近付けて間近で観察した。
それは正しく何の光源も持たない、自ら発光している光の輪だった。
息を吹きかけてみたが揺れる事も無く、恐る恐る指を伸ばしてみたが、何の触感も無く光をすり抜けただけだった。

突然、リングが消えた。
それが何となく天使の死を意味しているかのように思え、不安になって顔を覗き込んだ。
すると天使は静かに目を閉じ、ほぉ~と長く息を吐くとそのまま生気を失ってしまった。
私は戸惑い、焦った。
何度も天使の体を揺すり、声をかけた。
だが天使は無反応だった。
天使は死んでしまったのだ。
同時に、私に大きな孤独感と喪失感が襲ってきた。
長い間、私はこの場所で独りで過ごしてきた。
そこに漸く現れた者が、一言も言葉を交わす事も無く死んでしまったのだ。
私は誰も居なかった時よりも遥かに深い孤独を感じた。

兎に角天使をこのままにはしておけないと思い、敷いていた上着で包み込む様にして抱え、小屋の中に運んだ。
テーブルに有った収穫物を入れる籐編みの手籠の中身を全部出し、中に毛布を畳んで押し込め、そこに天使を寝かせた。
乱れた髪を整えようと前髪に手を伸ばすと、少しだけ額に触れた。
天使の体はとても冷たかった。
私は何故かそれがとても悲しく、無意味だとは思いながらも手籠ごと暖炉の前のロッキングチェアーの上に置いた。
その無垢で安らかな死に顔に、暖炉の焔が柔らかな影を揺らした。
私はその顔を見ながら泣いた。
泣きながら庭に出て野花を摘み、せめてもの弔いにと天使の亡骸の上に敷き詰めた。
そしてハーブティーを二杯淹れ、一杯を天使の傍らに置いた。
私は向かいのソファーに座ってハーブティーを飲み干すと、そのまま眠りに落ちてしまった。


翌朝、猛烈な明るさで目が覚めた。
室内に射し込んだ朝日が暖炉の火掻き棒に反射し、私の顔に当たっていたのだ。
柱時計を見ると、もう直ぐ午前6時になるところだった。



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