クリフォード文庫

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クリフォードの未開封の記録

クリフォードの未開封の記録⑧

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「あれは幻想のマグドルですよ」
「あれが愛読書なのかい?」
「えぇ、まぁ…」
「ふむ。あれには真実と嘘が入り混じってる。だから楽しむのは一向に構わないが、無闇に信じてはいけない」
「何故そんな事を知ってるんですか?」
「私も読んだからだよ。よく出来た本だが、凡そ真実とは懸け離れてる。尤も、人間が書いた物としては非常に優れてはいるがね」


彼はソファーの脇に在る柱時計を見ながら言った。


「この時計も相変わらずだな。尤も、時間の存在しないここでは、相変わらずも何も無いのだがね」
「時間の存在しない…」
「そんな事よりクリフォード、私が誰だか気になってるんだろう?」
「えぇ。あなたは、フェニックスなんですか?」
「フェニックスか。鳳凰、麒麟、ワイバーン、龍、フェニックス。人間には色んな名前を付けられたが、本当の名前は違う。私はクトゥグアだ」
「クトゥグア?」


非常に奇妙な名前だと思った。
所謂、英語圏の名詞ではない。
中東、或いはアジアか。


「君は知りたい事が沢山有るのだろう。だが今の君は混乱している。だから私が話すよ。何か質問が有ったら、遠慮無くしてくれ」
「はい」
「先ずはこの場所だ。君の居るこの小さな場所。ここは再生の島だ」
「再生の島?」
「そう。ここには死を超越したあらゆる存在が現れ、再生の儀式をする場所だ。私もその為に来た」
「死を超越した存在とは…何ですか?」
「特別な存在、そうとしか言いようが無いな」
「それは…神ですか」
「神ではない。もとより、この世界だけでなく、何処にも神など存在しない」
「神は居ない…」
「まぁそれは追々話そう。次にこの世界だ。君はパラレルワールドというのを知ってるかな?」
「知ってます。別の次元に同じ世界が幾つも存在するという説ですね」
「そうだ。一つの時間軸の中で、人間は常に選択を強いられている。朝起きた瞬間から、目覚まし時計を右手で止めるか左手で止めるか。コーヒーを飲むか紅茶を飲むか。選択した方に沿って現実社会でレールが敷かれ、選択されなかった方は枝分かれして別次元で存在する。更にその別次元でも枝分かれをしていくという、その無限に広がっていく世界をパラレルワールドと呼ぶ」
「はい」
「だが実際は、そんなものは存在しない。在るのは現実の世界だけだ。選択した世界以外は、ただの可能性でしかない」
「何故そう言い切れるのですか?」


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