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4話
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「こ、これは……アロン殿下。ようこそお出でいただきました……」
「ああ、堅苦しい挨拶は抜きにしようか、ヴァード。私がここに来た理由は大体分かるだろう?」
「え、ええ……そうですね……」
応接室に通された私とアロン。それ以外にももしもの為の護衛はいるけれど、基本的に彼らは有事の際以外は動かない。ヴァード様はかなり焦っているようだった。私も同行しているので、アロンの用事が婚約破棄の件についてなのは明白だ。
ヴァード様はいきなりマズイ状況になっていると言えるだろうか。
「セシルが一緒だということは、彼女との婚約破棄についてでしょうか?」
「その通りだ、ヴァード。セシルから話は聞いたが、随分の好き勝手やっているらしいじゃないか」
「いや、それはその……セシルから何を聞いたのか分かりませんが……私は侯爵ですので。伯爵令嬢の彼女とは一緒になれないと思っただけのことでございます」
ヴァード様なりの言い訳だろうか。こんな言葉で切り抜けられるわけはないのだけれど。
「そんな言葉が通用すると思っているのか?」
「そうは言われましても……この婚約破棄は私とセシルの間でのことです。王子様が割って入るのは越権行為では?」
「……」
この場合はどうなるのだろうか? アロンは第三王子殿下とはいえ、国王陛下ではない。そこまでの権限を持っていないとヴァード様は言いたいのだろうけれど。
「越権行為と来たか。確かに俺は第三王子でしかない。父上のように権力を持っているわけではないからな」
「はい、その通りです。私は紛いなりにも侯爵という立場にあります。いくら王子殿下でも、そう簡単に踏み込めない領域ではありませんかな? それに私はセシルに対して暴力などは振るっていませんよ?」
ヴァード様がやや有利な状況かもしれない。でも、アロンは明らかにそう言われることを狙っていたようだ。彼の表情には笑みがこぼれているから。
「だが、婚約破棄をしておいて、慰謝料を払わないというのはどういうことだ? これは確実にマズいことだろう」
「うっ……! そ、それは……!」
ここで初めてアロンは切り札を出した。一気に形成逆転だ。
「俺を言い包められると思っていたようだが、随分とお粗末だな? 慰謝料を支払わない件はどうあがいても言い訳は出来ないしな」
「くっ……セシル、王子殿下に話したのか……?」
「はい、話しました」
「お前は……」
恨みがましい表情を見せるヴァード様。でも、そんなことはアロンには無意味だった。
「言っておくが、セシルやセシルの家族に復讐をした場合、王族は本格的に動くことになるぞ。そんなことは考えないことだな」
「ま、まさか……そんなことはしませんよ……ははは」
明らかにアロンに出鼻をくじかれた感じだ。ヴァード様は復讐を考えていたわね。本当になぜこんな人と付き合ったのかと思ってしまう。我ながら恥ずかしいわ……。
「ヴァード、お前は越権行為と先ほど言ったが……実はそうでもないんだぞ」
「えっ、どういうことですか……?」
「セシルは俺の妻になるべき人間だからさ」
「えっ?」
「えっ?」
なんだかアロンから、とんでもない言葉が出たような気がした。私がセシルの妻になるべき人物……?
「ど、どういうことでしょうか……セシルが王子殿下の妻……?」
「別に不思議な話ではないだろう? ヴァードはセシルに婚約破棄を言い渡したのだし、私が彼女に告白しても問題はないはずだ」
「そ、それは確かにそうですが……しかし……!」
ヴァード様も話の急展開について行けていない。私も同じ気持ちだけれど、アロンの気持ちは伝わって来た感じだ。
「セシル、俺と付き合ってくれないか? ヴァードと婚約破棄したのは、ある意味では運命的と言えるだろう。君のことをずっと愛していくと誓うからさ」
「アロン……」
「どうかな?」
これはアロンなりの告白の言葉なのだと思える。もちろん、現状をスムーズに進める為の言葉とも取れるけれど。どのみち、私の答えは1つだった。私が初めて好きになった相手……その人物から告白を受けているのだ。
「はい、幸せにしてくださいね」
「ああ、幸せにするよ」
私は彼の告白を受け入れた。ヴァード様は静かに崩れ落ちた……アロンがこの問題に関わっても問題ないと分かったからだろうか。
「ああ、堅苦しい挨拶は抜きにしようか、ヴァード。私がここに来た理由は大体分かるだろう?」
「え、ええ……そうですね……」
応接室に通された私とアロン。それ以外にももしもの為の護衛はいるけれど、基本的に彼らは有事の際以外は動かない。ヴァード様はかなり焦っているようだった。私も同行しているので、アロンの用事が婚約破棄の件についてなのは明白だ。
ヴァード様はいきなりマズイ状況になっていると言えるだろうか。
「セシルが一緒だということは、彼女との婚約破棄についてでしょうか?」
「その通りだ、ヴァード。セシルから話は聞いたが、随分の好き勝手やっているらしいじゃないか」
「いや、それはその……セシルから何を聞いたのか分かりませんが……私は侯爵ですので。伯爵令嬢の彼女とは一緒になれないと思っただけのことでございます」
ヴァード様なりの言い訳だろうか。こんな言葉で切り抜けられるわけはないのだけれど。
「そんな言葉が通用すると思っているのか?」
「そうは言われましても……この婚約破棄は私とセシルの間でのことです。王子様が割って入るのは越権行為では?」
「……」
この場合はどうなるのだろうか? アロンは第三王子殿下とはいえ、国王陛下ではない。そこまでの権限を持っていないとヴァード様は言いたいのだろうけれど。
「越権行為と来たか。確かに俺は第三王子でしかない。父上のように権力を持っているわけではないからな」
「はい、その通りです。私は紛いなりにも侯爵という立場にあります。いくら王子殿下でも、そう簡単に踏み込めない領域ではありませんかな? それに私はセシルに対して暴力などは振るっていませんよ?」
ヴァード様がやや有利な状況かもしれない。でも、アロンは明らかにそう言われることを狙っていたようだ。彼の表情には笑みがこぼれているから。
「だが、婚約破棄をしておいて、慰謝料を払わないというのはどういうことだ? これは確実にマズいことだろう」
「うっ……! そ、それは……!」
ここで初めてアロンは切り札を出した。一気に形成逆転だ。
「俺を言い包められると思っていたようだが、随分とお粗末だな? 慰謝料を支払わない件はどうあがいても言い訳は出来ないしな」
「くっ……セシル、王子殿下に話したのか……?」
「はい、話しました」
「お前は……」
恨みがましい表情を見せるヴァード様。でも、そんなことはアロンには無意味だった。
「言っておくが、セシルやセシルの家族に復讐をした場合、王族は本格的に動くことになるぞ。そんなことは考えないことだな」
「ま、まさか……そんなことはしませんよ……ははは」
明らかにアロンに出鼻をくじかれた感じだ。ヴァード様は復讐を考えていたわね。本当になぜこんな人と付き合ったのかと思ってしまう。我ながら恥ずかしいわ……。
「ヴァード、お前は越権行為と先ほど言ったが……実はそうでもないんだぞ」
「えっ、どういうことですか……?」
「セシルは俺の妻になるべき人間だからさ」
「えっ?」
「えっ?」
なんだかアロンから、とんでもない言葉が出たような気がした。私がセシルの妻になるべき人物……?
「ど、どういうことでしょうか……セシルが王子殿下の妻……?」
「別に不思議な話ではないだろう? ヴァードはセシルに婚約破棄を言い渡したのだし、私が彼女に告白しても問題はないはずだ」
「そ、それは確かにそうですが……しかし……!」
ヴァード様も話の急展開について行けていない。私も同じ気持ちだけれど、アロンの気持ちは伝わって来た感じだ。
「セシル、俺と付き合ってくれないか? ヴァードと婚約破棄したのは、ある意味では運命的と言えるだろう。君のことをずっと愛していくと誓うからさ」
「アロン……」
「どうかな?」
これはアロンなりの告白の言葉なのだと思える。もちろん、現状をスムーズに進める為の言葉とも取れるけれど。どのみち、私の答えは1つだった。私が初めて好きになった相手……その人物から告白を受けているのだ。
「はい、幸せにしてくださいね」
「ああ、幸せにするよ」
私は彼の告白を受け入れた。ヴァード様は静かに崩れ落ちた……アロンがこの問題に関わっても問題ないと分かったからだろうか。
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