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1話

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「どういうつもりだ、メリス。私の楽しみを奪うつもりか?」

「何を言っているんですか? ブルー様」


 私は婚約者のブルー・シルヴィア侯爵と話しをしていた。ブルー様はかなり怒っているようだけれど、その理由ははっきりしている。

「お前の妹のアニスを連れて来いと言ったはずだが?」

「命令でしたね、そういえば」

「ああ。それで、連れて来たのか?」

「屋敷に連れては来ましたが、アニスはブルー様にお会いしたくないと言っています。ですので、ブルー様のお部屋には連れて来れませんでした」

「何を馬鹿なことを……メリス、お前は何を言っているのだ?」


 話が見えて来ない……妹のアニスは現在、応接室に居るはずだ。その気になれば会えるのだけれど、危険を察知して会わせてはいない。アニスも怖がっていたしね。

「ブルー様。ブルー様は元々、私の婚約者のはずです。どういう理由でアニスと会いたいのですか?」

「なんだメリスよ。妬いているのか? 可愛いところもあるじゃないか」

「違いますけど……まあ、それでいいです」


 話を円滑に進める方を優先したい。そのためには私が嫉妬している方が都合が良かった。私の予想に間違いがなければ、ブルー様がアニスに会いたい理由は決して良いことではないはずだから。


「アニスを再度、この目で確認しようと思っているのだ。そして……私の愛人にしようと思う」

「やはりそんなことでしたか……はあ」


 呆れてしまう……婚約者の妹を愛人にしようなんて。いくら侯爵様でも許されないはずだ。それをこの人は権力を振りかざし行うつもりなのだ。間違いない。

「溜息を吐くとは失礼な奴だな。お前も同時に可愛がってやるから心配するな。姉妹同時のいただくというのは、なかなか興奮することでもあるしな」


 変態だこの方は……私も婚約するまでその性癖は知らなかったけれど。娼婦などを屋敷に呼んで楽しくやっているらしい。

「残念ですがブルー様。アニスも嫌がっているので連れて来ることは出来ません。諦めてください」

「何を言っている、メリス。私に逆らうつもりか? ん?」

「そういうわけではありませんが……」

「たかが伯爵令嬢程度が私に逆らったら、どういう目に遭うか知りたいのか?」

「……」

 やっぱり権力を振りかざしてきた……ブルー様はこういう人だ。婚約してから知ったのだけれど……このままでは妹が危険に晒される。すぐに帰した方がいいかもしれないわね。

「もういい、お前には頼まん。おい、アニスをすぐに連れて来るのだ。どうせ、応接室に居るのだろう?」

「はっ、畏まりました!」

 室内にいた執事の一人が早急に部屋を出て行った。

「ちょっと、何を考えているんですか……!?」

「決まっているだろう、メリス。お前が連れて来ないのであれば、部下が直々に連れて来るまでさ」

「そんな強引な……!」

「うるさい、ここは私の屋敷だ。全ての選択権はこの私にあるのだからな」

 ブルー様を侮っていたかもしれない。こんな強行手段に出るなんて……! アニスが危ないわ……! なんとかしないと……!
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