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11話 読書の話 その2
しおりを挟む「おい、カリファ」
「ラニッツ様は少し黙っていてくれませんか?」
「カリファ……お前」
ラニッツ様を前にして、カリファは黙って欲しいと言っていた。なにやら考え事をしているようだけれど、流石に今のはラニッツ様に対して失礼なのでは……? まあ、私には関係ないことだけれど。
「マルクス・ハントニウス……マルクス・ハントニウス……」
一人でマルクス・ハントニウスのことを連呼しているようだ。必死で思い出そうとしているのかしら? そんなことをしても意味はないと思うけれど。既に彼女が何をしたいのかは、分かってきたし……。
「カリファ嬢、少し良いかな?」
「な、なんですか……ゼラスト様? あの、もう少しで思い出すと思うので……!」
「いや、読んでいない本を思い出すのは無理だろう。わざわざ、私に合わせる必要などないぞ?」
「で、ですが……!」
「アジラ・トールの本について詳しい時点で、カリファ嬢の趣味が読書であることは紛れもないと分かるしな」
「ほ、本当ですか!? 嬉しいです……!」
「いやいや」
ゼラスト様なりの優しさだろうか? カリファの自尊心を傷つけないように配慮しているみたいだ。まあ、本を読んでいる数なんて競っても何の意味もないしね。私やゼラスト様だって、まだまだ読んでいない本の方が多いわけだし。国中にある全ての本を読破して、ようやく「本を読んでいる」と自慢しても良いのかもしれないわね。
一生掛かっても無理かもしれないけれど……新作だって出るのだし。
「でも驚きでした……ゼラスト様は相当に本を読まれているのですね!」
「いや、大して読んでいないさ。偶々、その分野では君が読んでいない本があったというだけで。他の分野ではカリファ嬢の方が読んでいる物もあるだろう」
「そうかもしれませんね! 読書はとても大事な趣味だと認識しています! これからも精進したいと思います!」
「ああ、暇だったらマルクスの本にも手を出して欲しい。人生観が変わるかもしれないからな」
「畏まりました!」
ゼラスト様はカリファの自信を上げた上で、さりげなくマルクス・ハントニウスの本を推奨していた。彼は100年以上を生きている現役の冒険者だ。その人が書いた作品は確かに人生観が変わる物が多かったように思う。今のカリファには必要な代物かもね。
「ああ、それと……カリファ嬢、これは1つの忠告なんだが」
「なんでしょうか? ゼラスト様」
「周りの人物が本をどれだけ読んでいるか分からない状況で、自分は本を読んでいると自慢はしない方が良いかもしれんぞ。相手の方がはるかに読んでいた場合、マウントを取られてしまうからな。それから、ラニッツ殿とは仲良くするのだぞ」
「あっ、それは……」
カリファは下を向いた。ゼラスト様からの見事な忠告だった……。
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