婚約破棄？ 公爵様が味方になってくれましたよ？ いいんですか？

1話

「マルーク様……一体、どういうことですか？　婚約破棄だなんて……」

「言葉の通りだ、マリナ。お前との婚約を破棄させてもらう。私は現在の女であるヴィネと付き合いたいからな」

「ヴィネ様と？　それは浮気ではないのですか？」

「そうだな、浮気と言えるかもしれないな」

　伯爵であるマルーク様は悪いことをしているという認識はないようだった。私が子爵令嬢でしかない為か、完全に見下して話しているようにも見受けられるけど。


「マリナ、私との婚約破棄をしてくれるな？　慰謝料などは払うから心配するな」

「そんなこと、納得できるはずがありません！　どうして急にこんなことを……！」


　婚約破棄をする側が慰謝料を支払うのは当然のことだ。マルーク様はそれを大きなことだと考えているようだけれど。いえ、慈悲に近いと思っているのかもしれないわね。


「何度も言っているだろう？　お前は子爵令嬢でしかない。お前との婚約を考えてしまったのは気の間違いだったのだ。私には伯爵令嬢であるヴィネこそ相応しいのだよ」

　マルーク様はまだ若くして伯爵になられたお方だ。こうして若い当主にはありがちなことなのかもしれないけれど……要はマルーク様はまだまだ身を固めたくないのだ。完全なる浮気……伯爵としてのブランドを地に落とす愚行と言えた。


「なんとか考え直していただけませんか？　伯爵様が浮気の末、婚約破棄をしたなどと他の貴族に知られたら、大変なことになってしまいます」

「なんだと？　お前は浮気の件をバラすと言うのか？　ん？」

「当たり前でしょう？　何を言っているんですか？」

　ここまで話した段階でマルーク様は激昂し始めた。


「私とヴィネの浮気の件をバラしてみろ！　お前の家を燃やしてやるからな！　他の貴族にこの話が行った時点でお前が漏らしたものだと考える！　いいか、絶対に内密にしておけ！」

「ま、マルーク様……！？」


　あまりの豹変ぶりに私は後ろに移動してしまった。マルーク様がいままで見せたことのないような激怒をしたのだ。いえ、本性を現したと言った方が良いのかもしれないけれど……。


「話は終わりだ、マリナ。今の私の言葉を頭に打ちつけておけ。屋敷からすぐに出て行くんだ！」

「そんな……マルーク様！」

「五月蠅い！　お前とはもう婚約破棄、他人なのだからな。いつまでも私の屋敷にいるんじゃない！」


　私はその後、荷物をまとめる時間も与えられずに屋敷から追い出された。こんなことが現実に起こるなんて信じられないけれど、本当に起こってしまったのだ。どうしよう……何も考えられない。私はこの後、どうしたらいいの？

　自分の屋敷に戻ることはできるけれど……その後のパーティーなどでなんて噂をされているか……。