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2話 聖女の祈り その1
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「まあ、バラン様がそのようなことをおっしゃったの?」
「はい……お母様」
自分の屋敷に戻った私は、そのままお母様に報告をした。黙ったままではいられないし、お父様は屋敷内にはいなかったからだ。私の悲しみを分かってくれるのは……同じく聖女であるお母様だけだったと言えるかもしれない。
「信じられないわね。バラン様はあなたを選んだ時には、聖女の祈りを尊ぶ発言をしていたはずだけれど……」
「私もそのように感じていました。ですが、現在は違うようです。聖女の祈りをまがい物であると断じて、婚約破棄までされてしまいました」
「そんな無慈悲なことを……にわかには信じられないことね」
私もお母様の意見には賛成だった。あれだけ優しかったバラン様が急に変わってしまったのだから。とても一国の伯爵様の態度だとは思えなかった。伯爵という地位は我が王国内でも重要なポストを担っている地位だと言える。しかもヴィレッジ伯爵家は歴史も古く有名なのに。とてもその当主様の行いだとは思えなかった。
「突然の婚約破棄……申し訳ありません、お母様」
「何を言っているの。あなたは悪くないでしょう。自分を責めるような内容ではないはずだわ」
「お母様……ですが……」
私は男爵家の長女という立ち位置だ。兄さまがいるのでラタトスク男爵家の後継は問題ないのだけれど。私の立場は危うくなってしまったと言える。元々、男爵家は貴族の間では最下層に位置する家系だ。大概は民間人から功績などを考慮されて男爵になることもある地位なわけだし。
その中で夫の貰い手のいない令嬢などは、将来的には一般人になることもある。私はその辺りを危惧していた。ラタトスク家に生まれて何も残せない事実……自己嫌悪に陥ってしまいそうだ。
「メアリ、自分を責めることはしないようにね? あなたも聖女の職に就いているのだから分かるでしょう? 精霊様や神様は姿こそ見えないけれど必ず存在していると」
「はい、お母様。それは信じております」
「ええ、それならば良いのよ。ヴィレッジ伯爵家との婚約が上手くいかなかったことは残念だけれど、次の機会を探せば問題はないわ」
「ありがとうございます、お母様」
お母様には感謝の言葉しか出ない。娘の私がこんな失態を起こしたのに全く責められなかったのだから。バラン様は否定していたけれど、確かに精霊様は存在する。聖女の祈りに呼応して、周辺地域を豊かにしてくれるのは間違いないのだ。逆に精霊様を雑に扱うと大変なことになると、昔から教えられてきた。この辺りの教えは宗教的なものも絡んでいるので、信じられない人には全く信用されないものだけれど。
「バラン様が聖女を信用しないことは自由よ。でも、それを理由に婚約破棄をするなんて……あまりにも酷いわ」
「はい、お母様。私も不思議でなりません」
「もしかしたら、バラン様は別の理由で婚約破棄をしたかったけれど、その理由を言うわけにはいかなかったので聖女を信じていないという理由を無理矢理作ったのではないかしら?」
「そ、そんなことが……」
信じられないことだけれど、言われてみればバラン様の婚約破棄の理由は、別の何かがあるのではないかと疑えなくもなかった。つまり、私への処遇は建前で、知られたくない本当の理由が存在した? そう考えると合点がいくのかもしれないわね。
「まあ、今は深く考えても仕方がないわ。メアリはしばらくゆっくりと過ごしなさい。今後のことは何とでもなるんだから、深刻に考えすぎないようにね」
「お母様……わかりました。ありがとうございます」
お母様の親切な言葉は私を勇気づけてくれた。確かに今は急いで動いても空回りするだけだろう。お母様の言う通り、しばらくはゆっくりと過ごした方が良いのかもしれない。その後にまた動き出していけば良いのだから。
「はい……お母様」
自分の屋敷に戻った私は、そのままお母様に報告をした。黙ったままではいられないし、お父様は屋敷内にはいなかったからだ。私の悲しみを分かってくれるのは……同じく聖女であるお母様だけだったと言えるかもしれない。
「信じられないわね。バラン様はあなたを選んだ時には、聖女の祈りを尊ぶ発言をしていたはずだけれど……」
「私もそのように感じていました。ですが、現在は違うようです。聖女の祈りをまがい物であると断じて、婚約破棄までされてしまいました」
「そんな無慈悲なことを……にわかには信じられないことね」
私もお母様の意見には賛成だった。あれだけ優しかったバラン様が急に変わってしまったのだから。とても一国の伯爵様の態度だとは思えなかった。伯爵という地位は我が王国内でも重要なポストを担っている地位だと言える。しかもヴィレッジ伯爵家は歴史も古く有名なのに。とてもその当主様の行いだとは思えなかった。
「突然の婚約破棄……申し訳ありません、お母様」
「何を言っているの。あなたは悪くないでしょう。自分を責めるような内容ではないはずだわ」
「お母様……ですが……」
私は男爵家の長女という立ち位置だ。兄さまがいるのでラタトスク男爵家の後継は問題ないのだけれど。私の立場は危うくなってしまったと言える。元々、男爵家は貴族の間では最下層に位置する家系だ。大概は民間人から功績などを考慮されて男爵になることもある地位なわけだし。
その中で夫の貰い手のいない令嬢などは、将来的には一般人になることもある。私はその辺りを危惧していた。ラタトスク家に生まれて何も残せない事実……自己嫌悪に陥ってしまいそうだ。
「メアリ、自分を責めることはしないようにね? あなたも聖女の職に就いているのだから分かるでしょう? 精霊様や神様は姿こそ見えないけれど必ず存在していると」
「はい、お母様。それは信じております」
「ええ、それならば良いのよ。ヴィレッジ伯爵家との婚約が上手くいかなかったことは残念だけれど、次の機会を探せば問題はないわ」
「ありがとうございます、お母様」
お母様には感謝の言葉しか出ない。娘の私がこんな失態を起こしたのに全く責められなかったのだから。バラン様は否定していたけれど、確かに精霊様は存在する。聖女の祈りに呼応して、周辺地域を豊かにしてくれるのは間違いないのだ。逆に精霊様を雑に扱うと大変なことになると、昔から教えられてきた。この辺りの教えは宗教的なものも絡んでいるので、信じられない人には全く信用されないものだけれど。
「バラン様が聖女を信用しないことは自由よ。でも、それを理由に婚約破棄をするなんて……あまりにも酷いわ」
「はい、お母様。私も不思議でなりません」
「もしかしたら、バラン様は別の理由で婚約破棄をしたかったけれど、その理由を言うわけにはいかなかったので聖女を信じていないという理由を無理矢理作ったのではないかしら?」
「そ、そんなことが……」
信じられないことだけれど、言われてみればバラン様の婚約破棄の理由は、別の何かがあるのではないかと疑えなくもなかった。つまり、私への処遇は建前で、知られたくない本当の理由が存在した? そう考えると合点がいくのかもしれないわね。
「まあ、今は深く考えても仕方がないわ。メアリはしばらくゆっくりと過ごしなさい。今後のことは何とでもなるんだから、深刻に考えすぎないようにね」
「お母様……わかりました。ありがとうございます」
お母様の親切な言葉は私を勇気づけてくれた。確かに今は急いで動いても空回りするだけだろう。お母様の言う通り、しばらくはゆっくりと過ごした方が良いのかもしれない。その後にまた動き出していけば良いのだから。
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