3 / 7
第三話:奥様はひそかに怒りを溜めている。
パーティー前に少し騒ぎはあったけれど、私が愚か者4人を退場させた後は皆さま、何も起こらなかったように振舞ってらして。
おかげで無事に、可愛いルーク卿とその可愛い婚約者の笑顔が見られたわ。
もう二十五にもなってるのだから、ルーク卿は『凛々しい』『男らしい』と表現したほうが良いのでしょうけれど、よちよち歩きの頃から知っていると、ね?やっぱり『可愛い』のですよねえ。立派になったわねえ、とは思いますけれどね。
「お母様、それ、ルーク卿におっしゃってないでしょうね?」
馬鹿テリーから解放されることが決まった娘は、自分の事よりもルーク卿を心配している。
「ご立派になって、とは言ったわよ?」
「それ、親戚のおばちゃん目線!」
「うまい表現ね?」
「ルーク卿が気の毒すぎる」
「あらあ、親戚のおばさま方に勝てる男がいるわけ無いでしょう?」
というと、娘は大きいため息をついて見せた。
「ルークかわいそー」
あらあら、『面倒を見てくれたお兄ちゃん』相手の呼び方に戻ったわね。
「あなたはあなたの心配をなさい」
「え、テリーの面倒見なくて良くなったのは、心配する事じゃなくてお祝い事でしょ?」
テリーには情も何も持ってないのよねえ、うちの娘。
この縁談を勝手に決めたのは、今は爵位を夫に譲った舅。勝手に私の娘を売る契約を取り付けてきた挙句、家長には何も言わずに従うのが女というものだ、と怒鳴ったので、一生黙っていてくださいなと『お願い』したのよね。それ以来、舅は言葉を発しなくなって、我が家は平和になったわ。
なにしろあんなひどい契約を結ぶような舅だったから。表舞台に立たせていたら、どれだけ被害が増えたことかしらね?黙ってくれて良かったわ。
舅が勝手に署名した契約は、娘が十八歳になったら嫁げ、それまでに婚家から渡されるべき支度金は準備しない、実家からは持参金をたくさん持たせろ、嫁に来たら里帰りはさせない、家のことは姑が全部握るから絶対に文句は言わずに従え、家族と晩餐の席を同じくするのは実家が晩餐代を全額持った場合だけ、ドレスは年に一着は作ってやるが値段に文句言うな、それ以上のものを着せてやりたければ我が家がドレス代の倍額の金を払え……などと、お嫁に出すにしたってひどい条件だった。
どう見てもあの契約は、うちの娘を端女として使用人扱いして、お金だけはうちから分捕ろうとしているだけの、うちを何だと思っているのかという内容なのよねえ。ありとあらゆる機会にうちから金を出させて、娘にはうちが出すお金の半分も使いませんと豪語してる契約よ?
すっかり舐められてるじゃないの。うちのお金は馬鹿テリーやその両親のために用意するわけじゃないのよ、娘に使うべきなのよ。
夫もこの婚姻契約には憤慨していたから、徐々に色々と削り取って契約を変更させ続けてはいたのだけれど、破棄までにはもうしばらくかかる予定だったのよね。今回の事で、一気に破棄までこぎつけたわ。
それにしても、あんな条件に合意した舅は狂っているんじゃないかしら?
我が家は侯爵で、先方は伯爵よ?
たかがカードに負けたくらいで、あんな面目丸つぶれの契約に署名するなんて、正気の沙汰ではないわね。
「それは同意するけれど、まだテリーを潰し終わったわけではないのですよ」
まだ油断して良い状態ではありませんからね。
「あのう、お母様。テリーはそのうち潰すおつもりだった?」
「あたりまえでしょう?」
舅と契約を結んだのは先代伯爵とはいえ、先代に引き続いて舐めた真似をしてくれたテリーの両親も含めて、目障りですからね。
今回は馬鹿テリーが皆様の前で、バカを極めた振る舞いをしてくれたから、計画を早める予定よ。夫がそう決めたのに反対する理由は、私にはないわね。
「うわぁ、思考回路がどう見ても魔女」
決めたのは夫なのだけれど、それよりも。
「前世の言葉が出てますよ」
「え?」
「回路、という言葉の意味は?」
「あ。そっか、ここに回路って物はないわ」
魔女の娘に生まれた女児にはたまに、異世界の記憶を持っている者がいて、私の娘もその一人。おかげで時々、他の誰にも分らない言葉を口走ってしまう。
「外では気を付けなさいな、話が通じない人と思われてしまうわよ」
「はぁい」
家の中でなら、いくら口走ったところで構わないのですけれど、ね。
おかげで無事に、可愛いルーク卿とその可愛い婚約者の笑顔が見られたわ。
もう二十五にもなってるのだから、ルーク卿は『凛々しい』『男らしい』と表現したほうが良いのでしょうけれど、よちよち歩きの頃から知っていると、ね?やっぱり『可愛い』のですよねえ。立派になったわねえ、とは思いますけれどね。
「お母様、それ、ルーク卿におっしゃってないでしょうね?」
馬鹿テリーから解放されることが決まった娘は、自分の事よりもルーク卿を心配している。
「ご立派になって、とは言ったわよ?」
「それ、親戚のおばちゃん目線!」
「うまい表現ね?」
「ルーク卿が気の毒すぎる」
「あらあ、親戚のおばさま方に勝てる男がいるわけ無いでしょう?」
というと、娘は大きいため息をついて見せた。
「ルークかわいそー」
あらあら、『面倒を見てくれたお兄ちゃん』相手の呼び方に戻ったわね。
「あなたはあなたの心配をなさい」
「え、テリーの面倒見なくて良くなったのは、心配する事じゃなくてお祝い事でしょ?」
テリーには情も何も持ってないのよねえ、うちの娘。
この縁談を勝手に決めたのは、今は爵位を夫に譲った舅。勝手に私の娘を売る契約を取り付けてきた挙句、家長には何も言わずに従うのが女というものだ、と怒鳴ったので、一生黙っていてくださいなと『お願い』したのよね。それ以来、舅は言葉を発しなくなって、我が家は平和になったわ。
なにしろあんなひどい契約を結ぶような舅だったから。表舞台に立たせていたら、どれだけ被害が増えたことかしらね?黙ってくれて良かったわ。
舅が勝手に署名した契約は、娘が十八歳になったら嫁げ、それまでに婚家から渡されるべき支度金は準備しない、実家からは持参金をたくさん持たせろ、嫁に来たら里帰りはさせない、家のことは姑が全部握るから絶対に文句は言わずに従え、家族と晩餐の席を同じくするのは実家が晩餐代を全額持った場合だけ、ドレスは年に一着は作ってやるが値段に文句言うな、それ以上のものを着せてやりたければ我が家がドレス代の倍額の金を払え……などと、お嫁に出すにしたってひどい条件だった。
どう見てもあの契約は、うちの娘を端女として使用人扱いして、お金だけはうちから分捕ろうとしているだけの、うちを何だと思っているのかという内容なのよねえ。ありとあらゆる機会にうちから金を出させて、娘にはうちが出すお金の半分も使いませんと豪語してる契約よ?
すっかり舐められてるじゃないの。うちのお金は馬鹿テリーやその両親のために用意するわけじゃないのよ、娘に使うべきなのよ。
夫もこの婚姻契約には憤慨していたから、徐々に色々と削り取って契約を変更させ続けてはいたのだけれど、破棄までにはもうしばらくかかる予定だったのよね。今回の事で、一気に破棄までこぎつけたわ。
それにしても、あんな条件に合意した舅は狂っているんじゃないかしら?
我が家は侯爵で、先方は伯爵よ?
たかがカードに負けたくらいで、あんな面目丸つぶれの契約に署名するなんて、正気の沙汰ではないわね。
「それは同意するけれど、まだテリーを潰し終わったわけではないのですよ」
まだ油断して良い状態ではありませんからね。
「あのう、お母様。テリーはそのうち潰すおつもりだった?」
「あたりまえでしょう?」
舅と契約を結んだのは先代伯爵とはいえ、先代に引き続いて舐めた真似をしてくれたテリーの両親も含めて、目障りですからね。
今回は馬鹿テリーが皆様の前で、バカを極めた振る舞いをしてくれたから、計画を早める予定よ。夫がそう決めたのに反対する理由は、私にはないわね。
「うわぁ、思考回路がどう見ても魔女」
決めたのは夫なのだけれど、それよりも。
「前世の言葉が出てますよ」
「え?」
「回路、という言葉の意味は?」
「あ。そっか、ここに回路って物はないわ」
魔女の娘に生まれた女児にはたまに、異世界の記憶を持っている者がいて、私の娘もその一人。おかげで時々、他の誰にも分らない言葉を口走ってしまう。
「外では気を付けなさいな、話が通じない人と思われてしまうわよ」
「はぁい」
家の中でなら、いくら口走ったところで構わないのですけれど、ね。
あなたにおすすめの小説
問い・その極悪令嬢は本当に有罪だったのか。
風和ふわ
ファンタジー
三日前、とある女子生徒が通称「極悪令嬢」のアース・クリスタに毒殺されようとした。
噂によると、極悪令嬢アースはその女生徒の美貌と才能を妬んで毒殺を企んだらしい。
そこで、極悪令嬢を退学させるか否か、生徒会で決定することになった。
生徒会のほぼ全員が極悪令嬢の有罪を疑わなかった。しかし──
「ちょっといいかな。これらの証拠にはどれも矛盾があるように見えるんだけど」
一人だけ。生徒会長のウラヌスだけが、そう主張した。
そこで生徒会は改めて証拠を見直し、今回の毒殺事件についてウラヌスを中心として話し合っていく──。
最後に言い残した事は
白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
どうして、こんな事になったんだろう……
断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。
本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。
「最後に、言い残した事はあるか?」
かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。
※ファンタジーです。ややグロ表現注意。
※「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載。
どうぞお好きに
音無砂月
ファンタジー
公爵家に生まれたスカーレット・ミレイユ。
王命で第二王子であるセルフと婚約することになったけれど彼が商家の娘であるシャーベットを囲っているのはとても有名な話だった。そのせいか、なかなか婚約話が進まず、あまり野心のない公爵家にまで縁談話が来てしまった。
今、私は幸せなの。ほっといて
青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。
卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。
そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。
「今、私は幸せなの。ほっといて」
小説家になろうにも投稿しています。
落ちこぼれ公爵令息の真実
三木谷夜宵
ファンタジー
ファレンハート公爵の次男セシルは、婚約者である王女ジェニエットから婚約破棄を言い渡される。その隣には兄であるブレイデンの姿があった。セシルは身に覚えのない容疑で断罪され、魔物が頻繁に現れるという辺境に送られてしまう。辺境の騎士団の下働きとして物資の輸送を担っていたセシルだったが、ある日拠点の一つが魔物に襲われ、多数の怪我人が出てしまう。物資が足らず、騎士たちの応急処置ができない状態に陥り、セシルは祈ることしかできなかった。しかし、そのとき奇跡が起きて──。
設定はわりとガバガバだけど、楽しんでもらえると嬉しいです。
投稿している他の作品との関連はありません。
カクヨムにも公開しています。
断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!
柊
ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」
ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。
「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」
そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。
(やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。
※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。
《完結》悪役聖女
ヴァンドール
ファンタジー
聖女になり、王妃となるため十年間も教育を受けて来たのに蓋を開ければ妹が聖女の力を持っていて私はには聖女の力が無かった。そのため祖国を追放されて隣国へと旅立ったがそこで……