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序章:それは、胸に秘めた過去の記憶
序章:それは、胸に秘めた過去の記憶
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暗い。目の前が暗い。さっきまで明るかったのに、世界は闇に包まれてしまった。
熱い。周囲の所々で火が燃えている。それは、まるで這いよるように自分に迫ってくる。
臭い。プラスチックが焼け焦げた臭い。人の死体が燃える臭い。吐き気を催すほどの臭いが自分を包んでいる。
ここは地獄であった。周囲は闇と死と破壊に彩られていて、他には何もない。
生と希望の光に満ちた日常は、どこかに消し飛んでしまった。
足元、何かが転がっている。その時の私は気付かなかった。だが、今は分かる。それは私の両親の遺骸であったのだ。両親の遺骸を嘗め尽くそうとする炎が迫るのを、私はただ呆然と眺めていた。
嗚呼、これは夢だ。
今の私も当時の私も同じようにそう思った。だが、意味はまるで異なる。
今の私が見ているそれは、正真正銘夢であった。目が覚めれば消えてしまう、ただの夢であった。
昔の私の見ているそれは、正真正銘現であった。目が覚めても消えることのない、重い現実であった。
誰かがやってきた。私にはそれははっきり見えない。
彼らは何かを話していた。その内容は、私には分からない。どこか遠い国の言葉を話しているようだ。
やがて、彼らは私を見つけた。彼らは私に近づき、幾らか言葉を交わした後、手にしたものの先端を突きつけてきた。硬くて冷たいそれは、銃と呼ばれる物だった。テレビでしか見たことのないそれが、本当にあったんだ、と私はぼんやりと考えていた。
次の瞬間、目の前の大人が吹き飛んだ。まるで、投げ出された人形のように、吹っ飛ばされたのだ。
次の瞬間、耳に響いたけたたましい音。それが銃を撃った音だと、私はつい最近まで気がつかなかった。
次の瞬間、銃を撃った人たちもまた、あっけなく吹き飛んでいった。それはまるで枯葉のようであった。
次の瞬間、私の前に立ったのは、女の子の様だった。今の私と同じぐらいの年齢に見える、彼女の顔は見えない。ただ、巨大な剣を携えていたことだけは分かる。
彼女は両親の遺骸に迫る火を消し、私の手を取った。
私は彼女に抱えられて移動する。やがて、彼女は窓から飛び降りた。僅かな浮遊感の後、地面に着くのがわかる。だが、痛みはまるで感じなかった。
「大丈夫?」
彼女はそう声をかけてきた。私は黙って頷いた。闇の中の彼女の顔が、なんとなく微笑んだように見えた。
やがて、月が雲間から姿を現す。そして、その光が彼女の顔を映し出そうとする。彼女の顔を見たい。私は、それを願う。
だが、そこで全ての風景にノイズが走る。ああ、終わった。私の夢は終わったのだ、と自覚する。
意識が光の中に溶けていく。
夢だ。これは夢だ。私が家族を、全てを失った時の夢なのだ。
「また、いつか」
少女の声が聞こえた。夢はいつもそこで終わった。そして、今もそこで終わった。
熱い。周囲の所々で火が燃えている。それは、まるで這いよるように自分に迫ってくる。
臭い。プラスチックが焼け焦げた臭い。人の死体が燃える臭い。吐き気を催すほどの臭いが自分を包んでいる。
ここは地獄であった。周囲は闇と死と破壊に彩られていて、他には何もない。
生と希望の光に満ちた日常は、どこかに消し飛んでしまった。
足元、何かが転がっている。その時の私は気付かなかった。だが、今は分かる。それは私の両親の遺骸であったのだ。両親の遺骸を嘗め尽くそうとする炎が迫るのを、私はただ呆然と眺めていた。
嗚呼、これは夢だ。
今の私も当時の私も同じようにそう思った。だが、意味はまるで異なる。
今の私が見ているそれは、正真正銘夢であった。目が覚めれば消えてしまう、ただの夢であった。
昔の私の見ているそれは、正真正銘現であった。目が覚めても消えることのない、重い現実であった。
誰かがやってきた。私にはそれははっきり見えない。
彼らは何かを話していた。その内容は、私には分からない。どこか遠い国の言葉を話しているようだ。
やがて、彼らは私を見つけた。彼らは私に近づき、幾らか言葉を交わした後、手にしたものの先端を突きつけてきた。硬くて冷たいそれは、銃と呼ばれる物だった。テレビでしか見たことのないそれが、本当にあったんだ、と私はぼんやりと考えていた。
次の瞬間、目の前の大人が吹き飛んだ。まるで、投げ出された人形のように、吹っ飛ばされたのだ。
次の瞬間、耳に響いたけたたましい音。それが銃を撃った音だと、私はつい最近まで気がつかなかった。
次の瞬間、銃を撃った人たちもまた、あっけなく吹き飛んでいった。それはまるで枯葉のようであった。
次の瞬間、私の前に立ったのは、女の子の様だった。今の私と同じぐらいの年齢に見える、彼女の顔は見えない。ただ、巨大な剣を携えていたことだけは分かる。
彼女は両親の遺骸に迫る火を消し、私の手を取った。
私は彼女に抱えられて移動する。やがて、彼女は窓から飛び降りた。僅かな浮遊感の後、地面に着くのがわかる。だが、痛みはまるで感じなかった。
「大丈夫?」
彼女はそう声をかけてきた。私は黙って頷いた。闇の中の彼女の顔が、なんとなく微笑んだように見えた。
やがて、月が雲間から姿を現す。そして、その光が彼女の顔を映し出そうとする。彼女の顔を見たい。私は、それを願う。
だが、そこで全ての風景にノイズが走る。ああ、終わった。私の夢は終わったのだ、と自覚する。
意識が光の中に溶けていく。
夢だ。これは夢だ。私が家族を、全てを失った時の夢なのだ。
「また、いつか」
少女の声が聞こえた。夢はいつもそこで終わった。そして、今もそこで終わった。
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