2 / 2
第1章:かくして、運命は牙を剥く
第1章:かくして、運命は牙を剥く(1)
しおりを挟む
瞬きを何度か繰り返す。そうすることで、意識が段々現実に戻ってくる。その半分ほどが、覚醒した時、少女-矢神陽子-は顔を上げた。
そこに映る風景は、誰もいない座席と、その上にある流れる景色を映し出す窓であった。そう、ここは人のほとんどいない列車の中であった。
時間を確認するべく、陽子は腕時計を見てみる。電車に乗ってから、約1時間と半。ふと、気付いた陽子は背中にある窓の下を振り返って見る。そこには、陸地を通り過ぎ、海の上へとでる風景が映し出されていた。そして、後30分ほどか、と列車が目的地に到着する時間を計った。
陽子が電車で向かう先。それは、海上に浮かぶ人工島、オノゴロ・アイランドである。我が国初のメガ・フロート工法で建設されたこの人工島には、自身の保護者である兄が住んでいるのだ。
齢14にして、中学二年生である陽子は、中学生活二度目の夏休みを迎えていた。彼女の通う学校は全寮制であり、親しい友達も夏休みになると実家に帰る。寮に留まっていても別に問題はないのだが、友達もいない寮にいても寂しいだけだ。それよりは、オノゴロ島に住む兄の下で暮らすほうが良い、と思う。その方が、自分もそして兄も嬉しいはずであった。両親が既にこの世にいない陽子達は、たった二人のだけの家族なのだから。
洋子の10歳年上の兄である矢神慶人は、100mを10秒で走り、学生時代の偏差値は常に80オーバーと言うハイスペック人間であった。現在は有名なIT企業に就職しており、入社から1年かそこらでプロジェクトの主任を任される等、かなりの頭角を現している。そんな彼は陽子にとって頼もしい存在であり、今の自分を養ってくれている保護者でもある。
ただ、彼には陽子をからかうことが事の外好き、という質の悪い趣味がある。昨日届いたプレゼントの箱にも、開けると(かなりリアルな)作り物の蛙が飛び出るという嫌な仕掛けが施されていた。だが、箱の中には他にも、誕生日の準備をしておくから早く帰って来い、と言った旨のメッセージカードと、プレゼントと思わしき、ペンダントが入っていた。なんのかんので、自分のことを思ってくれているのだ、と陽子は思った。
ペンダントは陽子の首にかかっており、金色の拳銃を模ったかざりが揺れている。正直、あまり趣味のいい代物だとは思えないが、兄がせっかくくれたものなのだ。ただ、顔を合わせたら、趣味が悪い、と文句の一言ぐらいは言おうと思っていた。
不意に、視界が揺れた。一体何が、と思う間もなく振動は激しくなって行く。陽子は、咄嗟に席から降り、床に伏せた。間違いない、これは地震か何かだ、と思った。
電車に急停車がかかり、陽子は床から引き剥がされそうになるが、何とか堪える。幸い、陽子のいる車両には、陽子以外の人は乗っておらず、他人の下敷きになる、という事態は避けられたようだ。
だが、陽子の幸運はそこまでであった。
身体に伝わる振動はますます激しさを増していく。突然、世界が回転したように陽子には感じられた。電車が横転した。そのことに気づくと同時に、陽子は子供に投げられた人形のように宙に舞い、背中を叩きつけられた。あまりの痛みに、陽子は意識を失ってしまった。
暗い闇の中で、声が聞こえた。
使命の子よ。汝は何を望む。この世界をどのように変えんと欲す、と。
それは、ぼんやりとした、だが、何故かはっきりと聞こえた。男性の声である様に思えた。
正直、陽子には訳が分からなかった。今自分が一体どうなっているのか。一体何が起こったのか。この声の主は誰なのか。その言葉は、一体どういう意味なのか。だから、陽子はとりあえず願った。
(生きたい。生きて、兄さんのところへ行きたい)
陽子のその願いに、声の主は何かを答えた気がした。それはなにかしらの了承だったように思えた。それだけを感じ取って、陽子の意識は深い闇の中へと、堕ちていった。
そこに映る風景は、誰もいない座席と、その上にある流れる景色を映し出す窓であった。そう、ここは人のほとんどいない列車の中であった。
時間を確認するべく、陽子は腕時計を見てみる。電車に乗ってから、約1時間と半。ふと、気付いた陽子は背中にある窓の下を振り返って見る。そこには、陸地を通り過ぎ、海の上へとでる風景が映し出されていた。そして、後30分ほどか、と列車が目的地に到着する時間を計った。
陽子が電車で向かう先。それは、海上に浮かぶ人工島、オノゴロ・アイランドである。我が国初のメガ・フロート工法で建設されたこの人工島には、自身の保護者である兄が住んでいるのだ。
齢14にして、中学二年生である陽子は、中学生活二度目の夏休みを迎えていた。彼女の通う学校は全寮制であり、親しい友達も夏休みになると実家に帰る。寮に留まっていても別に問題はないのだが、友達もいない寮にいても寂しいだけだ。それよりは、オノゴロ島に住む兄の下で暮らすほうが良い、と思う。その方が、自分もそして兄も嬉しいはずであった。両親が既にこの世にいない陽子達は、たった二人のだけの家族なのだから。
洋子の10歳年上の兄である矢神慶人は、100mを10秒で走り、学生時代の偏差値は常に80オーバーと言うハイスペック人間であった。現在は有名なIT企業に就職しており、入社から1年かそこらでプロジェクトの主任を任される等、かなりの頭角を現している。そんな彼は陽子にとって頼もしい存在であり、今の自分を養ってくれている保護者でもある。
ただ、彼には陽子をからかうことが事の外好き、という質の悪い趣味がある。昨日届いたプレゼントの箱にも、開けると(かなりリアルな)作り物の蛙が飛び出るという嫌な仕掛けが施されていた。だが、箱の中には他にも、誕生日の準備をしておくから早く帰って来い、と言った旨のメッセージカードと、プレゼントと思わしき、ペンダントが入っていた。なんのかんので、自分のことを思ってくれているのだ、と陽子は思った。
ペンダントは陽子の首にかかっており、金色の拳銃を模ったかざりが揺れている。正直、あまり趣味のいい代物だとは思えないが、兄がせっかくくれたものなのだ。ただ、顔を合わせたら、趣味が悪い、と文句の一言ぐらいは言おうと思っていた。
不意に、視界が揺れた。一体何が、と思う間もなく振動は激しくなって行く。陽子は、咄嗟に席から降り、床に伏せた。間違いない、これは地震か何かだ、と思った。
電車に急停車がかかり、陽子は床から引き剥がされそうになるが、何とか堪える。幸い、陽子のいる車両には、陽子以外の人は乗っておらず、他人の下敷きになる、という事態は避けられたようだ。
だが、陽子の幸運はそこまでであった。
身体に伝わる振動はますます激しさを増していく。突然、世界が回転したように陽子には感じられた。電車が横転した。そのことに気づくと同時に、陽子は子供に投げられた人形のように宙に舞い、背中を叩きつけられた。あまりの痛みに、陽子は意識を失ってしまった。
暗い闇の中で、声が聞こえた。
使命の子よ。汝は何を望む。この世界をどのように変えんと欲す、と。
それは、ぼんやりとした、だが、何故かはっきりと聞こえた。男性の声である様に思えた。
正直、陽子には訳が分からなかった。今自分が一体どうなっているのか。一体何が起こったのか。この声の主は誰なのか。その言葉は、一体どういう意味なのか。だから、陽子はとりあえず願った。
(生きたい。生きて、兄さんのところへ行きたい)
陽子のその願いに、声の主は何かを答えた気がした。それはなにかしらの了承だったように思えた。それだけを感じ取って、陽子の意識は深い闇の中へと、堕ちていった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる