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第五話
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鬼姫は『守』の札を白蛇の方に向かわせると、さっきより数段加速する。
光の弾丸を弾いていた札がなくなったため、うっすらと赤く光る刃を持つ日本刀を引き抜き、輝く弾を切り落とす。
光の津波を日本刀一本で割って進む姿はまるでモーゼのようだ。
先程の狙撃で高所に陣取る厄介な魔導人形を撃退したため、全神経を正面の魔導人形に向けた。
鬼姫と魔導人形との距離が迫り、仲間に流れ弾が当たるのを避けるために一部の弾幕が止み、攻撃を止めた魔導人形達は移動を開始する。
人間をベースに動きのパターンを制作している弊害だ。
兵士と違い資源のある限りいくらでも量産の可能な魔導人形なら、仲間ごと打ち抜けばもう少し鬼姫をてこずらせることができただろう。
鬼姫はその隙を逃さず、最も近い魔導人形の集団を斬り付ける。
袈裟斬りで斬りつけられた魔導人形は一刀両断され、あまりにも刀を速く振るったため魔導人形の切り口は摩擦熱でオレンジ色に輝いていた。
そこから始まったのは一方的な虐殺。鬼姫を狙って放たれる光の弾丸はことごとく斬り落とされ、距離を取ろうにも鬼姫に追い付かれて日本刀でバラバラに切断される。
200近く居たはずの魔導人形の集団は白蛇が追いつく頃には殆どがスクラップへと変わっていた。
「遅かったのぅ、お主」
鬼姫は残った残党の攻撃を適当に弾きつつ歩いて近づき魔導人形にとどめを刺す。
「鬼姫が早すぎるんですよ!」
白蛇を守るようについて来た札の群れはひとりでにゲートへと仕舞われる。
「僕の出る幕……ありませんでしたね」
白蛇は辺りを見渡しながらどこか安心したように辺りを見渡す。
「なぁに、そんなことはない。よう魔力を使って辺りを探ってみるんじゃ」
「えぇ……残ってるんですか……」
白蛇は集中して辺りを探る。
辺りは鬼姫に斬られた魔導人形から溢れた魔力が霧に様に辺りに満ち溢れており、いつもより魔力の探知がしづらい。
いや、白蛇は溢れる魔力の中から魔力が塊で存在しているを発見する。
魔導人形だ。
その魔導人形は他の魔導人形の死体に隠れ身を潜めていた。
白蛇が魔導人形と目が合うのとほぼ同時にそいつの右手にあるライフルの銃口が光った。
白蛇の眉間に目掛けて正確に飛んでくる光を体を後ろにそらすことでなんとか回避する。
回避したことでバランスを崩した白蛇が体勢を立て直すと、魔導人形は仲間の残骸を退けて起き上がり、体勢を落としてライフルを構え、白蛇をじっと狙っている。
魔導人形は顔の部分に一つの大きなカメラを備えておりその他の構造は人間と大きく変わっていない。
実験機のためか胸に薄い装甲を張り付けていただけで、ほかに装甲らしいものはなく、どうにか白蛇の木刀でも戦えそうだった。
「タァ!」
先に動いたのは白蛇だった。
右手に持つ小太刀と左手の太刀、両方に魔力を流し武器強化魔法を発動する。
魔導人形との距離は20メートル以下、身体強化魔法を使った白蛇の肉体ならば1秒足らずで詰められる距離だった。
(やれる)
一歩踏み出したとき、魔導人形の無機物な指が動いた。
小さな金属同士が触れ合うような発砲音と共に発射された紫の弾丸は正確に白蛇の足首を撃ち抜いた。
熱い痛みに顔を歪ませ、白蛇は失速する。
その隙を見逃さず魔導人形は引き金を引き、ライフルをフルオートで連射した。
1秒間で五発というゆっくりなペースで魔力でできた弾丸をばら撒いた。
白蛇は鬼の眼で弾丸を捉え、右手の小太刀を最小限の動きで動かし弾丸を弾き続ける。
数秒間連射が続き、白蛇もそれに合わせるように弾丸を弾く。
白蛇と魔導人形が競り合っている間に右足の傷はアンデットの力で完全に修復された。
「今度こそ!」
回復したての足を使い、魔導人形との距離を一気に詰める。
魔道人形は動きに対応し、白蛇にライフルを向け引き金に指をかける。
魔道人形が引き金を引くよりも早くライフル本体を左手の太刀で叩き魔道人形の腕の外へと弾く。
魔導人形のライフルは手から離れて宙を舞い、その隙に白蛇は更に距離を詰める。
(勝った!)
武装のなくなった魔導人形にトドメを刺すために右手を引き小太刀を片手平突きの体制をとる。
突きを放つその瞬間、魔導人形を壊すよりもわずかに早く白蛇の左肩に鋭い痛みが走った。
魔導人形を小太刀が貫くと同時に、白蛇の左肩を魔道人形の右手が貫いていた。
魔導人形の人間離れした馬力から放たれる金属製の貫手は槍のように鋭く、その貫手により白蛇の右肩は貫通し、傷口からは真っ赤な血が流れていた。
白蛇の突きによって機能を停止された魔導人形の右手をどうにか自分の方から引き抜くために手をかけたが——
「……っう」
強烈な痛みが走り手の力がぬけた。
「鬼姫、これどうしよう……めっちゃ痛いんですけど! 痛すぎて抜けないんですけど!」
「なぁに、ほっときゃ治るじゃろ」
先程から腕を組んで立っている鬼姫が適当そうに言う。
「そんな……適当な……」
白蛇は驚き半分呆れ半分で返した。
「言っとくがマジじゃぞ」
「……え!?」
「ほれ、見ておれ」
鬼姫が白蛇の肩を指差してから少し時間が経つと、傷口から血が溢れ出て魔導人形の腕が白蛇の右肩から力なく落ちた。
「うそ……」
白蛇は唖然としながら魔導人形の腕を見る。
白蛇の右肩貫き白蛇の肩の埋まっていたはずの指パーツがなくなって、断面は強酸で溶かされたようにドロドロに溶けていた。
「うわ、気持ち悪いですね……これ……どうなってるんですか?」
「高位のアンデット特有の性質じゃな。自分の傷を修復するときに体に修復の障害となる物質があればそれを消化し魔力に変換するんじゃよ」
「ええっとつまり……」
白蛇はゆっくりと鬼姫の言葉を理解し始める。
「簡単に言うとお主の再生に邪魔な部分はたとえなんであっても溶かして吸収するんじゃよ」
「ええ!? じゃあ僕こいつの指を吸収しちゃったんですか?」
「まぁ、そういうことじゃな」
白蛇は驚き再生したばかりの右肩をじっくりと見る。
「えぇ……えっ……えぇ……」
白蛇は困惑してその結論の悩みまた困惑すると言うのを何度か繰り返してなんとか自分を納得させる。
「まぁ細かいことは気にするでない、禿げるぞ」
「まだそんな歳じゃないですよ!」
鬼姫はカカカと笑い、刀をゲートにしまった。
「ほれ、増援が駆けつける前に移動するとしようかのぅ」
「ですね」
二人は壁に向けて走り出した。
◇
ちょうどその頃フィーレメントの東部、広いフィーレメント帝国の中で最も栄えた街の一つ『ラッドルカ』、その中心街に存在する一際高いビルの上階フロア。
「ふざけるな! この僕をこんな時間に起こすなんて!」
小太りの男が独り言をこぼしながら不機嫌そうに廊下を歩いている。
廊下は白一色で清潔に整えられており、天井からは一定間隔で魔力を動力源としたライトが廊下を照らしていた。
男は白衣に黒縁眼鏡、伸び放題の髭に手入れされていない髪は廊下と対照的に清潔感が一切感じ取れない。
不機嫌そうに髪の毛をぼりぼりと掻きむしると辺りにはフケが舞った。
「なんなんだよ僕は天才だぞ! 睡眠の質の低下でパフォーマンスが落ちたらどうしてくれるんだ!」
一人で発狂しながら早く用事を済まそうと足を速めた。
廊下の突き当たりにある近未来的なドアの前に立つと男の首に下げた自分のIDカードを引っ掴み、ドアの右端に取り付けてある黒い正方形にかざす。
チャイムのような甲高い音とともに正方形は緑に輝き、ドアは左右に分かれて開く。
扉の先には正面に大きなスクリーンがあり、その手前側には沢山のコンピュータが置かれていた。
小太りの男と同じ白衣を着た男女がコンピュータに張り付いて、つきっきりでキーボードを叩いている。
「なんだ! この僕を起こすほどの理由なんだろうな!」
「社長!」タブレット端末を持つ、背が高い妙齢の女が小走りで近づいてきた。
「社長、ご足労をかけて申し訳ありません」
「定型文はいい、どういうことだ!」
「これを」
社長と呼ばれた小太りの男は荒っぽくタブレット端末を取り画面を見つめる。
上から順番に書かれている文字を読み進めるうちにどんどんと顔が青ざめていく。
「ありえん……バグか?」
「いえ、そんな——」
若い女が言い切る前に男が口を開いた。
「そんなわけない……それは僕が一番知ってる……どういうことだ……僕の魔導人形がやられた……それも200以上だと……ありえない……だが事実なんだよな?」
「はい」
「データは!」
男が怒鳴りつけた。
「ただいま技術者総出で解析中です」
「わかった……議会にも連絡しろ……」
「議会ですか?」
「いいから早くしろ!」
「はっ、はい!」
若い女は駆け足でまたどこかへと走り去った。
「不味いな……いくらテスト機とはいえ200機以上いたんだそれをあんなに短時間で……帝国内でもできる人間は限られてくるぞ……それに8日前に起こった異常なサイズの次元の歪み……まさか」
◇
フィーレメント帝国を取り囲む壁付近でサートライトを避けながら、鬼姫は城壁を叩いて歩き白蛇はその後ろをついていく、というのを10分ほど続けていた。
「この辺じゃったかのぅ」
「ちょっとしっかりしてくださいよ」
「なんせ400年前じゃぞ? 正確に覚えとるわけなかろう」
何度か城壁を叩いたところで歩みを止める。
慎重に何度か城壁を叩くと鬼姫は笑った。
「あったここじゃ」
鬼姫は何もないコンクリートの壁を指さす。
「ここ……ですか? 僕にはただの壁に見えるんですが?」
「まぁ、そう見えるように魔法で細工してあるからのぅ」
鬼姫は右手を壁にかざす。
「術式……これであっとったかのぅ」
鬼姫の手のひらを中心に半径15センチ程の魔法陣が描かれた。
魔法陣の線に魔力を流しているのが今の白蛇には手にとる様にわかった。
全ての線に魔力が行きわたると、城壁には高さは2メートル、横幅1メートルの範囲が青白く光り輝き、地下に降りる階段が現れた。
「これが策ですか?」
「うむ、昔々にフィアが作ったものじゃな、まだ消えてなかったとはのぅ」
「ええ!? もし消えてたらどうするつもりだったんですか?」
「そんときは適当に考えるとするかのぅ、まぁ良い開いたのじゃ」
白蛇は何か言いかけたが、途中でやめ、ため息をついた。
「……ところで、フィアって誰ですか?」
鬼姫はハッとする。
「ああ、そうか……そうじゃったな、妾の昔の仲間の魔女じゃよ」
鬼姫の”昔”ということは400年以上前の話だ。
「死んでも魔法って残るんですね。なんか……良いですね」
「向こうに行ってから会っとらんから分からんが、多分生きとるぞ」
「そうなんですか、鬼姫みたいな長命種ってことですか?」
「人間じゃぞ、今年で600年近く生きとるがのぅ」
「600年近く間生きている人間……凄まじいですね」
「どうせフィーレメントで会うんじゃ、楽しみにしておくんじゃな」
二人は楽しそうな声と共に地下の階段に消えた。
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光の弾丸を弾いていた札がなくなったため、うっすらと赤く光る刃を持つ日本刀を引き抜き、輝く弾を切り落とす。
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鬼姫と魔導人形との距離が迫り、仲間に流れ弾が当たるのを避けるために一部の弾幕が止み、攻撃を止めた魔導人形達は移動を開始する。
人間をベースに動きのパターンを制作している弊害だ。
兵士と違い資源のある限りいくらでも量産の可能な魔導人形なら、仲間ごと打ち抜けばもう少し鬼姫をてこずらせることができただろう。
鬼姫はその隙を逃さず、最も近い魔導人形の集団を斬り付ける。
袈裟斬りで斬りつけられた魔導人形は一刀両断され、あまりにも刀を速く振るったため魔導人形の切り口は摩擦熱でオレンジ色に輝いていた。
そこから始まったのは一方的な虐殺。鬼姫を狙って放たれる光の弾丸はことごとく斬り落とされ、距離を取ろうにも鬼姫に追い付かれて日本刀でバラバラに切断される。
200近く居たはずの魔導人形の集団は白蛇が追いつく頃には殆どがスクラップへと変わっていた。
「遅かったのぅ、お主」
鬼姫は残った残党の攻撃を適当に弾きつつ歩いて近づき魔導人形にとどめを刺す。
「鬼姫が早すぎるんですよ!」
白蛇を守るようについて来た札の群れはひとりでにゲートへと仕舞われる。
「僕の出る幕……ありませんでしたね」
白蛇は辺りを見渡しながらどこか安心したように辺りを見渡す。
「なぁに、そんなことはない。よう魔力を使って辺りを探ってみるんじゃ」
「えぇ……残ってるんですか……」
白蛇は集中して辺りを探る。
辺りは鬼姫に斬られた魔導人形から溢れた魔力が霧に様に辺りに満ち溢れており、いつもより魔力の探知がしづらい。
いや、白蛇は溢れる魔力の中から魔力が塊で存在しているを発見する。
魔導人形だ。
その魔導人形は他の魔導人形の死体に隠れ身を潜めていた。
白蛇が魔導人形と目が合うのとほぼ同時にそいつの右手にあるライフルの銃口が光った。
白蛇の眉間に目掛けて正確に飛んでくる光を体を後ろにそらすことでなんとか回避する。
回避したことでバランスを崩した白蛇が体勢を立て直すと、魔導人形は仲間の残骸を退けて起き上がり、体勢を落としてライフルを構え、白蛇をじっと狙っている。
魔導人形は顔の部分に一つの大きなカメラを備えておりその他の構造は人間と大きく変わっていない。
実験機のためか胸に薄い装甲を張り付けていただけで、ほかに装甲らしいものはなく、どうにか白蛇の木刀でも戦えそうだった。
「タァ!」
先に動いたのは白蛇だった。
右手に持つ小太刀と左手の太刀、両方に魔力を流し武器強化魔法を発動する。
魔導人形との距離は20メートル以下、身体強化魔法を使った白蛇の肉体ならば1秒足らずで詰められる距離だった。
(やれる)
一歩踏み出したとき、魔導人形の無機物な指が動いた。
小さな金属同士が触れ合うような発砲音と共に発射された紫の弾丸は正確に白蛇の足首を撃ち抜いた。
熱い痛みに顔を歪ませ、白蛇は失速する。
その隙を見逃さず魔導人形は引き金を引き、ライフルをフルオートで連射した。
1秒間で五発というゆっくりなペースで魔力でできた弾丸をばら撒いた。
白蛇は鬼の眼で弾丸を捉え、右手の小太刀を最小限の動きで動かし弾丸を弾き続ける。
数秒間連射が続き、白蛇もそれに合わせるように弾丸を弾く。
白蛇と魔導人形が競り合っている間に右足の傷はアンデットの力で完全に修復された。
「今度こそ!」
回復したての足を使い、魔導人形との距離を一気に詰める。
魔道人形は動きに対応し、白蛇にライフルを向け引き金に指をかける。
魔道人形が引き金を引くよりも早くライフル本体を左手の太刀で叩き魔道人形の腕の外へと弾く。
魔導人形のライフルは手から離れて宙を舞い、その隙に白蛇は更に距離を詰める。
(勝った!)
武装のなくなった魔導人形にトドメを刺すために右手を引き小太刀を片手平突きの体制をとる。
突きを放つその瞬間、魔導人形を壊すよりもわずかに早く白蛇の左肩に鋭い痛みが走った。
魔導人形を小太刀が貫くと同時に、白蛇の左肩を魔道人形の右手が貫いていた。
魔導人形の人間離れした馬力から放たれる金属製の貫手は槍のように鋭く、その貫手により白蛇の右肩は貫通し、傷口からは真っ赤な血が流れていた。
白蛇の突きによって機能を停止された魔導人形の右手をどうにか自分の方から引き抜くために手をかけたが——
「……っう」
強烈な痛みが走り手の力がぬけた。
「鬼姫、これどうしよう……めっちゃ痛いんですけど! 痛すぎて抜けないんですけど!」
「なぁに、ほっときゃ治るじゃろ」
先程から腕を組んで立っている鬼姫が適当そうに言う。
「そんな……適当な……」
白蛇は驚き半分呆れ半分で返した。
「言っとくがマジじゃぞ」
「……え!?」
「ほれ、見ておれ」
鬼姫が白蛇の肩を指差してから少し時間が経つと、傷口から血が溢れ出て魔導人形の腕が白蛇の右肩から力なく落ちた。
「うそ……」
白蛇は唖然としながら魔導人形の腕を見る。
白蛇の右肩貫き白蛇の肩の埋まっていたはずの指パーツがなくなって、断面は強酸で溶かされたようにドロドロに溶けていた。
「うわ、気持ち悪いですね……これ……どうなってるんですか?」
「高位のアンデット特有の性質じゃな。自分の傷を修復するときに体に修復の障害となる物質があればそれを消化し魔力に変換するんじゃよ」
「ええっとつまり……」
白蛇はゆっくりと鬼姫の言葉を理解し始める。
「簡単に言うとお主の再生に邪魔な部分はたとえなんであっても溶かして吸収するんじゃよ」
「ええ!? じゃあ僕こいつの指を吸収しちゃったんですか?」
「まぁ、そういうことじゃな」
白蛇は驚き再生したばかりの右肩をじっくりと見る。
「えぇ……えっ……えぇ……」
白蛇は困惑してその結論の悩みまた困惑すると言うのを何度か繰り返してなんとか自分を納得させる。
「まぁ細かいことは気にするでない、禿げるぞ」
「まだそんな歳じゃないですよ!」
鬼姫はカカカと笑い、刀をゲートにしまった。
「ほれ、増援が駆けつける前に移動するとしようかのぅ」
「ですね」
二人は壁に向けて走り出した。
◇
ちょうどその頃フィーレメントの東部、広いフィーレメント帝国の中で最も栄えた街の一つ『ラッドルカ』、その中心街に存在する一際高いビルの上階フロア。
「ふざけるな! この僕をこんな時間に起こすなんて!」
小太りの男が独り言をこぼしながら不機嫌そうに廊下を歩いている。
廊下は白一色で清潔に整えられており、天井からは一定間隔で魔力を動力源としたライトが廊下を照らしていた。
男は白衣に黒縁眼鏡、伸び放題の髭に手入れされていない髪は廊下と対照的に清潔感が一切感じ取れない。
不機嫌そうに髪の毛をぼりぼりと掻きむしると辺りにはフケが舞った。
「なんなんだよ僕は天才だぞ! 睡眠の質の低下でパフォーマンスが落ちたらどうしてくれるんだ!」
一人で発狂しながら早く用事を済まそうと足を速めた。
廊下の突き当たりにある近未来的なドアの前に立つと男の首に下げた自分のIDカードを引っ掴み、ドアの右端に取り付けてある黒い正方形にかざす。
チャイムのような甲高い音とともに正方形は緑に輝き、ドアは左右に分かれて開く。
扉の先には正面に大きなスクリーンがあり、その手前側には沢山のコンピュータが置かれていた。
小太りの男と同じ白衣を着た男女がコンピュータに張り付いて、つきっきりでキーボードを叩いている。
「なんだ! この僕を起こすほどの理由なんだろうな!」
「社長!」タブレット端末を持つ、背が高い妙齢の女が小走りで近づいてきた。
「社長、ご足労をかけて申し訳ありません」
「定型文はいい、どういうことだ!」
「これを」
社長と呼ばれた小太りの男は荒っぽくタブレット端末を取り画面を見つめる。
上から順番に書かれている文字を読み進めるうちにどんどんと顔が青ざめていく。
「ありえん……バグか?」
「いえ、そんな——」
若い女が言い切る前に男が口を開いた。
「そんなわけない……それは僕が一番知ってる……どういうことだ……僕の魔導人形がやられた……それも200以上だと……ありえない……だが事実なんだよな?」
「はい」
「データは!」
男が怒鳴りつけた。
「ただいま技術者総出で解析中です」
「わかった……議会にも連絡しろ……」
「議会ですか?」
「いいから早くしろ!」
「はっ、はい!」
若い女は駆け足でまたどこかへと走り去った。
「不味いな……いくらテスト機とはいえ200機以上いたんだそれをあんなに短時間で……帝国内でもできる人間は限られてくるぞ……それに8日前に起こった異常なサイズの次元の歪み……まさか」
◇
フィーレメント帝国を取り囲む壁付近でサートライトを避けながら、鬼姫は城壁を叩いて歩き白蛇はその後ろをついていく、というのを10分ほど続けていた。
「この辺じゃったかのぅ」
「ちょっとしっかりしてくださいよ」
「なんせ400年前じゃぞ? 正確に覚えとるわけなかろう」
何度か城壁を叩いたところで歩みを止める。
慎重に何度か城壁を叩くと鬼姫は笑った。
「あったここじゃ」
鬼姫は何もないコンクリートの壁を指さす。
「ここ……ですか? 僕にはただの壁に見えるんですが?」
「まぁ、そう見えるように魔法で細工してあるからのぅ」
鬼姫は右手を壁にかざす。
「術式……これであっとったかのぅ」
鬼姫の手のひらを中心に半径15センチ程の魔法陣が描かれた。
魔法陣の線に魔力を流しているのが今の白蛇には手にとる様にわかった。
全ての線に魔力が行きわたると、城壁には高さは2メートル、横幅1メートルの範囲が青白く光り輝き、地下に降りる階段が現れた。
「これが策ですか?」
「うむ、昔々にフィアが作ったものじゃな、まだ消えてなかったとはのぅ」
「ええ!? もし消えてたらどうするつもりだったんですか?」
「そんときは適当に考えるとするかのぅ、まぁ良い開いたのじゃ」
白蛇は何か言いかけたが、途中でやめ、ため息をついた。
「……ところで、フィアって誰ですか?」
鬼姫はハッとする。
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鬼姫の”昔”ということは400年以上前の話だ。
「死んでも魔法って残るんですね。なんか……良いですね」
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異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
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