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連載
新しいおもちゃはダンジョンです!
千春の部屋の扉がノックされ、サリナが扉を開く、エンハルトは中に入ると、ソファーに座り紙を見つめる千春が目に入った。
「チハル、今良いか?」
「んー・・・いいよー・・・」
紙から視線を外さず答える千春にエンハルトは思わず笑みをこぼし、対面に座る。
「勉強か?」
「うん。」
千春は返事を返すと、紙をテーブルに置き、エンハルトを見る、そして大きく息を吐いた。
「はぁぁぁ~~~~。」
「根詰めなくても良いだろ。」
「だってぇ、やっぱり婚姻の儀は翻訳魔道具使わず行きたいじゃ~ん♪」
ニパッと笑いながら答える千春はお茶を口に含む、サフィーナはエンハルトのお茶を淹れエンハルトの前に置くと、エンハルトもお茶を口にした。
「で?なにか用事?」
千春が問いかけると、エンハルトはニコッと微笑み答える。
「用事がないと来てはダメか?」
「べっつにぃ~、いいけど?」
ぷいっと横を向き答える千春、エンハルトはサフィーナと目が合いクスクスと笑い合う。
「あ。」
千春は思い出したようにエンハルトを見て問いかけた。
「どうした?」
「ちょっと耳にしたんだけど、王都の犯罪が0だったって、本当?」
「ああ、正確に言うと、警備隊に上がるような犯罪は無かったという事だがな。」
「んじゃ0じゃないの?」
「自衛団で処理したり、各ギルドでの処分で終わるような喧嘩くらいはあった。」
「な~んだ。」
残念そうに呟く千春、だがエンハルトは答える。
「それでも凄い事だぞ、ジブラロール王国設立以来初だろう。」
「設立って・・・1000年前だっけ?」
「そうだ。」
「おー、それは凄いかもしれない。」
「かもしれないじゃなく、凄いんだがな。」
苦笑いで答えるエンハルト、そして話を続けた。
「だが、逆に警備隊が暇すぎてな。」
「良いじゃん、警察は暇な方が良いよ、こっちは警備隊だけど。」
「そうだな、あとは魔物が激減して、冒険者ギルドが困っているくらいか。」
「ありゃ、そうなの?」
「ドラゴンが空を飛び回っているからな、少しでも知能がある魔物は逃げるだろ。」
「そりゃそうか、それじゃダンジョンに行ってるの?」
千春が問いかけると、エンハルトは頷く。
「ああ、だがダンジョンも限界がある、他国からの冒険者も増えてきているが、最近は冒険者から職人に転職する者もいるくらいだ。」
「・・・そっちの方が安全だし稼げるね。」
「まぁな、だが冒険者ギルドとしても依頼をこなす必要がある。」
「肉確保とかね~♪」
「ああ、だから遠征で依頼をしているが・・・」
「んじゃ大丈夫なんじゃない?」
困ったように答えるエンハルト、千春は首を傾げ言うと、モリアンが千春に答える。
「遠出すると荷物あまり持って帰れないんですよぉ?」
「あ、そうか。」
「ああ、オークくらいになると、一匹持って帰って来るだけでも大変だ。」
「アイテムボックスみたいな便利魔法使える人いないもんね・・・いや、いるな。」
「ユーリンか、今遠征組に駆り出されて荷物持ちをやっているらしい。」
「おー・・・たいへんだぁ。」
他人事のように言う千春、そしてふと天井を見上げ声を掛ける。
「アルデア、いるー?」
千春が言うと、蝙蝠がピョコっと顔を出し降りて来る、そしてアルデアがあられた。
「なに?」
「ねぇ、ダンジョンの拡張とか出来ないの?」
「出来るわよ。」
「んじゃラミちゃんに言って拡張してもらったら冒険者のお仕事増えるんじゃない?」
千春の問いかけにアルデアは目を瞑り考えるが、苦笑いで答えた。
「拡張しても深層になると持って帰るのは大変よ?」
「・・・そりゃそうだ、あ!それじゃ新しいダンジョン作るとか♪」
千春はアルデアに問いかける。
「ダンジョンを意図的に発生させるのは無理よ?」
「そうなの?」
「ええ、色々な条件が重なって、ダンジョンコアが出来るの、そのコアにダンジョンマスターが色々と組み込む事でダンジョンが出来上がるのよ。」
「へ~・・・コアって作れないの?」
「無理ね、自然に発生した物を使うから。」
「どうやって?」
「魔石に魔法を組み込んで魔道具にするでしょう?」
「・・・うん。」
「その難しい版と思ったらいいわよ。」
「・・・へー。」
千春は空返事で返すと、アルデアは千春のおでこをポコンとチョップする。
「わかってないわね。」
「うん♪」
「ジブラロールにはもうダンジョンがあるでしょう、この近辺の魔力はダンジョンに流れているから、新しいコアは近くに生まれないわよ。」
「えー、そこをどうにか・・・あ、別のダンジョンからコア持ってきたらいいじゃん♪」
ポンと手を叩く千春にアルデアはもう一度チョップする。
「あでっ!ダメなの?」
「そこの魔力溜まりから動かすと壊れるわよ。」
「えぇ~、融通聞かないなぁ。」
「そう言う物だからしょうがないでしょう、そもそもダンジョンコアの発生条件は魔力溜まりでまれに出来るくらいしかわかってないんだから。」
「ふーん・・・あれ?そういえば。」
千春はふと記憶を探る・・・
「ダンジョンコアは・・・システムに組み込まれたマナ収束装置。」
「え?」
千春の呟きにアルデアが声を漏らす、そして千春は名前を呼ぶ。
「アイトネー!」
『チハル、よく覚えてたわね。』
「あの馬とエステラの時に言ってたからね!最近だもん!で、アイトネはダンジョンコア作れたりする?」
千春はニコニコで問いかけると、アイトネはニコッと微笑み答える。
『もちろん♪』
「っしゃぁ!んじゃ近くにダンジョン作れる!?」
『ん~、今のジブラロールの魔力量なら作れるけれど、今あるダンジョンから結構離さないとダメよ?』
「どれくらい?」
『そうね、ダンジョンから王都までの距離で逆方向くらいならいけるわね。』
「ハルト、そう言う事らしい!どう!?イケる!?」
千春は楽しそうにエンハルトへ問いかける。
「逆方向か・・・チハル、その話、少し時間をくれるか?」
「もちろん♪」
「助かる。」
エンハルトは頷き立ち上がると、アルデアとアイトネに礼をし部屋を出て行った。
「んじゃ私もちょっと出かけて来るかぁ♪」
千春はそう言うと立ち上がる、そしてアイトネと目が合うと、嬉しそうにアイトネが答えた。
『新作のフラッペで良いわよ♪』
「1個でいい?」
『3個♪』
「りょ~♪ダンジョン1つにフラッペ3個か、安いもんだぁ~♪」
千春はそう言うと、まるで新しいおもちゃを手に入れたようにウキウキで着替えを済ませ日本に買い物へ行った。
「チハル、今良いか?」
「んー・・・いいよー・・・」
紙から視線を外さず答える千春にエンハルトは思わず笑みをこぼし、対面に座る。
「勉強か?」
「うん。」
千春は返事を返すと、紙をテーブルに置き、エンハルトを見る、そして大きく息を吐いた。
「はぁぁぁ~~~~。」
「根詰めなくても良いだろ。」
「だってぇ、やっぱり婚姻の儀は翻訳魔道具使わず行きたいじゃ~ん♪」
ニパッと笑いながら答える千春はお茶を口に含む、サフィーナはエンハルトのお茶を淹れエンハルトの前に置くと、エンハルトもお茶を口にした。
「で?なにか用事?」
千春が問いかけると、エンハルトはニコッと微笑み答える。
「用事がないと来てはダメか?」
「べっつにぃ~、いいけど?」
ぷいっと横を向き答える千春、エンハルトはサフィーナと目が合いクスクスと笑い合う。
「あ。」
千春は思い出したようにエンハルトを見て問いかけた。
「どうした?」
「ちょっと耳にしたんだけど、王都の犯罪が0だったって、本当?」
「ああ、正確に言うと、警備隊に上がるような犯罪は無かったという事だがな。」
「んじゃ0じゃないの?」
「自衛団で処理したり、各ギルドでの処分で終わるような喧嘩くらいはあった。」
「な~んだ。」
残念そうに呟く千春、だがエンハルトは答える。
「それでも凄い事だぞ、ジブラロール王国設立以来初だろう。」
「設立って・・・1000年前だっけ?」
「そうだ。」
「おー、それは凄いかもしれない。」
「かもしれないじゃなく、凄いんだがな。」
苦笑いで答えるエンハルト、そして話を続けた。
「だが、逆に警備隊が暇すぎてな。」
「良いじゃん、警察は暇な方が良いよ、こっちは警備隊だけど。」
「そうだな、あとは魔物が激減して、冒険者ギルドが困っているくらいか。」
「ありゃ、そうなの?」
「ドラゴンが空を飛び回っているからな、少しでも知能がある魔物は逃げるだろ。」
「そりゃそうか、それじゃダンジョンに行ってるの?」
千春が問いかけると、エンハルトは頷く。
「ああ、だがダンジョンも限界がある、他国からの冒険者も増えてきているが、最近は冒険者から職人に転職する者もいるくらいだ。」
「・・・そっちの方が安全だし稼げるね。」
「まぁな、だが冒険者ギルドとしても依頼をこなす必要がある。」
「肉確保とかね~♪」
「ああ、だから遠征で依頼をしているが・・・」
「んじゃ大丈夫なんじゃない?」
困ったように答えるエンハルト、千春は首を傾げ言うと、モリアンが千春に答える。
「遠出すると荷物あまり持って帰れないんですよぉ?」
「あ、そうか。」
「ああ、オークくらいになると、一匹持って帰って来るだけでも大変だ。」
「アイテムボックスみたいな便利魔法使える人いないもんね・・・いや、いるな。」
「ユーリンか、今遠征組に駆り出されて荷物持ちをやっているらしい。」
「おー・・・たいへんだぁ。」
他人事のように言う千春、そしてふと天井を見上げ声を掛ける。
「アルデア、いるー?」
千春が言うと、蝙蝠がピョコっと顔を出し降りて来る、そしてアルデアがあられた。
「なに?」
「ねぇ、ダンジョンの拡張とか出来ないの?」
「出来るわよ。」
「んじゃラミちゃんに言って拡張してもらったら冒険者のお仕事増えるんじゃない?」
千春の問いかけにアルデアは目を瞑り考えるが、苦笑いで答えた。
「拡張しても深層になると持って帰るのは大変よ?」
「・・・そりゃそうだ、あ!それじゃ新しいダンジョン作るとか♪」
千春はアルデアに問いかける。
「ダンジョンを意図的に発生させるのは無理よ?」
「そうなの?」
「ええ、色々な条件が重なって、ダンジョンコアが出来るの、そのコアにダンジョンマスターが色々と組み込む事でダンジョンが出来上がるのよ。」
「へ~・・・コアって作れないの?」
「無理ね、自然に発生した物を使うから。」
「どうやって?」
「魔石に魔法を組み込んで魔道具にするでしょう?」
「・・・うん。」
「その難しい版と思ったらいいわよ。」
「・・・へー。」
千春は空返事で返すと、アルデアは千春のおでこをポコンとチョップする。
「わかってないわね。」
「うん♪」
「ジブラロールにはもうダンジョンがあるでしょう、この近辺の魔力はダンジョンに流れているから、新しいコアは近くに生まれないわよ。」
「えー、そこをどうにか・・・あ、別のダンジョンからコア持ってきたらいいじゃん♪」
ポンと手を叩く千春にアルデアはもう一度チョップする。
「あでっ!ダメなの?」
「そこの魔力溜まりから動かすと壊れるわよ。」
「えぇ~、融通聞かないなぁ。」
「そう言う物だからしょうがないでしょう、そもそもダンジョンコアの発生条件は魔力溜まりでまれに出来るくらいしかわかってないんだから。」
「ふーん・・・あれ?そういえば。」
千春はふと記憶を探る・・・
「ダンジョンコアは・・・システムに組み込まれたマナ収束装置。」
「え?」
千春の呟きにアルデアが声を漏らす、そして千春は名前を呼ぶ。
「アイトネー!」
『チハル、よく覚えてたわね。』
「あの馬とエステラの時に言ってたからね!最近だもん!で、アイトネはダンジョンコア作れたりする?」
千春はニコニコで問いかけると、アイトネはニコッと微笑み答える。
『もちろん♪』
「っしゃぁ!んじゃ近くにダンジョン作れる!?」
『ん~、今のジブラロールの魔力量なら作れるけれど、今あるダンジョンから結構離さないとダメよ?』
「どれくらい?」
『そうね、ダンジョンから王都までの距離で逆方向くらいならいけるわね。』
「ハルト、そう言う事らしい!どう!?イケる!?」
千春は楽しそうにエンハルトへ問いかける。
「逆方向か・・・チハル、その話、少し時間をくれるか?」
「もちろん♪」
「助かる。」
エンハルトは頷き立ち上がると、アルデアとアイトネに礼をし部屋を出て行った。
「んじゃ私もちょっと出かけて来るかぁ♪」
千春はそう言うと立ち上がる、そしてアイトネと目が合うと、嬉しそうにアイトネが答えた。
『新作のフラッペで良いわよ♪』
「1個でいい?」
『3個♪』
「りょ~♪ダンジョン1つにフラッペ3個か、安いもんだぁ~♪」
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