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ガルド城の秘密
第88話-同志の証-
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目の前が爆発すると同時に視界は自分の盾にした上着と腕で覆われていた。
爆弾と言っても規模の大きいものでもない。小さな掌よりも小さな爆弾は主に地面を抉ってその飛散物で攻撃してくる。
だから空中で爆発した所で見た目以上の威力はない。そう自分に言い聞かせて守る腕に力を入れた。
足を地面に踏ん張らせる。息を止めて痛みを堪える準備をした。
爆破音と共に痛みと熱が腕に伝わってくる。
盾にした服も爆破の瞬間が終わるとボロボロになっていた。焦げた臭いが鼻につく。
幸い肉の焦げた臭いじゃない。それは盾にした服に効果があったと言う事だ。
そして前に走りだす。無言で、無心に、標的を逃さない様に、鋭く、妥協せず、痛みに負けず、煙に負けず。
視界は煙で遮られ、相手の姿は見えない。それでもいるはずだ。勝ったつもりでいる相手を目掛けて一直線に。
声が聞こえた。自分の勝利を確信した叫びが。
その声の元は目の前の方向だ。相手はその場を動いてない。
一歩二歩近づくとぼんやりと黒いローブが煙に揺れて見えてくる。
「何が見たいか知らねーが。お前の負けだ」
拳は硬く握りしめて、体重を右腕に込めて突き出した。
拳は男の左耳を掠めて空を切る。
間一髪の所で避けられた。ただまぐれなのは男の反応を見るによくわかる。そのまま反撃と言うにはお粗末な行動を取ってきた。
こっちに距離を詰めて来たが、体当たりをするでもなく、服を掴んで引っ張ってくる。
「うわっ!」
反射的に両腕で男の肩を掴んで引き離す。
それでも相手は手を離さない。
両腕にさらに力を込めてようやく引き離せた。俺の服を破りながら男は硬い砂利の上に尻餅をついて、地面を這う様に後ずさった。
「お、お前! お前もじゃないか!?」
男は俺の鎖骨部分を見てそう叫んだ。
何をどう言う意味で言ってるのか、俺には分かった。その通り、お前の言う通りだ。
俺の見られたくない部分だ。
上着ぐらいなら無くても大丈夫だろうと思っていたが、まさか思わぬ抵抗にあって服が破けるとは正直思っていなかった。
「その刺青はまさしく同志の証! なんでだ。私達は同じ志を持つ者。何故『魔法』を信じない不敬な輩と共に行動しているんだ!」
男が嬉々に見せてくる足首にある紋様。それは魔法信者である証、円の中に三角と縦1本の線の入った紋様が俺の鎖骨部分にも入れられている。
「俺たちは仲間だ。早く戻って不敬な輩に見せつけてやろう」
水を得た魚の様にベラベラと喋る男。一言一句に不快感が増していく。
「よく見やがれ。紋様の上から×って傷を入れてんだろ。恥ずかしながら『元』同志だ」
「何を言う。それは『魔法』を求めて探索したうちに出来た名誉の傷だろう!」
「自分の都合の良い様にしか現実を見ない所、昔の自分を見てる様で本当に嫌になるぜ」
地面に手をついたままの男の元へ迫る。もはや逃げる気も無くなったのか男はそのままの体勢で俺に何かを話しかけてくる。聞く気にもならない。耳に入ってくる音を聴かない様に感情を殺した。
「歯ぁ、くいしばれ」
左で男の首元を掴んでそのまま右拳を全力で振り下ろした。
放った一撃は男の腹に突き刺さる。
声にならない声を出しながら男は身体を小刻みに振るわせている。
「まだ意識あんのか。しぶとさだけは一丁前か」
意識を失わせるために男の背中側から首を二の腕で締める。
殺しはしない。ただ酸欠を起こさせる。ものの数秒で男の手から力が抜けていった。
「少し寝てな」
男からローブを剥ぎ取って来てみる。懐かしい感じがするのが複雑な気分だ。
鎖骨部分の刺青を隠すために来てみたが、前を閉じてしまえばそう簡単には見えないだろう。
こっちは片付けた。早くあっちに戻るために奥へと急いで走りだす。
爆弾と言っても規模の大きいものでもない。小さな掌よりも小さな爆弾は主に地面を抉ってその飛散物で攻撃してくる。
だから空中で爆発した所で見た目以上の威力はない。そう自分に言い聞かせて守る腕に力を入れた。
足を地面に踏ん張らせる。息を止めて痛みを堪える準備をした。
爆破音と共に痛みと熱が腕に伝わってくる。
盾にした服も爆破の瞬間が終わるとボロボロになっていた。焦げた臭いが鼻につく。
幸い肉の焦げた臭いじゃない。それは盾にした服に効果があったと言う事だ。
そして前に走りだす。無言で、無心に、標的を逃さない様に、鋭く、妥協せず、痛みに負けず、煙に負けず。
視界は煙で遮られ、相手の姿は見えない。それでもいるはずだ。勝ったつもりでいる相手を目掛けて一直線に。
声が聞こえた。自分の勝利を確信した叫びが。
その声の元は目の前の方向だ。相手はその場を動いてない。
一歩二歩近づくとぼんやりと黒いローブが煙に揺れて見えてくる。
「何が見たいか知らねーが。お前の負けだ」
拳は硬く握りしめて、体重を右腕に込めて突き出した。
拳は男の左耳を掠めて空を切る。
間一髪の所で避けられた。ただまぐれなのは男の反応を見るによくわかる。そのまま反撃と言うにはお粗末な行動を取ってきた。
こっちに距離を詰めて来たが、体当たりをするでもなく、服を掴んで引っ張ってくる。
「うわっ!」
反射的に両腕で男の肩を掴んで引き離す。
それでも相手は手を離さない。
両腕にさらに力を込めてようやく引き離せた。俺の服を破りながら男は硬い砂利の上に尻餅をついて、地面を這う様に後ずさった。
「お、お前! お前もじゃないか!?」
男は俺の鎖骨部分を見てそう叫んだ。
何をどう言う意味で言ってるのか、俺には分かった。その通り、お前の言う通りだ。
俺の見られたくない部分だ。
上着ぐらいなら無くても大丈夫だろうと思っていたが、まさか思わぬ抵抗にあって服が破けるとは正直思っていなかった。
「その刺青はまさしく同志の証! なんでだ。私達は同じ志を持つ者。何故『魔法』を信じない不敬な輩と共に行動しているんだ!」
男が嬉々に見せてくる足首にある紋様。それは魔法信者である証、円の中に三角と縦1本の線の入った紋様が俺の鎖骨部分にも入れられている。
「俺たちは仲間だ。早く戻って不敬な輩に見せつけてやろう」
水を得た魚の様にベラベラと喋る男。一言一句に不快感が増していく。
「よく見やがれ。紋様の上から×って傷を入れてんだろ。恥ずかしながら『元』同志だ」
「何を言う。それは『魔法』を求めて探索したうちに出来た名誉の傷だろう!」
「自分の都合の良い様にしか現実を見ない所、昔の自分を見てる様で本当に嫌になるぜ」
地面に手をついたままの男の元へ迫る。もはや逃げる気も無くなったのか男はそのままの体勢で俺に何かを話しかけてくる。聞く気にもならない。耳に入ってくる音を聴かない様に感情を殺した。
「歯ぁ、くいしばれ」
左で男の首元を掴んでそのまま右拳を全力で振り下ろした。
放った一撃は男の腹に突き刺さる。
声にならない声を出しながら男は身体を小刻みに振るわせている。
「まだ意識あんのか。しぶとさだけは一丁前か」
意識を失わせるために男の背中側から首を二の腕で締める。
殺しはしない。ただ酸欠を起こさせる。ものの数秒で男の手から力が抜けていった。
「少し寝てな」
男からローブを剥ぎ取って来てみる。懐かしい感じがするのが複雑な気分だ。
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こっちは片付けた。早くあっちに戻るために奥へと急いで走りだす。
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