悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました

葉月キツネ

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ガルド城の秘密

第94話-私の考えるべきこと-

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 ユリが時間を稼いでくれている、今のうちにバレルさんの手当をする。

「大丈夫じゃねぇけど、大丈夫だ。心配すんな」
「どっちなんですか! とりあえず動かないで、止血しますから」

 当然包帯などあるはずもない。だから私は自分のスカートの裾に手をかけた。

「待て、それは勿体ない」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよ!」
「それに……その程度じゃほとんど意味が……ない。だから手を貸してくれ……このローブ脱いで止血に使う」

 途切れ途切れの言葉が痛々しい。

「どうすればいい?」
「一呼吸したら合図するから、刺さったのを一気に抜いてくれ」
「分かった」

 刺さっている短刀に手を回した。
 柄の部分を動かさない様にゆっくりと掴んだ。

「息吐くからな、嫌だったら息止めとけ」

 バレルさんは大きく息を吸った。限界まで空気を肺と口に含んで、それを吐いた。

「今だ!」

 一気に力を入れて垂直に刺さっているものを抜いた。
 バレルさんのうめき声が痛々しくて堪らない。
 抜ききった所でローブを脱いで腰に巻いていく。

「これで終わりだ」
「無茶しないでください。でも……ありがとうございました」
「礼はいらねぇよ。俺は大人、嬢ちゃん達は子どもだ。当たり前の事をしただけだ。それよりユリ嬢の方も助けないとな、とりあえずフランソワ嬢だけでも先に逃げな。もう先を見る見ないの話じゃない」
「はい。だけどバレルさんはどうするつもりですか?」
「ユリ嬢も逃す。それだけだ」

 やっぱりそうだ。この人は自分を犠牲にするつもりだ。そんな気は薄々していた。

「ダメです。バレルさんも一緒に!」
「無茶言うな。腹に力入れて血を止めるのがやっとだ。出来ても2人を逃すのが限界だ」
「でも……」
「だったらよ。早く逃げて誰か呼んできてくれ。それならいいだろ」

 分かってる。その言葉が嘘な事ぐらい。ここから城にまで戻って人を呼んでくる。そんな時間、この手負いのバレルさんがもつはずがない。
 この中で無傷な私が何もできない。それが心底悔しい。
 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ。
 何か方法がないか、この場面をどう乗り越えるかを。自分達が有利な点を探せ。相手の不利な点を見極めろ。
 3人がちゃんと無事に城に帰れる様な策を捻り出せ!

「何あれ……」

 今を脱するための手がかりを求めて辺りを見渡して目に飛び込んで来たのは燃える剣だった。
 突拍子さに驚いてしまう。

「相変わらず……小手先の技術はすごいもんだな」

 そう漏らすバレルさん。呼吸自体はさっきほど荒れてない。
 鎖骨あたりにある古傷の痕が痛々しいそうだ。これまで色んな経験をして来てると言う事が体に刻まれている。

「どうしよう、早くなんとかしないと」
「隙を見て入り口に走れ。いいな、それが今出来る最善の策だ」
「でも……」
「でもじゃねぇ。あいつは手練れだろうに。作れても逃げる為の隙しかない。さっきの奴らみたいには出来ないんだ。分かってくれ」

 がっちりと両肩を掴まれて説得される。その両手に入る力に私はこれ以上有無を言えなかった。

「分かり……ました……」
「それならいい。先に俺が行く、入り口から頑張って離すから、走れ、振り向くな、ユリ嬢も絶対後から追わせるからな」

 今私がここに居ても仕方ない。それは理解した……つもりだ。納得もしている……つもりだ。
 私に出来る事は早くここを出て助けを呼ぶ事、それだけしかない。
 ここじゃなく、外での役割だ。

「よし、なら俺をよく見とけ、合図するからな。見逃すなよ」

 合図、相手の隙を見つけて教えてくれるらしい。何から何まで助けられてばかりだ。
 でも私も何とかして助けないと、外に出て全力で走る、無心に城まで走るんだ。それが私の役割。
 それだけを頭の中で考えた。
 だけど、私の手はバレルさんのベルトを掴んでいた。

「なんだ、怖いのか。気持ちは分かるが、ここは気合の入れどころだ」
「違う…違うの」
「だったら、どうした?」
「思いついた。一か八かの賭けを、これなら私達の有利な点を活かせる」
「どうしたんだ急に、いいから今は急ぐぞ」
「待って、今から手短に話します。それを聞いてバレルさんが行けると少しでも思ってくれたら、協力して下さい」

 この土壇場での思いつきを今私に出来る最善の作戦としてバレルさんに伝えた。
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