悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました

葉月キツネ

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嵐の来訪者

第231話-ウェルズの敗因-

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 横薙ぎの一振りを受けてウェルズはその場で蹲る。武器は手から離れ、空いた手は峰打ちの部分を押さえている。

「手加減したからそこまでひどくは無いだろ」
「い、痛い……。痛い痛い痛い!!!」

 痛みを和らげるためなのか声を上げるウェルズにさっきまでの面影はない。ただ滑稽で哀れな男がいた。

「お前の周りはもっと痛い思いしてたと思うぜ」
「手加減だとぉ。何様のつもりだぁ!お前は! お前なんかがぁ」

 こっちを睨むが凄みはない。ここまで来てこの虚勢が張れるのは才能だろ。
 剣の切っ先をウェルズに向けて近づけた。

「ひっ! や、やめろ!」

 情けないとしか言いようのない声を上げた。
 このまま軽く切っ先を肩あたりに当てたら死ぬんじゃないだろうなこいつ。

「お前さっき実戦経験ないって言ってたよな。それがお前の敗因だ」
「そんな事はない!」
「現にそうなってんだろ。お前実は弱いだろ」

 こいつと戦って得た結論だ。

「正確には違うな。お前は試合でしか勝った事無いだろ。しかも、手負い相手に」

 多分こいつは勝つ事に固執していた。だから勝てない勝負はしない。勝てる勝負だけして来た。それで固まった自信がさっきまでの勢いだったのかも知れない。

「試合だと木の棒だもんな。軽いし、当たっても死ぬわけじゃ無い。そりゃ、振りやすいし、突き技も早い、体力も持つ。なんなら攻撃食らう覚悟でこっちも攻撃出来るだろうな」

 さっきの突き技は前に見た時よりも格段に遅かった。槍捌きも大したことがない様に思えたのはそれだ。

「試合と実戦の差が分からなかったお前の負けだ」
「なんだ分かった様に! だったらお前はあるのか? 刃物を使ったやりとりが!」
「あるさ……。嫌なくらいな」
「嘘だ!」
「嘘じゃねえよ。死にそうな思いもした」

 そこまで言うと何も言わなくなった。
 誰がこの男をここまでしたのかは分からない。勝つ見込みのある場面だけを作る戦い方を教えたのか、それとも……周りが勝手にやっただけなのか。
 それを今はとやかく聞く気はしなかった。
 今はそんな事どうでも良い。結果としてお嬢を守れた。それだけで良い。

「ほんじゃ、お嬢の事は諦めろ。約束だ」
「ま、待て! それは……それは……」
「ここに来て反故にするのか?」

 ウェルズの反応に思わずイラッとした。
 言葉だけじゃない事を分からせるために剣の切っ先を手の甲に当てた。

「や、辞めてくれ。でも……でもだな」

 引き攣った表情とこっちに取り入ろうとする打算的な笑顔が混ざり合って変な事になっている。
 額に浮かぶ汗は疲れからの汗か、それとも冷や汗なのか、はたまた焦りからの汗なのかが分からない。
 この歯切れの悪い言葉は聞き覚えが山の様にある。下層のゴロツキも昔はこんな感じだった。
 そう言う奴らは決まって共通点があった。

「誰かに指示されてんな? 別に誰にとかは聞かねぇ。そんなのどうだって良い。だったらそいつに言ってやれ『フランソワに対する企みは失敗しました』ってな」
「い、言えない。言えるはずが無いだろう……」

 埒が開かない。もういっその事可哀想とかってのは抜きにしてこのまま切ってやろうかと思って来た。そうすりゃ話は早い。そしたらこいつに指示してる誰かが出張って来るかも知れねぇし。そっちも切ったら終わりだろ。
 と心の中で自分を納得させていたら、いつの間にかお嬢がやって来ていた。
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