limited short stories 限りなく短い物語

十時

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ある物語

敗者

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「負けた」

  コンマ数秒の世界だった。今もその世界の存在を感じることができる。伸ばした手、空気の感触、目一杯に神経を尖らした身体、目の前に迫るゴール。
  ほんの一瞬、勝ち誇ったように見えた笑み。
「なめんなよ」そう思った瞬間には、勝敗が決していた。
  勝つものも負けるものも、いる。それが勝負の世界。頭で圧し殺そうとしてもどこからか、弾き出される、喪失感。「ああ、世界を失うってこういうことなのか」声に出ていたのか。立ち尽くす僕の回りの反応が僅かに凍る。

  沈黙を破ったのは、耳に響く声だった。

「お客さん時間ですよ」

  ハッとする。バーテンダーの親父がすいませんねーと言いながら、ニヤリと笑った。すみませんなんて、思ってねえだろ。声にならない思いを圧し殺す。

「ああ......すまない」

  薄暗い店内。点滅する文字「space shift」。帰り支度をしている手を止め、客がどよめき色めき立っている。サッカーの実況が店内に響いていた。「惜しくも敗退!」。どうやら、夢を見ていたようだった。

  あと、少しで届きそうだったのに......。

  手を握る。強く握り、解放する。感触がまだ残っていた。勝利を手放した感触。

「お客さん、時間なんで」

  その声を無視して、小銭を差し出す。余韻にも浸らせてくれないのか。怒りで気が狂いそうだった。
  夢が手にはいるまで。あと一歩。

「全てはゼロになったんだよ」吐き捨てるようにつぶやいた。彼は店を飛び出した。
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