桜芽吹く日の約束

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桜芽吹く日の約束

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 3月9日。
 今日は、海星の卒業式。

 肌寒さはすっかり鳴りを潜めて、暖かな春がすぐそこまで来ているよう。
 ベランダから差し込む光を浴び、僕は部屋のベランダから外の景色を眺めていた。

『今から卒業式。終わったら、速攻会いに行く』

 30分ほど前に届いたカイのメッセージ。
 もう何度も見返して、その度に体の奥が熱く、鼓動は速くなっていく。

「カイ……」

 窓に手を当てると、太陽の光がじんわりと伝わる。
 光で輪郭がぼやけた手は、昔に比べて血色もよく、指の太さも健康的に見えた。

「お腹も、ペタンコじゃなくなった」

 お腹の感触を確かめつつ、ドキドキと脈打つ胸に手を這わせる。

 高2の時に、あることで不登校になって以来、僕は5年以上も引きこもり生活を送っていた。
 まだ外に出ることの抵抗は残ってる。
 けれどカイのおかげで、今では普通の生活は送れるようになった。
 
 (もう……我慢しなくていいんだ)
 
 カイと恋人同士になって1年。
 男同士で、当時カイはまだ高校2年生だった。
 5歳年の離れた僕との関係は、周りからみれば異質に見えるだろう。

 人は無意識に、自分と違うものを受け入れるのを拒む。
 ある日突然手のひらを返されるように、心ない言葉を投げ掛けられた経験が僕にはある。
 あんな辛い思いは、カイには絶対にして欲しくなかった。

 だからせめて、カイが高校を卒業するまでは体の関係は持たない。
 それにどれ程の意味があるかわからないけど、ひとつの区切りとして、僕らはそう約束した。

 自分から言い出したことだけど、僕の心は今、何とも言えない解放感と期待に満ちている。 

 ――そして、今日がその約束の日。

 ◇ 

 12時10分。
 
 何をしても手に付かなくて、僕は結局一人ベッドで布団にくるまる。
 棚の上の置時計の音だけが、シンとした部屋にカチカチと響く。
 僕は沸騰しそうな頭で、ただぼんやりと時計を見続けていた。

〈ピンポーン〉

「あっ! は、はい!」

 チャイムの音が聞こえた途端、僕は布団から飛び起きて玄関に向かう。
 心臓はドクドクと脈打ち、体は火が着いたみたいに熱くなった。

「……い、いらっしゃい」

 急いで玄関を開けて、目の前の恋人を見上げる。
 なるべく息を落ち着かせ、弾みそうな声もグッと堪えて。
 
 急いで来たせいか、カイは息を弾ませ、真っ赤な顔で僕に微笑む。
 その表情に、取り繕おうとしていたものは、全部どこかへ消し飛んでいった。
 
 お互い言葉も出ず、僕らはしばらく無言で見つめ合う。
 
「……アキ!」

 大きく息をして、カイは僕の名前を呼ぶ。
 そして肩に掛けた薄い鞄を床に放り、飛び付くように勢いよく抱きついた。

「わっ……カイ、ちょっと」

 突然の衝撃に足がふらつき、僕はその場にへたり込んでしまった。
 玄関を入ってすぐの廊下。
 カイはそんな事を構わず、僕を押し倒し唇を重ねていく。

「ぅんっ……む」

 上唇を食んだり、無理矢理こじ開けた隙間から、熱い舌がねじ込まれる。
 舌を吸ったり、歯の並び、上顎まで、カイの熱い舌が這い回っていく。
 
 今までのじゃれ合うようなキスとは比べ物にならない。
 体と心がゾワゾワとする中、夢中でカイの舌にすがりついた。

「……ふぁ……んん!」

 不意に、キスと共に股間に固いものが押し付けられ、自然と声が漏れ出る。

 (カイのも……すごく、熱い) 

 静かな部屋に、僕らの荒い呼吸音と、羞恥心を煽るような水音が頭に響く。
 飢えたカイの息遣いが耳から離れない。
 薄く目を開けると、切ない表情の奥に、獰猛な瞳が光っていた。
 怖さよりも、嬉しさと満たされた感情が確実にそれを上回る。

「ふぁ、ん……アキ……アキぃ」

 キスの合間、カイは切な気に僕の名前を呼ぶ。
 それと同時に、擦り付けるように腰を揺らして。

「はっ……はぁ……ぁん」 
 
 隔てた布は徐々に湿り気を帯びて、僕は必死でカイの背中に腕を回した。
 ふと、カイの制服のネクタイが頬を掠め、僕は熱くぼんやりとしたまま口を開く。

「せ、制服……シワになっちゃう」

 僕の言葉にカイは一瞬目を見開き、ニヤリと目を細めて笑う。
 
「いいって……俺、もう高校生じゃないんだよ?」
「あ……そっか」

 荒い呼吸のまま真面目に答えるカイに、僕は恥ずかしくて笑って誤魔化した。

「カイ……部屋に、行こ?」
「あ、はは……ほんとだ。流石に玄関じゃ、あ母さんに悪いよね」

 少し気持ちが落ち着いて、冷静になった僕たちは手を繋ぎ部屋に向かう。

 ――――
  
 今からしばらく前、僕の母は離婚した。 
 不登校になった原因が、同性と付き合っていた事と知った父は、僕をワンルームのアパートに住まわせた。
 その時母は反対してくれたけれど、結局その事で分かりあえなかったのが離婚の理由。

 それからは、母と僕の2人暮らし。
 僕は塾のバイト、母さんは介護施設で働きだした。
 母さんは僕たちの事を受け入れてくれて。今は毎日、本当に幸せだ。

 母さんには、今日カイが家に来ることも伝えてる。
 意味深な笑顔を残して仕事に出掛けたけれど、もしかしてバレているのだろうか。

 ――――

 部屋に入り、僕は窓の明るい日差しをカーテンで遮った。
 急に薄暗くなった部屋で、カイと2人でベッドに腰を降ろす。
 
「明るくてもいいのに」
「えっ……恥ずかしいよ」

 カイはニヤリと笑い、制服を脱ぎ、ネクタイを外す。
 シャツのボタンを外していく指を見つめていると、心臓が口から飛び出してしまいそう。
 目を逸らしたいのに、どうしてもそこから目が離せない。

「もう、そんな見ないでよ。エッチ」
 ボタンを外し終わったカイは、わざとらしくシャツを引っ張り胸を隠す。
 
「だ、だって」
「ふふ、いいよ。ほら、アキも脱いで」

 カイはシャツを脱ぎ捨て、僕のセーターを捲り上げて脱がしていく。
 そしてそのまま、覆い被さるようにベッドに倒れ込んだ。

「ん、んぅ……」

 優しく舌で唇を開かれ、カイは口腔内を愛撫する。
 混ざり合う唾液と、くちゅっと音を立てる舌。
 それに合わせて、カイは僕の胸に指を這わせる。

「はぁ……やっ、そこ」
「ここ、いい?」
「はぁっ、う、うん……あっ」

 荒い息のまま頷くと、今度は胸の突起を舌や指が刺激する。

 (こんな、とこが……気持ちいいなんて)

「あぁ! カイ……も、そこばっか……やめて」
「はぁ……アキ、腰揺れてる」
「え?」

 言われて初めて、物欲しそうに腰を揺らしているのが分かった。
 途端に恥ずかしくて、僕は緩く開いた足を閉じる。

「……だめ。隠さないで」

 カイは僕のズボンを脱がせ、閉じた足を無理矢理開く。

「ちょ、カイ」
「でも、脱がないと何も出来ないでしょ?」
「そ、そうだけど」

 ズボンを脱いで露になった自分の物に目をやる。
 そこはすっかり固く立ち上がり、先端は湿り布の色が変わって見えた。

 (は、恥ずかしいぃ~)

 僕の気持ちなど関係なしに、カイはそれを嬉しそうに見つめている。
 そして布の上から、立ち上がったそれを緩く扱き始める。

「うっ……やぁん」
「ふふ、濡れてきた」
「い、言わないでっ……あ、あぁン……やぁ、もう」

 くちゅくちゅと音をたて始めると、自然と声が漏れでて、お腹が切なく、何かが込み上げてきそうだった。
 するとカイはすぐに僕のパンツをずらし、直接僕に手で触れる。

「いいよ、出して」
「あぁ! あぅん……はぁ……はぁ」
 
 暖かい手の感触に、僕は呆気なく果ててしまった。
 息を整えながらカイを見ると、彼はニヤリと手に付いた僕のものをペロリと舐めとる。
 恥ずかしさと、いやらしさが入り混じって、体が熱く震えそうだ。

「ふふ、美味し」
「そ、そんなわけない」

 いやらしく笑うカイを直視できず、僕は思わず顔を背ける。
 カイは自分のズボンとパンツも脱ぎ、僕と同じ姿になった。

 無駄な肉が無く、引き締まった体。
 それを目の当たりにすると、僕は吸い寄せられるように彼の体に手を這わしていく。

「はっ……くすぐったい」

 漏れ出る甘い声に心は昂って、抱き合ったまま彼の立ち上がる中心を緩く擦る。

「ん……気持ちい、アキ」

 カイは腰を揺らし、固く熱いそれを僕に擦るつける。

「これ、一緒に握ってて」
「や……あ、うん」

 カイは僕の手と一緒に、2つの熱い塊を握る。
 そして、激しく腰を動かしていく。

「あ、あ、あぁ……んぅっ……カイっ……はぁ、むぅ……んんっ」

 同時に口の中も激しく吸われて、もう、頭がどうにかなりそう。
 カイの呼吸も荒く、時折漏れる甘い声に、説明しようのない幸福感を感じた。
 
「はぁ……俺も、イキそう」
「あぁ……んっ……ぼ、僕も……また、出ちゃ」

 その時、一際速く擦り上げられ、僕らはほとんど同時に溜まったモノを吐き出す。

「うっ……」
「あ、あぁぁんっ……ん……はぁ、はぁ……」

 その瞬間、視界が揺らぎ、目の前が真っ白になった。

「はぁ……え、あれ? アキ、おーい、アキぃ?」

 (何か……ぺちぺち頬っぺたを叩かれてるような……むぅ~……もう目が開かない)

 夢か現か分からない中、慌てたカイの声が遠くに聞こえたような気がした。

 ◇

「ん、んん~……」

 体を伸ばして目を開けると、部屋は真っ暗だった。
 不思議に思い顔を動かすと、隣にぴったりとカイが寄り添い眠っている。

 スースーする感覚に布団の下を見ると、2人とも素っ裸。
 それを見て、僕はようやくこれまでの事を思い出した。

 (確か……カイと擦り合いっこした後、そのまま)

 だらだらと冷や汗を垂らしていると、カイの体がもそっと動く。

「あ……起きた」
「え、あ……ごめん。僕、寝ちゃって」
「ほんと、これからって感じだったのに……残念」
「うぅ~……ほんとごめん」

 そう言いながらも、カイは楽しそうに笑う。
 でも僕は、せっかく今日まで我慢してくれたカイに、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 それに、僕自身も心待ちにしていたことだから。

 黙っていると、不意に優しい手がさらりと髪を撫でる。

「また今度、リベンジ」
「……カイ」
「だって、これからはいつでも……我慢する必要なんて無いんだよ?」

 イタズラに笑う少年のような顔。
 その笑顔に、僕も釣られて笑った。

「うん!」

 しばらく笑い合った後、カイはふと僕の耳元に唇を寄せる。

「……アキの声、凄く可愛くて興奮した」

 小声で囁かれ、僕の顔は火がついたみたいに熱くなった。

「も、もう! カイってば」
「へへ……さ、早く服着よ? お母さん帰ってきちゃう」
「え? もうそんな時間!?」

 慌てて服を着て数分後、母さんは帰ってきた。
 妙に赤い顔の僕らに気付いているのか分からないけど。
 その後はカイも一緒に晩御飯を食べていった。

 この幸せが、いつまでも続きますように。
 毎日が怖いほど満たされていて、そう願わずにはいられない。 
 


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