嘘と月

真夜中にて、乗り越え方

野崎 奈緒の日常

数年前の私は、首を切ったり手首をきったり
大量服薬をして何度も救急車に運ばれた。
死にたかった。婚約者とは離婚し、実家に帰り
唯一話を聞いてくれる人とよく話をした

その人は、ゆうきと言う名前だ。交通事故に遭って記憶を無くしたそうだ
それは私が入院しているときに彼の家族から聞いた話だ。私はアニメが好きで、入院中、彼が漫画や声優雑誌を持ってお見舞いに来てくれると言っていた。

昔私はその人に冗談で「キスしよう～」って言ったことがある。その人は狼狽えていた
その人が私を好きなのは分かっていた
私はその人ともっと沢山色んなところで遊びたかったからUSJに行こうって誘った。

その人は喜んでくれた。でも彼は交通事故に遭って記憶を無くしている
私はもう二度と会えないことが悲しかった

彼はギターが好きでアコースティックギターを教えてくれると約束してくれたことがある。

今私は楽器屋で働いている…特に理由なんてないけれど強いて言うなら
楽器には興味があった。彼の影響で

雲ひとつない青空の日、私は青天の霹靂と言うものを経験する。お店にゆうきくんがいた。でもゆうきくんでは無い。ゆうきくんという存在はもうない。
彼は、商品の試奏をしたいというので、このチャンスを逃さない為に、私はお得意のコミュ力で名前や連絡先を聞こうと考えていたけれど

彼は情緒不安定な表情をしていた
その時、私の存在を思い出してくれたのかな？と期待と不安でいっぱいになった

でも彼は試奏を断りそのまま帰って行った。また来てくれたらいいな…

2年前、私は生きることを決意した
そして今日運命というものを感じた。

ゆうきくんとは過去に、同棲の約束をしていたけれど私は入院してしまい、彼は交通事故で記憶を忘れ、全てが終わってしまった。
和歌山で一緒に暮らそうね、その約束はまだあるのだろうか、いや、もうないよね？


私は彼のことをイケメンと言っていたけど
彼は「そんなことないよ、俺カッコよくないし」
といつも自信なさそうで せめて私一人でも
カッコイイと思っていることに自信を持って欲しかった。

いつも「でもありがとうね」という

仕事終わり、そんな過去を思い出しながら
家に帰った。あなたのことを思い出しました。
夢の中でゆうきくんと一緒に薄っぺらい布団で寝たことがある。夢の中でいいから私は会いたい

そんなことは有り得ない。