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2.彼女を待ち続けた結果
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俺は自分をそこそこ積極性のある奴だと思っている。
あまり話したこともない異性が相手だとしても臆したりしない。
……だからって反応されないのに堪えることがないなんて、そんなわけがなかった。
場所は図書室。相変わらず貝塚は本に目を落としたままだ。
読み終わるのを待っていようと思ってはいたのだが、まったく顔を上げる様子がない。
気長に待とうと考えていたものの、辛抱できなかったのである。男に二言はないとか言った奴を俺は知らない。
なのでタイミングをうかがっては話しかけるを繰り返している。
しかし反応がない。
そろそろ自分の存在感に自信がなくなってきた。
いやいや、文学少女なんてこんなもんのはずだ。一度本に夢中になってしまったら他のことになんて意識がいかなくなる。
わかってる。俺はわかってる男だ。
これくらいのことでへこたれてはならない。
……でも、案外無視されるのって堪えるなぁ。正直話しかけたことを後悔してしまうほどだ。
だがへこたれている場合ではない。
せっかく見つけた彼女候補。逃してはならないと本能が訴えている。
図書室にかけられている壁時計を確認する。もう少しで下校時間だ。貝塚の対面に座ってからけっこうな時間が過ぎていたようだ。
その分貝塚を堪能することができた。普段だったらこんな近い距離から女子をじろじろ見ているなんてできないだろう。だからラッキーだったと思うことにする。
今までなんで注目されなかったのかと思うほどには顔のパーツが整っている。精巧に作られた人形のようだ。色白なのは外に出るよりも室内で本を読むことが多いからなのだろう。少し青白く見えるものの、それが守ってあげたくなる感情を引き出してこようとする。
他の誰でもない。俺が見つけたのだ。絶対にこのチャンスをものにしてやる!
クラスメートとはいえ話したこともない女子だ。それなのに我ながらなんとも強い感情を抱いたものである。でもそれが俺。恋はいつだって全力投球なのだ! 今までずっとそうしてきたのだから。今回だってそのスタンスは変わらない。
対面の席から貝塚を見つめ続け、ついに最終下校を伝えるチャイムが鳴った。
まばらにしか残っていなかった図書室の住人達が一斉に帰り支度を始める。図書委員も後片付けをしているようだった。
そんな中、貝塚は微動だにしない。わずかな目の動きで文字を追っているのがわかる程度しかない。
「おーい貝塚ー」
一応声をかけてみる。が、やはり反応がなかった。
まさかチャイムにすら気づかないとは。いつもこいつどうしてんだよ? まさか気づかないまま学校に残ってるわけでもないだろう。
しかしこのまま放置するわけにもいかないだろう。ほら、なかなか帰ろうとしないから図書委員が睨んでるよ。そりゃ迷惑だよな。
声をかけても無駄だろう。それはさっきまで散々やった。
仕方がないので席を立った俺は彼女の隣に移動する。
手をわきわきと動かす。いやこれはハレンチなことをしようとしているわけじゃないぞ! 女子に触れるための準備運動なのだ。……って誰に言い訳してんだ俺は。
そんなわけで改めまして、俺は貝塚に向かって手を伸ばした。
「おーい貝塚ー」
聞こえてないだろうが声をかけながら彼女の肩に触れた。
「ッ!?」
ビクンッ! と大げさに思えるほどに貝塚の体が跳ねた。俺もつられてビクンッ! てなった。
ばっと勢いよく顔を向けられる。驚愕に目が見開かれており、想像以上に大きな目をしているんだなと思った。
「よ、よう」
「……」
へ、返事がないぞ? おかしいな、今度は聞こえているはずなんだが。
一応返事を待ってみる。けれど返答もなにも彼女の声は発せられなかった。
クラスで貝塚がしゃべってるところは見たことないけど、しゃべれないってことはないはずだ。だよな?
ちょっと不安を覚える。その不安を振り払うように俺は口を開いた。
「えっと、下校時間になったぞ」
それを聞いて貝塚は時計の方に目を向ける。俺の言ったことが本当なのだとわかってか頭を下げた。
……これは「教えてくれてありがとう」って意味なのか?
いやいや、口で言えよ! ツッコミたかったがせっせと帰り支度を始めている彼女を見ているとためらわれた。
焦りすぎて声を出す間もなかったのか。強引にそう思うことにした。
まあいい。まずは彼女との接点を作るのだ。
これを機にいっしょに下校しよう。そう考えて貝塚が支度を終えるまで待った。
「なあ貝塚。これから帰るんだったらいっしょに――」
タイミングを見計らっていっしょの下校を提案する。
したのだが、貝塚は本を戻してカバンを持つと、駆け抜けるように図書室を出て行ってしまった。
あまりの速さにぽかんとしてしまう。
貝塚を文学少女的なインドア系と思っていたせいでこの速さに対応できなかった。バスケでマークしていた相手にドリブル突破された気分に似ている。しかも自分よりも圧倒的に下だと思っていた相手にだ。これはショック。
「っておいっ」
なんて考えてる場合じゃない。俺は慌てて貝塚を追いかけて図書室を出た。
だが、そこにはもう彼女の後姿さえなかったのである。
「せっかく長い時間待ってたのに……」
俺の苦労は水の泡。俺って奴は貴重な放課後という時間を削って何をやっていたのやら。
しかも貝塚の声すら聞いてないし。本当になんの成果もなかった。
あんまりな結果に、俺はしばし呆然と立ち尽くすことしかできなかったのである。
あまり話したこともない異性が相手だとしても臆したりしない。
……だからって反応されないのに堪えることがないなんて、そんなわけがなかった。
場所は図書室。相変わらず貝塚は本に目を落としたままだ。
読み終わるのを待っていようと思ってはいたのだが、まったく顔を上げる様子がない。
気長に待とうと考えていたものの、辛抱できなかったのである。男に二言はないとか言った奴を俺は知らない。
なのでタイミングをうかがっては話しかけるを繰り返している。
しかし反応がない。
そろそろ自分の存在感に自信がなくなってきた。
いやいや、文学少女なんてこんなもんのはずだ。一度本に夢中になってしまったら他のことになんて意識がいかなくなる。
わかってる。俺はわかってる男だ。
これくらいのことでへこたれてはならない。
……でも、案外無視されるのって堪えるなぁ。正直話しかけたことを後悔してしまうほどだ。
だがへこたれている場合ではない。
せっかく見つけた彼女候補。逃してはならないと本能が訴えている。
図書室にかけられている壁時計を確認する。もう少しで下校時間だ。貝塚の対面に座ってからけっこうな時間が過ぎていたようだ。
その分貝塚を堪能することができた。普段だったらこんな近い距離から女子をじろじろ見ているなんてできないだろう。だからラッキーだったと思うことにする。
今までなんで注目されなかったのかと思うほどには顔のパーツが整っている。精巧に作られた人形のようだ。色白なのは外に出るよりも室内で本を読むことが多いからなのだろう。少し青白く見えるものの、それが守ってあげたくなる感情を引き出してこようとする。
他の誰でもない。俺が見つけたのだ。絶対にこのチャンスをものにしてやる!
クラスメートとはいえ話したこともない女子だ。それなのに我ながらなんとも強い感情を抱いたものである。でもそれが俺。恋はいつだって全力投球なのだ! 今までずっとそうしてきたのだから。今回だってそのスタンスは変わらない。
対面の席から貝塚を見つめ続け、ついに最終下校を伝えるチャイムが鳴った。
まばらにしか残っていなかった図書室の住人達が一斉に帰り支度を始める。図書委員も後片付けをしているようだった。
そんな中、貝塚は微動だにしない。わずかな目の動きで文字を追っているのがわかる程度しかない。
「おーい貝塚ー」
一応声をかけてみる。が、やはり反応がなかった。
まさかチャイムにすら気づかないとは。いつもこいつどうしてんだよ? まさか気づかないまま学校に残ってるわけでもないだろう。
しかしこのまま放置するわけにもいかないだろう。ほら、なかなか帰ろうとしないから図書委員が睨んでるよ。そりゃ迷惑だよな。
声をかけても無駄だろう。それはさっきまで散々やった。
仕方がないので席を立った俺は彼女の隣に移動する。
手をわきわきと動かす。いやこれはハレンチなことをしようとしているわけじゃないぞ! 女子に触れるための準備運動なのだ。……って誰に言い訳してんだ俺は。
そんなわけで改めまして、俺は貝塚に向かって手を伸ばした。
「おーい貝塚ー」
聞こえてないだろうが声をかけながら彼女の肩に触れた。
「ッ!?」
ビクンッ! と大げさに思えるほどに貝塚の体が跳ねた。俺もつられてビクンッ! てなった。
ばっと勢いよく顔を向けられる。驚愕に目が見開かれており、想像以上に大きな目をしているんだなと思った。
「よ、よう」
「……」
へ、返事がないぞ? おかしいな、今度は聞こえているはずなんだが。
一応返事を待ってみる。けれど返答もなにも彼女の声は発せられなかった。
クラスで貝塚がしゃべってるところは見たことないけど、しゃべれないってことはないはずだ。だよな?
ちょっと不安を覚える。その不安を振り払うように俺は口を開いた。
「えっと、下校時間になったぞ」
それを聞いて貝塚は時計の方に目を向ける。俺の言ったことが本当なのだとわかってか頭を下げた。
……これは「教えてくれてありがとう」って意味なのか?
いやいや、口で言えよ! ツッコミたかったがせっせと帰り支度を始めている彼女を見ているとためらわれた。
焦りすぎて声を出す間もなかったのか。強引にそう思うことにした。
まあいい。まずは彼女との接点を作るのだ。
これを機にいっしょに下校しよう。そう考えて貝塚が支度を終えるまで待った。
「なあ貝塚。これから帰るんだったらいっしょに――」
タイミングを見計らっていっしょの下校を提案する。
したのだが、貝塚は本を戻してカバンを持つと、駆け抜けるように図書室を出て行ってしまった。
あまりの速さにぽかんとしてしまう。
貝塚を文学少女的なインドア系と思っていたせいでこの速さに対応できなかった。バスケでマークしていた相手にドリブル突破された気分に似ている。しかも自分よりも圧倒的に下だと思っていた相手にだ。これはショック。
「っておいっ」
なんて考えてる場合じゃない。俺は慌てて貝塚を追いかけて図書室を出た。
だが、そこにはもう彼女の後姿さえなかったのである。
「せっかく長い時間待ってたのに……」
俺の苦労は水の泡。俺って奴は貴重な放課後という時間を削って何をやっていたのやら。
しかも貝塚の声すら聞いてないし。本当になんの成果もなかった。
あんまりな結果に、俺はしばし呆然と立ち尽くすことしかできなかったのである。
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