5 / 5
5.ここから始まる
しおりを挟む
急にクラスメートの男子から話しかけられるようになった。
理由はわからない。私何かしたかな?
私に話しかけてくる彼の名前は佐々岡雄介くん。クラス内でお調子者のムードメーカー的な存在だ。そんな彼だからこそ私でも名前を憶えていた。
対する私は引っ込み思案で、なかなかおしゃべりできなくて二年に進級しても居場所を見つけられずにいた。
そんな私にどんな興味を持ったのか、本日急に佐々岡くんに何度も話しかけられていたのだった。
最初は本当に私に話しかけているのか疑っていた。これで実は他の人だったら恥ずかしいから。そんな失敗はしたくない。
でも、佐々岡くんは間違いなく私に話しかけていた。
それでも気の利いた返事なんてできなくて、もどかしくってしょうがなかった。
なのに、そんな私を佐々岡くんはお昼ご飯にまで誘ってくれた。
いつも一人ぼっちのご飯だったから嬉しかった。
でも、彼は目立つ人だから。クラスメートの女子から注目されて恥ずかしかった。
だから教室から出たくって、そう思っていたら佐々岡くんの方から場所を変えようって言ってくれた。
そうして、二人で教室を出て廊下を歩く。
並んで歩くのは恥ずかしくて、でもどこにいたらいいのかわからなくて、ずっと佐々岡くんの後ろを歩いていた。
どこに行くんだろう? お弁当は持ってきているけれど、学食にでも行くのかな。
気になって聞いてみたら、佐々岡くんも決めてなかったみたい。少しだけ考えた彼はこう言った。
「そうだな……屋上とかどうかな?」
※ ※ ※
初めて学校の屋上にきてしまった。
一応、うちの学校は屋上の出入りは自由らしいのだけど、いざ来てみたら生徒は誰一人としていなかった。
本当に来てもよかったのかな? そんな不安をよそに佐々岡くんはさっさとフェンス近くのベンチに座ってしまう。
さっき購買で買ったパンの封を開けてかじりついている。さすが男の子。食べ方が豪快だ。
「貝塚さん? 立ったままじゃ食べられないでしょ。座りなよ」
彼はそう言って隣を指差す。
「……」
横並びに座るしかないベンチ。当たり前だけど私が座る場所は佐々岡くんの隣しかなかった。
どどど、どうしよう! 男女二人きりでお昼ご飯を食べるのってその……恋人っぽくないかな!?
一人きりでお昼を過ごすのは嫌だったから思わずついてきちゃったけど、これはこれでハードルが高い。
どのくらいの距離感がいるんだろう? 男子の隣に座る時の距離感がわからないよ!
フラフラしながらベンチに近づく。
考えた結果、私は佐々岡くんの反対側の端っこに座った。
「なんか遠い……。もしかして俺って嫌われてる?」
「えっいやっ、違くて」
なんだか佐々岡くんがショックを受けたように見えてしまった。思わずといった形で彼との距離を縮めた。
「……」
……縮めすぎただろうか。
佐々岡くんとの距離は目算で十センチほど。ちょっと動けば肩が触れ合ってしまいそうな距離だ。
頭がくらくらする。なんでクラスメートの男子といっしょにご飯を食べることになったんだっけ? もう最初からわけわかんなくなる。
「まあ俺と貝塚さんってあんまり話したことなかったもんね。いきなりこんなところで昼飯食うつっても警戒されて当然か」
佐々岡くんがたははと笑う。
……もしかして誘ってくれたのって親切心なのかな?
私がいつも一人でご飯を食べているから。それがほっとけなかったとか。
こうやって顔を合わせて佐々岡くんとしゃべったことは今日までなかった。でも、クラスでの彼を私はある程度知っている。
クラスを明るくするムードメーカー。誰とでも分け隔てなくおしゃべりしているのを目にした。外から見ている私でも彼がクラスの中心の一人だってわかる。
そうか。そんな彼だから私を気にかけてくれたんだ。
佐々岡くんはクラスの端っこにいる私を放っておけなかったのだろう。
みんなを明るくしてくれる彼は優しいのだ。少なくとも、こんな私を気にかけてくれる優しさがある。
今日はまだまともに返事できていないけど、せっかく優しくしてもらったのだ。がんばろうと素直に思えた。
人に優しくされただけでそんな気持ちになるんだね。初めて知った気持ちは佐々岡くんのおかげだ。
まだぎこちないけれど、佐々岡くんともっと仲良くなりたい。まずはいっしょにお昼ご飯を食べよう。
ようやく、私の高校生活が始まったような気がした。
そして、私が彼の本当の気持ちに気づくのは、もうちょっと先の話なのである。
理由はわからない。私何かしたかな?
私に話しかけてくる彼の名前は佐々岡雄介くん。クラス内でお調子者のムードメーカー的な存在だ。そんな彼だからこそ私でも名前を憶えていた。
対する私は引っ込み思案で、なかなかおしゃべりできなくて二年に進級しても居場所を見つけられずにいた。
そんな私にどんな興味を持ったのか、本日急に佐々岡くんに何度も話しかけられていたのだった。
最初は本当に私に話しかけているのか疑っていた。これで実は他の人だったら恥ずかしいから。そんな失敗はしたくない。
でも、佐々岡くんは間違いなく私に話しかけていた。
それでも気の利いた返事なんてできなくて、もどかしくってしょうがなかった。
なのに、そんな私を佐々岡くんはお昼ご飯にまで誘ってくれた。
いつも一人ぼっちのご飯だったから嬉しかった。
でも、彼は目立つ人だから。クラスメートの女子から注目されて恥ずかしかった。
だから教室から出たくって、そう思っていたら佐々岡くんの方から場所を変えようって言ってくれた。
そうして、二人で教室を出て廊下を歩く。
並んで歩くのは恥ずかしくて、でもどこにいたらいいのかわからなくて、ずっと佐々岡くんの後ろを歩いていた。
どこに行くんだろう? お弁当は持ってきているけれど、学食にでも行くのかな。
気になって聞いてみたら、佐々岡くんも決めてなかったみたい。少しだけ考えた彼はこう言った。
「そうだな……屋上とかどうかな?」
※ ※ ※
初めて学校の屋上にきてしまった。
一応、うちの学校は屋上の出入りは自由らしいのだけど、いざ来てみたら生徒は誰一人としていなかった。
本当に来てもよかったのかな? そんな不安をよそに佐々岡くんはさっさとフェンス近くのベンチに座ってしまう。
さっき購買で買ったパンの封を開けてかじりついている。さすが男の子。食べ方が豪快だ。
「貝塚さん? 立ったままじゃ食べられないでしょ。座りなよ」
彼はそう言って隣を指差す。
「……」
横並びに座るしかないベンチ。当たり前だけど私が座る場所は佐々岡くんの隣しかなかった。
どどど、どうしよう! 男女二人きりでお昼ご飯を食べるのってその……恋人っぽくないかな!?
一人きりでお昼を過ごすのは嫌だったから思わずついてきちゃったけど、これはこれでハードルが高い。
どのくらいの距離感がいるんだろう? 男子の隣に座る時の距離感がわからないよ!
フラフラしながらベンチに近づく。
考えた結果、私は佐々岡くんの反対側の端っこに座った。
「なんか遠い……。もしかして俺って嫌われてる?」
「えっいやっ、違くて」
なんだか佐々岡くんがショックを受けたように見えてしまった。思わずといった形で彼との距離を縮めた。
「……」
……縮めすぎただろうか。
佐々岡くんとの距離は目算で十センチほど。ちょっと動けば肩が触れ合ってしまいそうな距離だ。
頭がくらくらする。なんでクラスメートの男子といっしょにご飯を食べることになったんだっけ? もう最初からわけわかんなくなる。
「まあ俺と貝塚さんってあんまり話したことなかったもんね。いきなりこんなところで昼飯食うつっても警戒されて当然か」
佐々岡くんがたははと笑う。
……もしかして誘ってくれたのって親切心なのかな?
私がいつも一人でご飯を食べているから。それがほっとけなかったとか。
こうやって顔を合わせて佐々岡くんとしゃべったことは今日までなかった。でも、クラスでの彼を私はある程度知っている。
クラスを明るくするムードメーカー。誰とでも分け隔てなくおしゃべりしているのを目にした。外から見ている私でも彼がクラスの中心の一人だってわかる。
そうか。そんな彼だから私を気にかけてくれたんだ。
佐々岡くんはクラスの端っこにいる私を放っておけなかったのだろう。
みんなを明るくしてくれる彼は優しいのだ。少なくとも、こんな私を気にかけてくれる優しさがある。
今日はまだまともに返事できていないけど、せっかく優しくしてもらったのだ。がんばろうと素直に思えた。
人に優しくされただけでそんな気持ちになるんだね。初めて知った気持ちは佐々岡くんのおかげだ。
まだぎこちないけれど、佐々岡くんともっと仲良くなりたい。まずはいっしょにお昼ご飯を食べよう。
ようやく、私の高校生活が始まったような気がした。
そして、私が彼の本当の気持ちに気づくのは、もうちょっと先の話なのである。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
この作品は感想を受け付けておりません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる