根暗男が異世界転生してTS美少女になったら幸せになれますか?

みずがめ

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一章 領地編

第5話 なんのために許すのか

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「……は?」

 誰かの呆けた声が聞こえた。わたしのじゃないのは確かだ。

「おいガキ。今なんて言った?」
「だから、あなた達は無罪ですって言ったの。難聴?」
「難聴じゃねえよ! テメー自分が何言ってんのかわかってんのか!?」

 なんで無罪って言ってるのに怒鳴られないといけないんだろうか。理不尽だ。

「俺たちゃ誘拐犯だぞ! わかってんのか!? テメーを誘拐しようとしてたんだぞ!」
「そりゃあわかってるよ。未遂だったけど」
「そういう問題じゃねえだろ!」

 だから怒鳴らなくてもいいのに。思わず耳を塞いでしまった。
 ぽんと肩を叩かれる。アルベルトさんだ。

「まあなんて言うか……こいつらの肩を持つわけじゃねえが、俺もそれはどうかと思うぜ」

 わたしの決定にアルベルトさんもやんわりと反対する。
 その反応は正しいと思う。わたしだって他人事ならそう思っていたはずだ。犯罪者は罰せられて当然。当たり前の常識だ。
 けれど、これはわたしの問題で、彼等は領民なのだ。

「アルベルトさん。あなたには感謝しています。すっごく感謝しています。でも、わたしはこの決定を取り下げる気はありません」
「お、おう。ちっちゃいのに意志がしっかりしているようで……、お兄さんびっくりだー」
 アルベルトさんをたじたじにさせてしまった。でもそれだけで、アルベルトさんからそれ以上言葉を重ねられることはなかった。
 男達の方を改めて向く。やっぱり睨まれている。
 負けちゃダメだ。これでもわたしは貴族で偉いんだから。貧乏だけど。

「あなた達は誘拐という罪を犯してしまった。でも、領民の落ち度はそれを治める領主の落ち度でもある」
「な……にを?」
「罪の理由はわかった。だったら、食べ物に困らない土地を作ればいいんでしょ?」
「そんなの……できるわけが」
「できる!」

 わたしは言いきった。なんの根拠もなく、なんの自信もなく、ただの願望を精一杯口にする。
 ばんっと胸を叩く。あばらの痛みを思い出したけど、歯を喰いしばってなんとか耐える。

「わたしは天才魔道士エルちゃんなんだぜ。わたしの魔法にかかればどんなことだってやってやるさ!」

 男達はしばらく沈黙した。
 ちょっとマズったかなと思ってきた頃、ようやく口を開いたのは剣を持っていた方の男だった。

「頼む! なんとかできるんだったらなんとかしてくれ!」

 頭を下げる姿はまさに土下座であった。彼は頭を地べたに擦りつけ、精一杯に懇願してきた。

「なっ……。こんなガキを信用する気か!?」
「ガキだろうがなんだろうがどうだっていいだろうがっ! もう、時間がねえだろうがっ!」

 男は泣いていた。苦しそうに、悲しそうに、大の大人がぽろぽろと涙を零していた。
 男は地面に頭を擦りつける。縄で縛られているために不格好ではあるが完全に土下座の形だった。

「お願いします! 俺の子供を助けてください!!」


  ※ ※ ※


 誘拐に使われた馬車を再利用してお家へUターンすることとなった。親切心からアルベルトさんも同行してくれている。ついでに彼の回復魔法であばらの痛みは綺麗になくなっている。魔法ってすごい。
 その間に元誘拐犯の男二人から事情を聞かせてもらった。ちなみに名前は剣を持っていた方がベドスで、持っていない方がバガンだ。

 ざっくりと説明しよう。
 ベドスの子供が病気で倒れてしまったそうだ。しかし、シエル領にまともな医者はいないし、それどころかまともな食べ物だって育たない。
 病気のため食欲もない。このままでは衰弱死してしまう。それに焦りを覚えたベドスはちゃんとした医者と食べ物を求めていた。
 けれどベドスはこんな辺境の地に住んでいるような人物だ。やっぱりというべきか、まっとうな働く場がなかった。

 そんな時だった。
 劣等貴族のシエル家から天才少女が現れたという話を耳にしたのだ。つまりわたしのことである。
 昔の悪い仲間であるバガンと手を組んでわたしの誘拐計画を実行したというわけだ。計画ではわたしを売り払って金をゲット。その足で医者と食料を調達して子供を治してもらう。子供の体力が回復してからシエル領から脱出しようとしていたそうだ。
 そんな悠長な計画で捕まりはしないのか。そう尋ねたところ、劣等貴族のシエル家じゃあそこまでの行動力はないとのこと。おろおろして体裁のため助けを求めることさえできないだろう、と言われた。お父さんお母さん、ごめんなさい。言い返せないわたしを許してください。

 まあそれはともかくとして、だ。
 重要なのはベドスの子供の病気を治すこと。それとこの枯れてしまった土地から食料を確保できるようにすることである。

 正直、難題にもほどがある。
 わたしは医者でもないし、枯れた土地をなんとかできる知識もない。前世でもっと勉強していれば違ったのだろうが、今言ったところで遅いにもほどがある。

 でも、今のわたしは魔法が使えるのだ。のだー!
 きっと奇跡は起こせる……はず。はずなのだ!
 魔法に大切なのはイメージだ。これは幼少の頃からやってきたことであり、その上達具合を見れば正しいのだろう。
 イメージ。そう、イメージするのだ。わたしがベドスの子供が元気になる姿や食物に満ちた大地を想像することができれば、きっとその通りになるはず。……何それわたし神様みたい。
 なんか自分の気持ちに正直になりすぎて安請け合いしちゃったかも。だ、大丈夫だよね?

「あ、あのよ……」
「ひゃいっ!?」

 急にベドスに話しかけられてちょっとだけ飛び上がってしまった。見ると頭をポリポリかいているおじさん。その顔は複雑なものだった。ちなみに剣はアルベルトさんが預かっている。一応ね。
 ついでにバガンが馭者をしている。あの人乱暴だから、離れてくれてほっとしたのは内緒だ。
 わたしの隣にいてくれるアルベルトさんは興味なさげにあくびなんかしてる。そう警戒するところでもないようだ。

「……怖い思いさせて、悪かったな」

 そう言って頭を下げるベドス。そこには真摯さがあった。ちゃんと心から謝ってくれているようだ。
 けれど、怖かったのは事実だし、ここで下手に気をつかうのは違うと思う。

「そうだね。怖かった、超ビビリました」
「……すまん」
「その罰はまた受けてもらうことにするよ。わたしのお願いなんでも一つ聞くとか」
「なんでも、か」
「そりゃあなんでもでしょうよ。覚悟することだね」
「ああ、なんでも聞くよ」

 それで会話終了。それから無言のままわたしは愛しの領地へと帰ってきたのだった。
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